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冬のある日のこと

「海に行こう」

冬のある日の深夜のこと。突然電話のベルが鳴り響く。iPhoneを見ると好きな人の名前が並んでいた。

きみからの着信。僕はボサボサ頭をかきむしりながら慌てて電話を取る。

真冬の海はとても寒いから行きたくなかったけど、きみの強引すぎる誘いを断れず、深夜1時から夜の海に行くことになってしまった。

僕の恋愛事情は今のところ3戦3敗。たとえ惚れてしまったとしても、うまくいかない。敗因は不明。わからないものはわからないといつも諦めていた。

2時間ほど車を走らせ、いつもの僕たちが行っているあの海へ。今日こそはと息巻いて、君を助手席に乗せながらくだらない会話で盛り上がる。

冬の海で見る星は言葉では表せないぐらい綺麗だね。

寒いけどいつまでも見ていたいと思える済み切った空だった。

星ときみ。どちらを見ればいいのかわからない。こういう時はきみを見るのではなく、星を見るべきなんだろうけど、あまりにも魅力的なきみが今日も僕を惑わせる。

星を見るきみに見惚れ、星を見るふりをして、僕は横目でなんどもきみをちら見しては、バレないようにとヒヤヒヤしていた。

何度か星を眺めるきみに見惚れていたから、もしかしたらきみに気づかれていたのかもしれない。でもきみの魅力が悪いから僕は何も悪くはないよ。

なぜか海の中に入っていこうとするきみ。「ばか」と言って、それを必死に止めようとする僕。

極寒の海に自ら身を投じるなんて正気じゃない。風邪を引いたらどうするんだろう?という気持ちだった。

靴とタイツを脱ぎ、スカートをめくりあげ、きみは1人海の中へ。

水の踊り子みたいにきみは踊る。まるで踊り子が舞うように、無邪気な子どもみたいにきみははしゃぐから、思わず笑みが溢れる。

無邪気にはしゃぐきみを見ていると僕に水がかかった。ちょっとだけムカついた僕はきみに水をかけ返し、ここからはもうお決まりの展開。

2人で水かけをして、濡れた服を見て本気で後悔。後悔からの大反省会。

後悔はしてるけど、楽しかったから許す。きみの笑顔を見るためなら、ある程度のことなら許せてしまうからずるいよね。

冬なのに水かけをしている僕らは、同時にくしゃみをした。

「楽しかったね」ときみが笑う。

すかさず「バカかよ」と返事をする。

健気なきみに呆れ、おかしくて笑ってしまった。寒くて凍えるきみは、暖かさを求め、車の中に戻る。

車に入り、暖房を効かせたが、冬の寒さは僕らを暖かくしてくれやしない。きみはあまりの寒さに暖かさを求め、僕の懐に入ろうとする。

幸せかよ。もうね、このまま死んでもいい。本気でそう思った。これが恋だということを確信した。

「このままどこかに連れ去ってやろうか」なんてことが頭をよぎる。

自販機で買った130円のホットココアを片手に、きみは僕をじっと見つめる。

僕は照れ臭くなって、きみから目線をそらす。目線をそらすたびに、目線を合わせようと躍起になるきみ。

きみがそっと目を閉じる。

ああそういうことかと僕はようやく状況を理解した。

きみを抱き寄せ、目を閉じるきみにそっとキスをする。

冬の海。きみとの初めてのキス。あの冬の夜の海で僕らは1人から2人になった。

甘美な夜。忘れられない青春の思い出。

きみの唇の感触を忘れてしまわないようそっと2人で帰路に着く。

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