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「愛がなんだ」のテルコの気持ちは一生理解できない

片思いの代表作品として、名を挙げた「愛がなんだ」。物語の率直な感想は「テルコの気持ちが全然わからない」だった。好きな人のために、自分の人生を簡単に犠牲にしてしまうテルコ。好きな人にいつ呼び出されてもいいように、仕事をやめ、好きな人の喜ぶ顔を見るためになんだって喜んでやる。そのくせして片思いは一向に報われない。

報われない片思いというやつは、他人からすれば儚いものである。当人は必死で悩んでいるのに、その思いが報われなければなんの意味もない。意味があると思いたい気持ちもわかる。他人を思う気持ちはとても素敵なことだけれど、思いが報われない人にずっと思いを寄せるよりも、自分を大切にしてくれる人に思いを寄せた方が幸せになれる。なんて口では簡単に言ってしまえるが、体が言うことを聞かないってのが片思いの辛いところだ。

報われないと知りながらも、好きな人に思いを寄せ続けた乙女の純真を弄んだ物語が「愛がなんだ」という物語である。

主人公は岸井ゆきのが演じる「テルコ」と、成田凌が演じる「マモル」だ。はっきり言って、どちらも救いようのないクズで、この恋がたとえ報われたとしても、きっとお互いが本当の意味での幸せを掴めないのだろう。テルコがマモルの我儘に従純になって、友人から「そんなやつやめときなよ」と言われている図が容易に想像できる。

その証拠に物語の中で、テルコは友人の葉子に「あいつはやめとけ」と何度も言われている。それでもテルコのマモルへの思いは止まることはなく、むしろ反対された方が燃えている。人間は反対されたときの方が燃えやすい。たとえそれが茨の道だとわかっていたとしてもだ。

まさに恋は盲目。でも、盲目になった状態の人間には何を言っても意味がない。大切なものを失って、そこでようやく気づくパターンが多いのだろうけれど、テルコの思いはたとえすべてを失ったとしても、止まらないのだろう。

僕が人生を犠牲にしてもいいと思える女性に出会ったことがないだけかもしれないけれど、それを差し引いても、テルコの気持ちは一生理解できない。「愛がなんだ」に救いを与えるとするならば
『ちゃんとした恋愛ってなんだろう?』と考えるいい機会にもなったような気がする。

双方にとってメリットのある恋愛が、ちゃんとした恋愛なんだと思ったし、それは傍から見ても双方にメリットがあると思われる恋愛だ。

たしかにテルコは報われなくても、幸せなんだと思う。傍から見れば、どうしても不幸せな女性に映ってしまうのに、幸せだと思えるあの強靭なメンタルは一体どこから来るんだろうか。恋愛はどの形が正解なのかはわからないけれど、客観的な視点から不幸せだと思われたその時点で、当人の思いとは関係なく、いい恋愛ではないと認定されるのがオチだ。

理想論を語ってみたものの、現実問題はテルコと同じような思いを抱えている人は多いはず。報われないと知りながらも、追いかけ続ける恋愛は地獄への片道切符だとも言えよう。だからこそ、報われないテルコの恋愛を応援したくなる人がいるのかもしれないし、報われない片思いをしている自分にテルコを重ねている人もいるのかもしれない。

好きな人にどれだけ酷いことをされようと、燃え上がった愛は消えはしない。それはまるで常軌を逸した愛だ。今日もどこかでテルコとマモルのような関係性を持った人がいるのかもしれないと考えると、なんだか居た堪れない気持ちになってしまった。

一方で、自分の感情に蓋をしないテルコを羨ましく思えた。素直な子は強いし、我が道を歩むテルコはきっと自己肯定感も強い 。それを別の何かに注げば報われるのにと何度も思った。テルコの素直さはすごいと素直に認めるけれど、好きな人のために仕事を放り出す真似は僕にはできない。「仕事と私、どっちが大事なの?」という質問。「そんなものは時と場合によるだろう」というのが率直な答えだ。これには賛否両論があるかもしれないけれど、どちらも大切なことには変わりはないし、そもそもそんな野暮な質問をさせないように普段からコミュニケーションをきちんと取っておくべきだ。

でも、テルコは「仕事と俺、どっちが大事なの?」といった質問に簡単に「マモちゃんだよ」と答えるのだろう。おそらく僕がこの質問をされた場合も同じ答えを導き出すんだろうけれど、きっとテルコの答えの内容とは違う。テルコみたいに好きな人のために仕事をやめないし、急な呼び出しには応えない。むしろ一緒に遊びに行くために仕事を続ける選択をする。これが一般の人間の思考回路だろう。テルコは好きな人のためなら簡単に自分を犠牲にできる。共感はできないけれど、愛は狂気だとこの作品を観ながら何度もそう思わされた。

きっとどんな恋愛も互いの思いが、同じ量になることなんてない。どちらか片方の思いが大きくなって、その差があまりにも大きくなった途端に、「重い」と思われてしまうにちがいない。誰もが愛の比重が重くなりすぎないよう互いに相手を思いやっている。とはいえ、1度走り出したテルコの足は止まらない。友人の制止をいとも簡単に振り払い、溢れんばかりの熱い思いがテルコにはあるのだ。

そして、テルコの熱い思いを逆手に取って、都合のいい女扱いをしたマモル。好きな人に対しては余裕がないくせに、好きでもない人には、片思いをしている側の気持ちを簡単に弄んでしまえるその滑稽さ。自分が好きじゃないからどれだけ傷つけたっていい。相手の気持ちなど1mmも考えないマモルの姿にはひどく吐き気を催す。

めんどくさい恋愛なんてきっとこの世には存在しない。誰もが恋人に対して、1度はめんどくさいという思いを抱いているはずだ。そこで終わるかどうかは、互いがめんどくさいとどう向き合うかに掛かっている。長続きする恋愛は、いつだってお互いの思いやりによって成り立つ。

どんな関係になったとしても、好きな人のそばにいたい。そう思える相手と出会ったテルコはきっと幸せ者だ。2人の結末はテルコからすれば、究極の愛の形を見つけた証でもある。

一方で、好きでもない女性にずっと付き纏われるマモルは不幸せ者だと思ってしまう。好きでもない、かつ体の関係を持った女性がずっとそばにいるなんてどう考えても嫌だけれど、思わせぶりな態度を取ったマモルにも責任はある。だから、2人の結末は2人が作り上げた最高で最低な結末なのである。

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