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マンガでわかるHCI: リサーチインターンってなに?

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こんにちは。今回は、友達のけいたくん(@Preferred Networks)に誘われて、マイクロソフトリサーチのアドベントカレンダーの12日目の記事として書きました。

僕は、過去に何度か大学や企業でインターンをしており、この夏には、マイクロソフトリサーチのレッドモンド本社でインターンをしていたりしていました。今回は、海外のリサーチインターンというのがどういうものか紹介してみたいと思います。

そもそもインターンってなに?

海外の大学にいると、インターンというのはほぼ当たり前のような存在になっていますが、日本の大学だともしかしたら馴染みがないかもしれないので、そもそもインターンってなに?という話から始めてみたいと思います。

インターンというのは、一言で言うと、大学生や大学院生が企業に3ヶ月なり6ヶ月なり短期でお試しで働くような制度のことを言います。日本でも似たような仕組みがもしかしたらあるのかもしれませんが、海外、特にアメリカの大学では非常に一般的になっています(正直、日本の事情はあまり詳しくなくてすいません...)

と言うのも、アメリカの大学では、夏休みが大体5-6月から3ヶ月もあり、その期間を利用して、働きに出ているのです。これは、学生にとっても、企業にとっても両方にメリットがあるシステムで、学生としては、給料をもらいつつ、将来自分が働きたい会社や職種がどういう場所なのか。というか、そもそも自分に合っているのかを見ることができますし、企業にとっても優秀な学生を見極められたり、そういった学生を卒業後にひきい入れやすくなります。

正直な話、就職活動で、1-2回の面接やましてやエントリーシートなんかでそもそも学生のことや、会社のことなんてわかるわけがないわけで、もしも入ってみて全然思ってたんと違うと思ったとしても、会社にとっても、学生にとってもコストが大きくなります。そういったのを防ぐために、インターンという制度を利用して、学生は夏の間、企業に働きに出るのです。

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特にコンピュータサイエンスの分野では、アメリカのいわゆるGAFAと呼ばれるようなテック系の企業には、毎年全体で数百人単位のインターンを取っており、夏の間だけ学生がわんさか働きに来ます。そして、夏が終わるとまた大学に戻り、授業や研究に励むという形になっているのです。なので、逆に大学のキャンパスは夏の間は、本当に閑散としています。

ちなみに、大学生や大学院生だけでなく、高校生もよくインターンをしていたりします。


リサーチインターンってなに?

コンピュータサイエンス、いわゆるIT系の企業のインターンは、大きくわけて二つカテゴリーがあります。

1. エンジニアインターン
2. リサーチインターン

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エンジニア系のインターンは、いわゆるソフトウェアの開発などをメインにやるところです。たとえばGoogleとかFacebookなどのインターンに行ったら、すでにあるサービスの開発(例えばYouTubeなり、Androidなり)をメンターの指導の元で一緒に開発したり、もしくは新しいプロジェクトを立ち上げるチームの一員としてシステムのプロトタイプを作ったり、といったことをやります。イメージ的には、ソフトウェアエンジニアと言う感じで、テック系のインターンは多分大部分はこっちで、主に、学部生や修士の学生などがこういったエンジニア系のインターンに行くことが多いです。

一方、学部生や修士の学生と違ってPhD課程の学生がよく行くリサーチインターンと言うものもあります。リサーチインターンは、自社のソフトウェアの開発とかはほぼほぼやりません。逆に、リサーチインターンでは、論文をpublishする(もしくは特許を取る)ことが主なゴールになり、やっていることは、大学での研究と大して変わりません

と言うのも、アメリカのIT系企業は、内部でリサーチ部門を持っているところが多く、そういうところにPhD課程の学生が夏の間だけ、インターンに行って、一緒に論文を書いてpublishする、と言うのがリサーチインターンになります。

今回のnoteでは、このPhD(博士課程)学生向けのリサーチインターンについて少し紹介しています。


リサーチインターン先にはどういうところがあるの?

分野ごとにリサーチのインターンを募集している企業は変わってきます。
例えば、最近のいわゆるAI系と呼ばれる機械学習などの分野では(コンピュータビジョンや、自然言語処理など)、企業の方がむしろ大学よりも論文の質や量で圧倒しており、例えば、GoogleやFacebook、Microsoft、もしくはOpenAIなどにリサーチインターンに行く人をよくみます。
逆に、ロボティクスなどの分野は研究開発自体は活発なのですが、論文をpublishすることを目的としたリサーチインターンは割と少ないイメージはあります。(どちらかというと、R&Dのようなイメージ)

僕がいるヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)と言う分野では、比較的論文をpublishするなど、リサーチにフォーカスしているところも比較的あり選択肢は狭くない印象はあります。
例えば、以下のようなところがPhD学生のリサーチインターン先としてよく見られます。

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- Microsoft Research(HCI全般、AR/VR、ハプティクス、AI、ウェアラブル、アクセシビリティ、IoT、クロスデバイスインタラクション、データ可視化、など --- Ken Hinckley、Merrie MorrisらがHCI系のトップ)
- Facebook Reality Labs(AR/VR、ハプティクス --- Hrvoje BenkoがHCI系のトップ)
- Adobe Research(クリエイティビティーツール、グラフィックス - Wilmot Li, Mira DontchevaらがHCI系のトップ)
- Google ATAP(センシング系、ウェアラブル、IoT --- Ivan Poupyrevがトップ)
- Google AI(機械学習、クラウドソーシング - 旧Google Research --- Alex OlwalやYang Li、Ed Chiなど)
- Autodesk Research(AR/VR、ファブリケーション、データ可視化、ソフトウェアUI/UX --- George Fitzmaurice、Fraser AndersonらがHCI系のトップ)
- Apple Research(センシング系、機械学習、アクセシビリティ --- Gierad Laput、Jeff BighamらがHCI系のトップ)
- Disney Research(ファブリケーション、グラフィックス、ロボティクス - 最近になりピッツバーグ等が閉鎖)
- Chatham Labs(センシング系、AR/VR - 最近Facebookに買収され、Facebook Reality Labs Torontoに変わった --- Daniel Wigdorがトップ)
- HP Labs(ファブリケーション、IoT - ここも最近閉鎖か縮小したっぽい)
- IBM Research(機械学習やアクセシビリティなど --- Chieko Asakawaさんなど)

こういった所は、CHIやUIST、SIGGRAPHなどに論文を出しており、リサーチのインターンとして働いて、メンターと一緒に論文を投稿すると言うのが一般的なワークフローになっています。


リサーチインターンに行く4つのメリット

学部生や修士の学生にとって、インターンはほぼ就活の一部のような形なので(例えば、Microsoftで働いてました、みたいなことがレジュメに書ける)インターンに行くメリットはわかりやすいですが、PhDの学生にとっては、自分の研究をすることが一番大事なので、インターンに行く必要自体は、実はないのです。自分の夏の3ヶ月間でインターンに行くよりも大学に残って研究した方が成果が出る、と思えばそっちを選択するのは全然あり、というかそうした方が個人的にはいいと思います。

それでも、PhDの学生に取っても、インターンに行くメリットは結構あって、理由は大きくわけて次の4つくらいになる気がしています。
1. 就職先を見極めやすくなる
2. ネットワークが広がる
3. 給料が出る
4. 論文を出せる

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1. 就職先を見極めやすくなる
日本で博士課程の学生というと、大学に残る選択肢しかないようなイメージがありますが(もしかしたら最近は変わってきてるのかもしれませんが)、実は、アメリカの博士課程の卒業後の進路はもっとフレキシブルで、印象としては、アカデミア(大学)が半分、インダストリー(企業)が半分くらいの印象です。(もしかしたら、インダストリーの方がむしろ多いかも)。

それは、別に必ずしもアカデミアのポジションが取れなかったと言うような消去法的な理由ではなく、インダストリーの方が肌に合っていた、と言うふうに単純に企業のリサーチに行きたいから行く、と言う人が多いです。なので、卒業後の進路として、企業のリサーチ部門に就職する、と言うのは非常に一般的なパスの一つなのです。

そういった時に、実際に一度、リサーチインターンとして企業で働いてみると、そもそも自分が企業研究に合っているのか、それとも大学のポストの方がいいのか、と言うのを見極めやすくなります。そういった卒業後のキャリアを考える意味で、リサーチインターンに行くメリットはあります。


2. ネットワークが広がる
また、1に少し関連しますが、ネットワークが広がるというのもインターンの大きな(もしかしたら一番重要な)メリットな気はします。

企業の研究所にも世界的に有名な研究者が多くいて、そう行った人たちと一緒に働けると言うのはもちろん、そうしたコネクションは、非常に重要な人的資産になることが多いです。
また、自分の卒業後の進路という意味でも、一度インターンをしているところは、比較的雇われやすくなります。というのも、先に述べたように、すでに一回一緒に仕事をしているわけなので、どこの馬の骨とも知らない別の志願者と比べたら、企業側としては、取りやすくなるのは当然です。

また、地味にこれが一番重要だったりしますが、メンターとの縦の繋がりだけでなく、インターン同士の横の繋がりで友達の輪が広がるというのはあります。GoogleやMicrosoftといったテック系のインターンには世界中のトップの大学からPhDの学生が来ていて、3ヶ月間、同じ釜の飯を食う的な感じで、その学生同士で仲良くなって遊びに行ったり、カンファレンスで再会して飲みに行ったりみたいなのはよくあります。
後にも述べますが、アカでミックなコミュニティは、知り合い同士のネットワークが非常に重要になってくるので、今後の何十年間か切磋琢磨していける友人を作れると言うのは、(個人的には)一番大きなメリットのような気はしています。


3. 給料が出る
あと、インターンと聞くと、アルバイトとかボランティアのような印象を受けるかもしれませんが、比較的、待遇もいいのです。

と言うのも、3ヶ月間は、学生と言えど、一端のリサーチャーとして雇われているわけなので、ちゃんと正規の職員と比べてもそこまで変わらないようなベースの給料が出ます。(もちろん、ストックオプションやベネフィットなどは少ないので、そう言うのも含めて入れるとフルタイムで働いている人の方が多いですが)

例えば、Glassdoorというサイトで、Microsoft Research InternとかGoogle AI Internとかで調べるとカンタンに出てきて見れると思いますが、目安としては、大体月に7000-8000ドル(州にもよりますが、手取りで6000-6500ドルくらい?)というのが一般的かと思います。それにプラスアルファで、家賃の補助(3ヶ月で3000-7000ドルくらい)みたいなのがつくような感じです。
アメリカの大学の場合は、PhDの学生は大学からもらう給料が、大体2000-3000ドルくらいが一般的だとは思うので、まぁ金銭的な面では、やはり企業のインターンの方がいいので、出稼ぎ的な感じでリサーチインターンに行く学生も多いです。笑

あと、他にも美味しいランチが無料だったりするのが、地味に重要だったりします。笑 Googleは有名ですが、Adobeのランチは素晴らしかった。過去に聞いたハックでは、Microsoft Research Redmondはランチが出ないので、隣のFacebook Reality Labsのインターンの学生と仲良くなって、ランチだけたまにFacebookに食べに行くみたいな話は聞きました。笑
ちなみに、ベイエリアやシアトルなどは色々な会社のリサーチ部門が集積しているので、会社を超えて別のインターン友達たちと飲みに行ったりもよくしていました。


4. 論文を出せる
3ヶ月間高い給料をもらったとしても、自分の研究にプラスにならないようなインターンだったら、研究中心のPhD学生に取ってはインセンティブとしてはほぼゼロだと思います。リサーチのインターンでは、自分が行った仕事が論文の形で世に出せるので、そこも重要なメリットになります。逆に、PhDの学生がエンジニア系やソフトウェア開発系のインターンに全く興味がないのは、このためです。

特に、リサーチインターンの3ヶ月間、集中して研究して、トップカンファレンス(例えば、僕の分野だとCHI/UISTなど)にpublishすることができれば、かなり時間対効果は高いです(もちろん、インターン後に共同研究を続けるパターンも多くありますが)。

なので、PhDの学生としては、もしも自分の研究興味とマッチしていれば、給料ももらえ、ネットワークも構築できて、かつ論文を出せるという、一度に3度美味しい機会になるのです。


逆に、インターンに行くデメリットもあります。それは、interest mismatchです。要は、自分のやりたい研究ができないのであれば、あまりリサーチインターンをやるメリットはない気はします。というか、そういう場合双方が不幸になるので、行かない方がいいと思います。(僕も同じ理由で、最初の頃は企業のインターンよりも自分の興味がある大学でインターンをしてたりしました)

あとは、リサーチという名のつくところでも、結構シークレットなところもあったりして、そう言うところは論文を出すことにあまり積極的ではなかったりもします。
別に、最初から論文publishしなくてもいい、と言うのであれば別にいいのですが、リサーチができると思って行ったのに、実態はどちらかというとエンジニア系のインターンのような感じだった、と言うようなケースもあり、そう言うところは研究志向の学生に取ってはあまりいい噂は聞きません。(例えば、Amazon Roboticsとか)

なので、そういうところも含めて、自分の興味とよくあった、メンターやインターン先を選ぶのが基本的には一番重要かもしれません。


リサーチインターンの採用プロセス

ここまで読んで、リサーチインターン行きたい!と思った人もいるかもしれないので、一応、インターンに応募するプロセスも書いておきます。

大体夏のインターンの場合、10-12月ごろに募集が出て、オンラインのアプリケーションフォームのようなものが出回り出します。

なので、そこに自分のCV(レジュメ)とかを添付して応募する、というのが一般的な流れかと思います。

が、これは表向きの話です。

ぶっちゃけた話、そう言うオンラインで応募されたアプリケーションは数が多すぎてあまりちゃんと見てないと言う話はよく聞きます。(少なくとも一グループで200-300通くらい来たりするので)

実際のところは、
- すでに知っている学生に直接コンタクトをして選ぶ
- すでに知っている大学教授に直接コンタクトをして選ぶ
- すでに知っている論文の著者の中から直接コンタクトをして選ぶ

と言うように、「知り合いベース」、もしくは「研究を通じて知っている人ベース」で選んでいるケースがかなり多いような気はしています。

実際、僕の場合も、過去5回のインターン(企業2回、大学3回)のうち、
- Adobe Research: ある日、知り合いからメールが来たので、返信して決定
- Microsoft Research 前回: ある日、知り合いからメールが来たけど、夏は予定があったのでお断り
- Microsoft Research 今回: カンファレンスで話して、後日メールで決定
- 東京大学: カンファレンスで話して、後日メールで決定
- スタンフォード大学: カンファレンスで興味があるか聞かれて、その場で決定
- UCバークレー: 知り合いだったので、メールで聞いて決定
- Autodesk Research: 知り合いだったので、メールで聞いて決定(ただカナダだったので、アメリカのCPTビザが使えず断念)

というように、ほぼほぼ知り合い経由か、カンファレンスで会って、みたいなケースが多いです。一般的には、直接知っているケースも少ないと思うので、僕の場合は少し特殊かもしれませんが、そうじゃなくて、例えば指導教官が知り合いで、指導教官経由で紹介してもらって、というような場合もかなり多いです。

先に言ったように、アカデミアは大学・企業によらず、かなりネットワーク社会なので、リスクヘッジと言う意味でも、そういう知人や個人的なネットワークに頼ることは多いように感じます。(仮に僕が選ぶ立場だとしても、おそらくそうする)

実際、僕も、最近PhDを卒業して、Assistant Professorとして学生を指導する立場になりましたが、上であげたような企業のリサーチ部門(Google, Facebook, Microsoft, Apple, Adobe, Autodesk等)には、大体知り合いがいるので、インターンに興味があるという学生を知り合いにコネクトして、インターン生を送り込んだりもしています。(本当はカンファレンスで紹介してもらうのが一番効率がいいですが、今はリモートなので。)

もちろん、知り合いだとしても興味分野が違う人は取らないと思いますし、別に知人の紹介とかでなくても、プロジェクトの興味が非常に近い場合は、取ることもあると思います(実際、そういうケースも聞いたことはあります)

また、それとは違い、自分が取りたい学生を論文ベースで探す、と言うケースもよく聞きます。例えば、「CHIやUISTで見たこの論文は、今進めているプロジェクトと非常に親和性が高いから、ちょっとインターンに興味があるか聞いてみよう」と言うようなケースです。

例えば、メンターとなる人は、大体3-5つくらいインターンとして夏にやるプロジェクトのイメージはざっくり持っている場合もあったりして、それに合う人を探しているケースもよくあります(まぁそう言う場合、大抵は大学の指導教官が知り合いだったりするケースは多いですが)。なので、過去に見た論文を元に、メンター側からアプローチしたり、すでに似たようなことをやっている大学の教授にアプローチして、こういう分野に興味がある優秀な学生がいないかを聞くのが早いのです。

なので、もしも直接の知り合いがいなかったら、指導教官とかに聞いてみたり紹介してもらうのが一番早いかもしれません。もしくは、自分のやってることとベストマッチするような人がいれば、直接メールなりを出して自分を売り込むといいと思います。(そう言う場合、できるだけ若い人にメールした方がいいと思います。シニアの人はそう言うメール多すぎるし社内の仕事も忙しかったりして、ほぼメールの返信はないと思うので)


Microsoft Researchとは

少し一般的な内容が多くなりましたが、今回はマイクロソフトリサーチインターンのアドベントカレンダーということで、少しMicrosoft Researchについても紹介したいと思います。

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Microsoft Researchとは、その名の通りアメリカのマイクロソフト社のリサーチ部門なのですが、元々ビルゲイツの肝いりで始まりました。Microsoft Researchのユニークな点は、既存のプロダクトやサービスとは完全に独立している部署だと言う点です。つまり、既存のプロダクトと全く関係ないことをしてもいい、完全にピュアなリサーチ部門で、かなり大学の研究所にイメージが近いです。

実は、マイクロソフトには、もう少しプロダクト寄りのリサーチ部門(いわゆるR&D的なやつ)をやるMicrosoft Nextというのが別にあるので、Microsoft Researchは、ほぼ大学のような感じでかなり自由に研究をしている雰囲気があります。
なので、結構long-termで先進的なこともやってたりして、一方でそういったものが少しずつspilled outして、全く新しいプロダクトにもつながっていたりもします(例えば、KinectやHololensなども、Microsoft Researchの研究プロジェクトが元だと思います。確か。ちょっとうろ覚えですが。)

なので、Microsoft Researchは結構いろんなアカデミアの分野で突出していて、特に、画像認識や自然言語処理、また僕がやっているHCIの分野でも、ものすごいプレゼンスを誇っています。特に、HCIの分野では、並み居る大学を抑えてもしかしたら一番publicationがある気はします。(ヒューマンコンピュータインタラクションの分野で世界一は、おそらくカーネギーメロン大か、ワシントン大か、トロント大あたりだと思いますが、たぶんここらへんよりも下手したらpublicationが多い気はします)。

Microsoft Researchは世界に何個かあり、本社のRedmond(ワシントン州でシアトルの近く)をはじめ、Cambridge(イギリス)、北京(Microsoft Research Asia、略してMSRAと呼ばれる)などにあります。(あとたしか、インドのバンガローとか他にもちらほらある。)

僕は、この夏(2020年の夏)にMicrosoft Research Redmond本社での3ヶ月間インターンでした。

この、Microsoft Research Redmondは、マイクロソフトの本社がある、Redmondという緑溢れた素晴らしい街にあります。(僕は個人的にはシアトルよりも、Redmond/Belleviewエリアの方が断然好き)。

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このMicrosoft Research Redmondは、Building 99という有名な建物に入っているんですが、このBuilding 99は、全てのMicrosoft Researchの人、つまり機械学習や画像認識などAI系の人からソフトウェア工学、HCI、組み込み系まで、MSRのリサーチャー全員が同じ建物の中で働いています。またBuilding 99の建物自体も素晴らしく、オープンなスペースで自然とコラボレーションがしやすいような作りになっています。一階に、メイカースペースなんかもあって、僕もここで働けるのを楽しみにしていました。

が、なんと今回はコロナにより自宅からのリモートインターンになってしまいました。笑 なんとも残念な話です。笑(Building 99自体は、何回かvisitしたことがありますが)

とはいえ、僕の友人は、結構インターンが中止になっていたりしたので、中止にならないだけ良かったですが。(ちなみに、アメリカ国外の学生は中止か来年に持ち越しになったようです。おそらくビザの関係かと思いますが)

Microsoft Researchのウェブサイトに行くと、研究者や研究のカテゴリーが多すぎて誰がなにをしているのか全然把握できていませんが、HCIのカテゴリーに特化すれば

- Ken Hinckley / Bill BuxtonのEPICグループ(AR/VRや触覚インターフェイス、クロスデバイスインタラクション、データ可視化など)
- Meredith MorrisのAbilityグループ(アクセシビリティ)
- Andy Wilsonのグループ(AR系など)
- RISEグループ(ソフトウェアエンジニア系、IoTや組み込みなど)

が主なグループになっています。他にも最近、Tim BallらがFuture of Wearablesなどの部門を始めたそうなので、ウェアラブルやユビキタスコンピューティング・センシング系もあると思います。

僕は、EPICグループのVR/ARなどをやっている、Eyal Ofek、Mar Gonzalez Franco、Mike Sinclairらと一緒にやってました。

同じグループには、スタンフォードの学生、UC Berkeleyの学生が二人、UCLの学生、ワシントン大の学生が二人、とかがいました。半分くらいは元々の知り合いだったのでいいんですが、本当だったら一緒の場所で働いて彼らとも、もっと親睦を深められたはずだったので、そこがちょっと残念。

↑ ちなみに、かなりどうでもいい話ですが、Microsoftの社内向け倫理トレーニング動画のクオリティがすごかった。


リサーチインターンのゴール:3ヶ月間で論文投稿

先にも言いましたが、リサーチのインターンの場合はゴールがほぼ「論文をsubmitする」というケースが多いと思います。タイムラインは、分野によって本当に違うのでなんとも言えないですが、僕の分野の場合だと
- 5月の中旬から6月にかけてスタート
- 3ヶ月で大体終わらせる
- 残りの1ヶ月とかで論文の執筆や残りをやって9月中旬のCHIに出す
というのが、ほぼほぼ固定のワークフローだと思います。(冬の場合だと、1-3月でインターンをして、4月のUISTに出す)

なので、3ヶ月で、アイデア出し、実装、システムの評価、論文の執筆、ビデオ撮影の全てをやり切る感じになります。少なくとも、僕の今までの過去5回のインターンは全てこういうタイムラインでした。

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人によっては、3-4月くらいから少しずつアイデアを固める部分は先にやるケースもあるようですが、僕は特に今回のインターンは5月のインターンが始まる前の週にPhDディフェンスとかをやっていたので、そんな暇はなく、5月の最初の日に、「じゃあこの夏なにやろうか」というゼロスタートから始まりました。

ちなみに、今回の夏のMicrosoft Researchインターンでのタイムラインは

- 5/18にスタート
- 1週目:大体10個くらいはアイデアを出して8個くらいをつぶして残り2個にフォーカス
- 2週目:行けそうなアイデアの関連研究を70個くらい洗って新規性があることを確認 + スケッチとコンセプトビデオを撮って作るものを具体的に固める + このデモができればOKというイメージを固める
- 3週目:プロトタイプの可能性を検証。1週間で3-4回くらいかなり粗いプロトタイプのサイクルを回して少なくとも不可能ではないことを検証
- 4-10週:作る
- 11-12週:動画を撮る + 内部プレゼンで発表
- 12週以降:CHIに向けて論文を書く + ユーザースタディ + 投稿用ビデオ

と、大体2ヶ月半くらいで全部終わらせるような感じでした。なので、結構大変と言えば大変ではありました。(実は、最初2つのプロジェクトを同時並行でやって両方完成させる予定ではあったのですが、タイムライン的に難しくなってきたので、途中で1個にフォーカスしました。)

ちなみに、ここで出した論文は、絶賛査読中なのですが(今週とかに返ってくる?)多分、落ちた気がするので、まぁUISTあたりに再投稿することにはなりそうです。

このように、インターンと言っても、何か与えられたものをただこなすと言うのとは全く違い、自分がリーダーとしてプロジェクトを引っ張って苦ことになります。メンターはどちらかと言うとサポート役です(もちろん人にもよりますが)。なので、そういった自主的に研究ができる人でないと中々こういった短期的にやるのは難しい面もあります。

逆に、よく見受けられる失敗例としては、いろんな人の意見を聞きすぎて1ヶ月、2ヶ月経っても、なかなか方向性が定まらないケース。これは、学生としてもメンターとしても辛い感じになってしましいます。

僕が、もしも一つこれからインターンをする人にアドバイスをするとしたら、「人の言うことを聞かない」。これに尽きると思います。笑

例えば、最初にプロジェクトの方向性を決める時でも、ある程度意向は汲み入れた上で、「今回のプロジェクトではこれをやっていくことにするからサポートよろしく」くらいな感じでいいと思いますし、ウィークリーのミーティングとかでも、ひたすら色々意見を聞いた上で、「了解。ただ、そこら辺は全部短期で実装するのは難しいから、とりあえず目先の一番重要なやつとして今週はこれとこれを終わらせるから、そこが終わってからもう一回考えよう」的な感じで、自分で手綱を握ってやっていくことが短期決戦の場合は特に大事です。(さいあくメンターがいなくても回るくらいの勢いで)。

おわりに

今回は、主に博士課程の学生向けのリサーチインターンについてざっくりと説明しました。
日本人の博士課程の学生には優秀な人がいっぱいいるはずなのに、あまりインターンで一緒になったことが見たことがないので、もう少しこういったチャンスを生かして興味がある人は積極的に利用するといいと思います。

正直、アジアの中でも中国人や韓国人などと比べると、日本人は圧倒的に少ない気はしますね。一つ象徴的だったのは、Adobeのリサーチインターンに行った時、インターンの部屋の一つが7-8割中国人で部屋の公用語がもはや中国語になっていました。笑(もちろん、アメリカに留学している中国人も多かったですが)なんというか、アカデミアの縮図を見た気がしました。笑

また、これは特に若い人に伝えたいですが、アメリカでは高校生でも結構インターンをしたりしています。実際、僕のいたMicrosoft Researchのチームにも、地元の高校生が一人、僕ら博士課程の学生に混じって研究開発のインターンをしていました。(彼女らに給与がどういう形で発生しているのかは謎ですが)

これは、なにも企業に限らず、大学の研究などでも同じで、実際僕も博士課程在学中に合計2-3人ほど高校生のインターンを面倒見て、一緒に論文をpublishさえしたりしました。
アメリカの高校生は、特に、大学受験においてもこうしたextracurricularな活動が重視されると言うこともあり、かなり積極的にやっている印象があります(特に優秀な学生)

日本の高校生はもしかしたら、受験勉強で忙しくてそんなことをやってる暇なんてないのかもしれませんが、海外ではこのように、インターンなどを通じて自分のキャリアのゴールを見つけることも一般的ではあったりするので、もしも興味があれば選択肢の一つとして考えてみてください。


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