卸さんに育ててもらった

薬局の現場で24年。
いろいろな問題やトラブルが起こる続け、その解決をし続けるのが薬局という現場の大きな仕事です。
問題を探し続ければいくらでも見つけられる。解決することで感謝の言葉をいただける仕事です。

狭い店舗の中にいると分からない地域周辺の情報をどうインプットしていくか。
経験則によれば私の場合、インプットの源は大半患者さんと卸さんだったように思います。

24年前、何となく調剤薬局の仕事に就き、あたりまえの様に行なわれていたのは「卸さんは店舗へ直接やってきて注文を聞いて行くこと」でした。
外来がおわった午後は卸さんと店舗の管理者や事務さんがたわいもない話をしながら「そこに注文するもの置いてあるから」と卸さんに言い、それをメモしていく流れでした。
「勘」ピューター発注、というよりも管理者の思うがままの発注だったような気がします。

卸さんとは良くご飯にも行きました。
メーカーさんやクリニックのスタッフさんも交えて。
狭い世界の中、店舗以外の人との接点を作り、仕事がスムーズに進むように人と人との顔の見える関係作りを支えてくれていたのは卸さんだったように思います。
「〜くん、それでは相手がこう思ってしまうで」なんて注意してもらうことも多かった。

「あの先生、この薬をこう使っているみたい」と口コミを教えてもらい、そこからガイドラインを読んだり、他のドクターと処方を比較したり勉強のキッカケもよくもらいました。

10数年前からいつしか「効率化」のために発注システムが導入され、卸さんが来る頻度も減りました。
そして合併が相次ぎ、特に地場の卸さんは大手に吸収されていきました。
薬局の現場では、いい加減な発注だった頃に比べると在庫率や自動発注で業務は軽減化しキャッシュフローも軽くなってきましたが、おしゃべりの時間は相変わらずで調剤室内の人間関係が悪いところはより悪くなってしまったようにも思います。
一方で卸さんの顔が見えなくなり、人間どうしのやり取りではなく事務的な注文する側と納品する側とに別れてしまい、社会との関係性を構築するのが苦手な薬剤師のいる薬局はムチャな要求を恫喝してみたり、卸を変えると言って逆にどこからも取引されなくなったりということも生まれています。

「昔が良かった」というつもりはありませんが、振り返って見ると、若手のころ卸さんに教えてもらった様々なことが現在の自分自身にとって大切なことばかりだったなあと感じます。

現在は効率化のもと、結果として顔の見える関係が少なく、「今の自分を理解してくれる環境」と言ってもらえる環境に身を置きたいと考える人が多いように感じています。
でも、薬局の現場は「自分とは違う人」のことを理解し、問題解決をする場所です。

社会を知り、自分と違うことを受け入れていくために、「自分を受け入れてくれる人」とだけ接点を持っていても小さな枠組から出ることはできない。

昔は自然とあったものが今はない。
でも代替え策はあるはず。
昔も今も変わらないものは「他者の感謝は相手が望む期待以上のアクションをこちらが起こした場合のみ」ということ。

医薬品の供給が不安定な現在、あちこちで卸さんに無茶を言う薬局があると耳にしては胸が苦しくなります。
卸さんには感謝することはあっても、悪者扱いすることはあり得ない。
みんなが困っているからこそ、「自分が良ければいい」という思考に陥りがち。
やさしい気持ちでいたいですね。

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薬局生まれの薬局薬剤師。新幹線通勤をしながら23年勤務した会社を卒業して地元東海地方で活動していく道を模索しています。