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アラフィフ薬剤師が在宅医療に携わってみた

40歳半ばにして転職。
ずっと人材育成を中心に仕事しながらも関わることができなかった「在宅医療」に取り組んでみることにしました。
月間で個人在宅30名、施設在宅100名を店舗で担ってみて感じたやりがいと現実。現在と未来。


在宅のイメージと現実

在宅医療=患者さんの生活の場で五感を使って行う
というイメージの方も多いように思います。
確かに在宅は薬局の待合や調剤室では見えないもの、感じないことが多いです。
薬はバラバラ、飲んでいない薬、飲み過ぎている薬。
情報提供暑に記載がない薬や健康食品。
ご本人やご家族の気持ちも様々です。
ある意味、混沌とした状態へ足を踏み入れ、その中から道筋を探していくイメージでしょうか。
与えられた課題に対し、求められる答えに向けて問題を解くことに長けていても、「問題抽出」と「顧客の求める答えを探す」事ができなければ、業務としては不十分となってしまいます。
顧客中心のサービス提供が求められているということを強く意識する必要があります。

何より「1人」で行う業務だという事。
訪問する薬剤師が固定にならないとしても、訪問は基本1人で行う事になります。
1人で患者さんと寄り添うのは勇気がいります。
「1人薬剤師はできない」という方が最近増えているようですが、そのような方は在宅業務に取り組むことは難しいと思います。

もうひとつ。
患者さんに関わる方は非常に多く、薬剤師は「配達」の役割から始まっているということ。
輸液開始という方に対し「玄関前に置いておいて」と置き配を依頼されたり、玄関で受け取りを希望されるケース(患者さんに会えない)など、患者さんに関わるというイメージと当初の役割との違いにギャップを感じることは多いかもしれません。

苦労したこと

なにより時間に追われる業務ということ。
よく言われる休日夜間対応という点でも時間を奪われることにはなりますが、それよりむしろ日々の時間制限の方がつらいかもしれません。
外来と在宅ハイブリッドの店舗を拠点にしましたが、
「パートさんの帰る時間までに戻らないと」
「外来が終わるまでは店舗を出る事ができない」
「次の予定を考えると訪問時間は10分しかとれない」
イレギュラーな欠員などがあると、すべてを業務終了後に行う事もあり、結果として拘束される時間が長くなる傾向があります。

薬剤師が何をするか知られていないこと。
薬剤師としての自分を患者さん、ご家族、医師や看護師らに認識してもらうために、情報発信を行う事を自発的に行わなければなりません。
配達から始まったものの、何とか中へ上がり、お話をする中で不安や悩みを聴く過程で得た情報を医師や訪問看護、ケースワーカーへ発信し情報共有を行うことを繰り返し行う事でようやく「薬剤師」としての認識を受け入れてもらい、様々な相談をしてもらえるようになりました。

当初求められる役割を果たすことは最低条件。
そのうえで付加価値を加えることで存在意義を認めてもらえるようになるということを体感しました。

入り口の表見的な関係性(配達してくれてありがとう)で満足していたり、当初の役割に不満をもっているだけでは在宅医療における薬剤師としての楽しさは感じることはできないのかもと思います。

気づけば孤独になりがちだという事
在宅専門薬局であればよいのですが、外来を並行して行う店舗の場合、店舗内で働くスタッフには店舗外で働くスタッフの動きが見えないため、テンションの差、情報の差が大きくなります。
「外の人はゆっくりサボっているんだよ」なんて言葉をよく聴きました。
実際自分がやると往復1時間の訪問業務を別の薬剤師がやると2時間かかり、喫茶店に車が止まっていたなんて事もありましたので、内勤外勤で分離してしまうと良くない。
しかし中の業務をする人は外へ出られない(出たくない)、外の業務の人は中もできる、外の業務をする人の方が幅を利かせ、中の人同士でグチを言い合うなんてことはよくあるようです。
1日の行動予定ミーティングなどして意識合わせをしておかないと、気づけば「個」の集まりになってしまいます。
「個」の集まりは孤独です。


仲間がすべて

在宅がやりたいという人たちの「できない」

薬学部教育などで「在宅こそ薬剤師が活躍できる舞台」と言われていることも影響しているためか、在宅をやりたいという若い薬剤師に多く出会います。

在宅はやりたい
けど
「車の運転はできない」(場合によっては自転車に乗れない)
「決まった時間内であればやりたい」
など、条件付きの方が想像以上に多い。
条件付きではできない事が多いのが、薬局においては在宅医療への関わりかなと思います。
大学で漠然とした事を植え付けるのではなく、せめて目的と目標設定、そのために何が必要かまで考えさせてほしいと願います。

逆に長い時間をかけて業務に取り組んだり、外来業務をしたがらない人、指示を受けるのを嫌がる人も多く出会います。
これは在宅業務に限らないのですが、薬局という少人数のチームユニットの場合、小さな歪みが大きな歪みにつながります。
あくまでもチームの一員であるということを理解しなければならないでしょう。

楽しいこと

「苦労することは多いからこそ、楽しい」

これがすべてかもしれません。

「あなたが来てくれるとホッとする」
「あなただからお願いできる」
「無理を言ってもあたりまえのようにやってもらって感謝しています」

薬学的な専門性や夜中に対応したから感謝されるということではなく、相手がほしいものを想像し、それに応えること。
そして相手の望むものを想像し、ほんの少しだけ付加価値をつけて提供する。
もっともっと専門性を提供できたケースもあったかもしれないし、処方提案ができたケースもあったかもしれませんが、それでも自分自身を認めてもらえたことはやはりうれしいですね。

今後の課題

薬剤師の在宅は収益化が難しい。
収益化できないと人員を置くことができない(あるいは適合する人材配置ができない)ため、店舗の「できる人」への依存度が高い傾向にあるように思います。
思いを共にし、同じ方向へ向かって歩む仲間が集まって取り組む事が解決策だと思いますが、長らく外来の処方せん対応で収益を得てきた組織だと、人材確保が難しいという現実があります。
組織が本気になって向き合わなければ、頑張った人が続かなくなって終わり、の繰り返しになります。
そういう意味では、取り組む以上、働く側は環境(店舗というより組織)選びがほんとうに重要だと思います。
組織の場合、リーダーが「なぜ取り組もうとしているか」について問い、具体的に思いを述べてくれるかどうかでわかることもあります。

売上=客数×客単価
何よりも業務効率化をし続ける事で時間を生み出していく事。
「今までこうやってきた」にしがみつくと、業務ができる時間上限が増やせないため、収益化も難しくなります。
実際、在宅業務での報酬だけでは店舗の利益は出せませんでした。
外来中心に据え、地域支援体制加算など客単価を上げる方が分かりやすいし効率が良いとなってしまいます。
在宅業務は単価を上げることは難しく、客数を増やすことでしか売り上げを伸ばしづらいので、かかる時間を短くし、数を増やしていくことでしか「人件費を増やす」という事がしづらいところです。
いかに時間をうみだしていくか、そのために投資を行なっていけるか。これも個でできる範囲だけでは難しい。
いずれにしても組織としての方針が大切ですね。

薬剤師が在宅に携わって思う事

できることは実際、少ない。
でも関わったからこそできることは必ずある。
そして関わった人のことを覚えていることはできる。

「生きているということは誰かに知ってもらって覚えていてもらうことだ。 ほんの少しでいい。 誰かの人生を変えてあげればいい。 きっとそれだけで十分なんだ」

ヒンメル(葬送のフリーレン)

結果として、それが自分自身が誰かに覚えてもらうことにつながれば嬉しい。

そして心の支えが必要なのは子供だけではない。
何より誰かの支えになろうとする人ほど支えを必要としているのだと思います。

誰かの支えになろうと願う仲間が集い、それぞれの「個」を尊重しあいながら、社会のために温かい音楽を奏でていきたいと思います。
「指揮者のいないオーケストラ」オルフェウス室内管弦楽団のように。

薬剤師頑張ろう!




薬局生まれの薬局薬剤師。新幹線通勤をしながら23年勤務した会社を卒業して地元東海地方で活動していく道を模索しています。