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大人は学生の前で何を話すべきか? 〜あるべきキャリア授業

社会人を学校に呼んで、キャリア授業の講師として、その人の仕事について講演してもらうことがあります。堅く言うと「職業講話」でしょうか。キャリア教育の一環で、小学校から大学まで実施していますが、自然と上に行けば行くほど、その機会は多くなります。僕の時代(1985生)にはなかった(もしくは記憶にない)です。

講師として呼ばれた・呼ばれている方、学生時代に聴いた方、あるいは学校で呼んだ・呼ぼうとした方もいますよね。僕も何度か機会をいただき、話したことがあります。最初は、学生にとってすごくいい機会だと思ったのですが、徐々にその役割・効果について疑問を持つようになりました。大していい機会になってないんじゃないか、と。

そこで、今回初めて、自らが主催して、社会人を招いた学生向けの新しいキャリアイベントを実施することにしました。先週末にその第1回の打ち合わせをしたので、今日は、その新しいキャリア授業への挑戦の「はじまり」を綴ります。

少なくともキャリア授業において、大人たちは、大人になる喜び・生きる楽しさを表現し、心を揺さぶる感動を生む必要があるのではないでしょうか。言葉にして自分でも思いましたが、笑っちゃうくらいハードル高いですね。でもこれが重要ならこれに挑むしかないようです。

何もこれは先生やこれから講師になる人のためだけに書くわけではありません。今読んでくれているあなたが大人なら、どんな機会であれ、学生・子どもたちの前で人生を語る機会があるはずです。その点で、すべての大人は、超広義の教育者です。少しでも参考になればとても嬉しいです。

もちろん本番が終わったら僕のnoteで報告しますので、まずは今日は企画時点の話を。

※このnoteは「広義の教育者」、つまり教員、コーチ、保護者、管理職、そして部活のキャプテンなど、人間の成長や変化に関心がある方々に向けて書きます。


これまでのキャリア授業で、できたことと課題

よくあるキャリア授業は、大抵、社会人を呼んでこんなことを話してもらいます。
■ 仕事内容(あるいは過去の仕事内容も含めて)
■ 業界について
■ なぜその仕事を選んだか
■ 学生時代に何をしていたか
■ 学生時代にした方がいいこと(学生へのメッセージっぽくなる)
■ 質疑応答(何したらなれますか、何が喜び/大変か、どんなこだわりかとかが多い)

良さそうですよね。僕も最初はそう考えていて、思いっきりこういう話をしていました。良いと思う理由、そしてこのやり方で得られる最大の効果は、「社会(と仕事)を知ること」です。学生が知らない世界を伝えることです。それは日頃使うサービス・製品の詳細や、BtoB(法人向けサービス・製品)を中心とした縁遠い業界、あるいはちがう地域(東京であれば地方、その逆も)・海外での話など、普段は知れないような情報です。

しかし、ここには頻発する課題、弊害、さらにはそもそもな問題があります。


1. 学校が呼べる大人の属性が限られる
頻発している課題です。キャリア授業では大抵、学生の保護者、OB/OG、地元の経営者が呼ばれます。その学校に集まる生徒の保護者は、似たような人が多く、OB/OGも同様で、かつ地元も特定の産業・似たような価値観の人が多くなります。まあ、当たり前ですね。

残念なのは、地方の学校は地方で働くことを推奨する傾向があったりするので、意図的に地元の産業・企業ばかりを呼びます。誰のための教育なんだ。

ここまで悪い例でなくても、とにかく自然と、学生が得られる情報がかなり偏ります。かつて東日本大震災の被災地支援をしている「プロジェクト結」の活動に参加し、宮城県内の公立校で話したことがありますが、そのときIT業界から参加したのは15人くらいいる大人の中で僕1人でした。(当時はデジタルアートを制作する「チームラボキッズ」にいました)
逆にいうと、東京・世田谷にある私立校でのキャリア授業に参加した際は、一次産業(農業・漁業・林業など)に関わる大人はひとりもいませんでした。


2. 将来の目標・やりたいことがないことが不安になる
頻発している弊害です。キャリア授業において大人たちは、学生たちが未知の社会を知ること・職業の選択肢を広めることに成功しますが、同時に、今将来が不安になることがあります。原因はシンプルで、大人が「物語仕立て」にして半生を語り、今の職業に通ずる学生時代のエピソードを多く伝えるからです。これは結構しょうがないことでして、話すとわかりますが、プレゼンをまとめるためにも、物語にしないと成立しなかったり、わかりにくかったりするんです。

これもよくあることですが、「将来何になりたいんだ」「目標を決めた方がいい」「とにかく勉強しよう」という、あの親戚からの答えづらい質問や悩ませる助言を、ここでもしてくる大人は少なくありません。自分だって答えづらかったくせに、悩んだくせに、です。部活の先輩と同じなんですかね、これで苦しむべきだと。意地悪なんじゃないかと思います。


3. そもそも情報より重要なことがある
これまでのキャリア教育における最大の効果「社会(と仕事)を知ること」は、有益な情報ではあります。しかし、このインターネット普及後の社会において、情報が最重要課題ではありません。探せば出ますし、第一TEDもあります。毎週プロフェッショナルも、情熱大陸も、アナザースカイも、セブンルールもあります。距離感はあるかもしれませんが、情報量・多様性は保証します。

今、情報より重要なのは、意欲です。気づきや発見といった内発的動機づけであり、学習・成長意欲であり、明日へのエネルギーです。そのためには、心を揺さぶる・自らの血肉となるような感動が足りないんじゃないかと、そう思いました。

つまり、1・2の問題を解決しても、3が最大の問題なんです。周りくどくてすみません。
では、どうするのか? これが大問題ですが、いいことを思いつきました。

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素人が講演で「心を揺さぶる感動」を生めるのか

感動すること。はっとすること。気づきがあること。思考が促されること。何かやってみたくなること。勇気を、明日へのエネルギーをもらうこと。現代は、意欲さえあれば情報を収集できる時代です。だから、今この瞬間の(将来の何かではなく)意欲に火をつける。
では、どうやってゲストの社会人講師の講演で、感動を生むのか。

…これは無理です。ハードルが高すぎます。講演でそれができるなら、その方はもう講演で食べていけます。

ある種「素人」な講演は、感動を生む講演と、何がちがうのか。
それは、
■ 聞き手の、状態・欲求の不理解
■ 話し手の、自分自身への不理解
じゃないかと感じました。すごい講演は、講演者が聞き手と話し手(自分自身)をすごく理解しているんです。

じゃあこの2つを解決しよう!と考えたのが「対談」形式です。
ホスト(対談相手)が聞き手の状態・欲求を知っていれば、話の展開に合わせて、話し手の持っているものと聞き手のそれを、結びつけて発展することができます。また、ホストがよい聞き役であれば、話し手の思考や価値観を深掘りし、言語化を手伝うことができます。

じゃあ僕ができるなと、ホストも決まりました。僕は聞き手(今回でいうと高校生・大学生)の状態・欲求を知っています。加えて、日頃から学生との1on1ミーティングを生業にしているので、対話によって話し手自身の理解を深め、言葉にしていくことに慣れているし、一定の自信もあります。

というわけで、僕がホストを務める、対談形式のトークイベントにすることにしました。


実際にどんなキャリア授業にするか

とはいえ、聞き手の欲求にどう応え、話し手から何を引き出すと「感動」は生まれるのか、考えないといけません。なので、「感動」について紐解いてみました。

人間は何に感動するか。それはいろんな種類がありますが、大別するとまず「アウトプットによる感動」と「インプットによる感動」がありますね。今回は対談を聞くので、基本的には後者、インプット型になります。

ではインプットによる感動はどんな要素が必要なのか。人間がインプットで感動する対象が、3つあると思いました。
① 誰かの挑戦し努力する姿(身近な人からスポーツ選手・アイドル・芸人まで)
② 芸術的なこと(音楽、小説、映画、絵画etc)
③ 奇跡的なこと(大逆転、大自然、出産etc)

従って、話し手の人生から、これらの要素を抽出しようと思います。
つまり、
① 「挑戦」→ 話し手の挑戦そのもの
② 「芸術」→ 話し手の生き方や思想や価値観(とその結果生まれた何か)
③ 「奇跡」→ 話し手のユニークな不思議な特徴(性癖)

こういうことができたらいいんじゃないかと考えました。

ちなみに、この①②③は大抵の大人にあります。が、①は人よって程度があるので、できればたくさん挑戦してる人が良さそうです。②も①の結果磨かれたものがあるので、同様かもしれません。意外に③は、結構みんなが持ってるものなんですが、これは自分だけでは気づきづらい類です。「性癖」以外に適当な言葉が思いつきませんでした(誰か教えてください)。なにせ、自分では呼吸するように自然にやってることが、他の誰もやってないことが③なので、気づけません。これ、結構みんな持ってます(2回目)。

一方で、同時に「聞き手の欲求」を考えなくてはいけませんが、実は前述の「②話し手の生き方や思想や価値観」が満たしてくれます。今回の聞き手、つまり高校生・大学生の欲求は、根源的には、今どうすればいいんだ、これでいいのか、私はどこへ向かうのか、という答えのない問いに答えることです。ちょっと前のベストセラーにもなった「君たちはどう生きるか」です。この②は、とにかく抽象的なんです。何をしたかではなく、どんな気持ちでしたかとか、そういう方なんです。このあたりを言語化して、聞き手の欲求に対して、ヒントあるいは解決策を生み出せるよう努めます。


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もともと、こういったイベントを開催すること自体、とても消極的でした。学生の貴重な時間を奪うものですし、現代の情報化社会で、インプット過多にあると感じていたからです。ではなぜ考えが変わったかというと、ひとえに「コロナ」です。僕は学生たちへのコロナの影響を、割と憂慮しています。特に高校・大学時代に、たくさんの感動体験をすることが、人生の礎になると感じているからです。リアルな場がなくなり、いろんな種類の感動の機会(友達や芸術や部活や恋愛など)が失われた今、少しでも何かできないかと考え、本イベントを開催することに決めました。

5/21(木)、僕が主催する1on1 college参加者(=高校生・大学生)向けに、ここで説明したトークイベントを実施します。成功も失敗も、必ず報告します。

今日もありがとうございました。明日もぜひ読んでもらえたら嬉しいです。

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