注がれていくグラス

想イヲツヅル #53


君は職場の同僚で同い年

研修中は仕事を覚えることに追われて
君がいることにすら気付けなかった

少し仕事に慣れてきたある日

たまたま休憩所に君だけがいて
話しかけたことを覚えている


君はなんだか
なにかを諦めたような
心がここにないような
乾いたような目をして
遠くをみていた

そんな君がどうしても気になってしまった

声をかけると君は
楽しくも辛くもないような顔で

寝起きみたいなホワッとした声を出した

「こんにちは」

もちろん笑顔なんてくれない

遠い目をした
空っぽのグラスみたいな君と

それこそ空っぽみたいな
ふわふわした世間話をした


ミディアムくらいな栗色の髪を
ひとつで結んだ
薄化粧の君と

不思議な時間だった

なぜかこのふわふわした会話は
途切れることなく続き

ここがファミレスやカフェなら
珈琲をおかわりするくらい容易い
と思えるほどだった

君は不思議だった


そんなことを思い返していると


カツンッ!
ゴトンッ!


「やったーー!!」


9番のボールをポケットインした
君の歓喜の声がプールバーに響く


まだまだ上手くはないものの

胸元なんかお構いなしに
プロ顔負けに体勢を低くして
ポケットを狙う豹のようなハスラーがいる

「今日は2人のおごりね」


キラキラした目で
憎たらしいほどに勝ち誇った笑顔


友人と″やれやれ″と肩を落とし

カシスオレンジをオーダーする

君は今も不思議な人だ

これは失礼になるかも知れないけれど
とてもとてもいい意味で

男友達と遊んでいる感覚と変わらずに
過ごせる人なんてそうそういない


たぶん友人も同じことを思っているだろう

帰り際
余ったカシスオレンジをみて
また3人で一悶着

なせが自分が飲むことになる

この前の彼女のパスタを思い出す
″そういう役回り″はどこでもそうなんだろうか

まぁ


今日もいい気分転換ができた


また遊ぼう

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