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JRA無観客競馬大成功問題

政府によるイベント自粛の要請を受けて、JRAもいわゆる「無観客競馬」をスタートさせて4週目の開催に突入した。

春のクラシックレースに向けて面白いレースが繰り広げられる時期ですし、各スポーツが盛り上がってくるこの時期にライブ観戦ができないのは本当に残念ではあるが、世界的な感染症に打ち勝つためには仕方がないところである。

実際、無観客での競技を実施することで、どのような影響がでているのだろうか。観戦メインのスポーツとはまたちがった性質を持つ、いわゆる「公営ギャンブル」と比較しつつ、JRAの無観客競馬について触れてみたい。

公営ギャンブル、軒並み売上ダウン

同じ「公営ギャンブル」とくくられるところで、競輪や競艇も無観客での実施を迫られている。

競輪はもともとミッドナイト競輪という無観客競走を実施して好評なくらいだからノウハウもあったりファンも慣れているのかなと思っていたけれど、以下の記事によると売上が3分の1程度に落ち込んでしまっているようだ。

競艇も、上記の競輪ほどではないものの、売上が3割減という記事がでている。

JRA、ネット投票急増で無観客初日は昨対87.4%

そんななか、競馬の売上についても記事が出ている。

なんと、地方競馬は売上が増えているそうだ。先日黒船賞が行なわれた日、高知競馬では1日の売上レコードまで更新している。JRAにおいても、無観客開催第1週目は、土曜日が昨対87.4%、日曜日が79.9%。2日あわせても前年から10数%しか売上が減っていないのである。2週目も土曜82.7%、日曜84.9%、3週目も77%程度と、他競技ほどの影響は受けずに済んでいる。これには非常に驚かされたし、うまくやれば利益率改善しちゃう数字なのではないか。

ネット投票の「即PAT」の新規加入は、前日2月29日に1万4763件を記録。前年の2月23日(2回中山、1回阪神・中京初日)は2984件で、昨年と比べて約5倍の申し込み件数だった。
1日の中山、阪神、中京3場の合計売上額は262億2562万5800円で前年比79・9%。前日2月29日が87・4%を記録しており、現金での馬券購入が全体の約30%だったことを考えると両日とも大健闘ともいえる
無観客となった2月27日から3月15日までの地方競馬の売り上げは、昨年同時期に比べ107・9%。インターネット発売は約1・5倍に膨らんだ。

もちろん、急きょ無観客にした手前、開催時に働いている人たちへの何らかの補償のようなものもやっているだろうから、今回の無観客はいつもより収支が悪化している可能性が高い。

ただ、計画的に実行したらどうだろうか。競馬場で馬券を売っているスタッフや警備のみなさん、各種テナントなどなど、競馬開催には本当に多くの人が関わり、多額の費用がかかっていることが容易に想像できる。
JRAの開示資料から具体的な数字はみつけることができなかったけど、売上10%減で済むなら、おそらく収益改善が見込めるくらいの数字になるだろう。

短期利益と中長期ファン醸成のバランスを

現状、JRAは売上を主な経営指標としているように見えるから、すぐに利益を追いかける可能性は低いはずだ。JRAの売上は2011年を底として、2012年から昨対101〜103%前後で推移していて、経営陣からはこの数字を昨年割れさせたくない強い意志を感じる。ただ、今後の景況感次第で売上の昨対UPを目指すのが厳しくなってきたとき、「追いかける指標を変えました」というのは経営者の常套手段であり、「減収だけど増益したよ」としれっと方針転換が起こらないとは言えない。その検討がなされたとき、「あのとき無観客競馬でも意外といけたよな」と背中を押す材料になり得るくらいの数字だったと捉えている。

もちろん売上が思ったほど減らなかったのはいいニュースだ。ただ、それで「無観客競馬」を肯定するのは少し怖い。短期収益にはつながるかもしれないけど、新規ファン獲得が圧倒的に難しくなるからだ。これまで競馬に接点のなかった人は、やはり競馬場で生観戦することで初めて、その魅力を知るケースが多いだろう。実際、僕もできる限り多くの人を府中や札幌の競馬場に連れて行くことを個人的なKPIにしているけど、ほぼもれなく「生で見ると迫力がすごい」「これはスポーツだわ」「馬かわいい」「競馬のイメージが変わった」とポジティブな感想をいただいている。JRAもそれがわかっているから、いわゆる「ラッタッタ」CMを異例のロングランで続けているんだと思うけど…。

もちろん利益は大事だし、JRAにはもっと売上だけじゃない利益意識の体質になってほしいくらいなんだけど、短期と中長期の目線は両方持った経営をお願いしたい。将来仮に無観客競馬を検討しなければならないタイミングが来たとしたら、3場やるうちの1場だけ無観客とか、エリアの偏りがないようにするとか、ファンの裾の拡大と短期利益をバランスさせるやり方は必ず見つけられるはずである。

実はパチンコ屋に大集結している?

ところで、今回の無観客競馬(にともなう場外馬券場の閉鎖)を受けて、ふだん週末は競馬などを楽しんでいる層がパチンコに流れているなんて話もある。
緊急事態宣言が出された最初の週末、北海道においては不要不急の外出を控えるようにと言われていた。パチンコホールは、道内全店閉店決めたところや営業時間短縮などはあったものの、営業していた店舗も多いようだ。もちろん過度な自粛はするべきじゃないし、適切な対策が取られているのであれば営業する側も参加する側も堂々とすればいいと思っている。

個人の買い物程度は混雑を避ければ低リスクということで、こんなときだからこそ食材の予算でもあげて料理でもしようかなと直売所だったりにちょっといいものを買いに出かけたんだけど、その時みえた限りではパチンコ屋さん(の駐車場)賑わってそうだった。

もちろん、パチンコだけずるい!なんてことを言うつもりはまったくない。上にも書いたように、必要以上の自粛には反対だ。問題のないことには積極的に時間もお金も投資したいと考えている。逆に、感染拡大を抑えるために必要な制限であれば、みんなで積極的に協力していきたい。パチンコは、それなりに近い距離で、ハンドルやボタンなど接触もあるし、消毒などが行なわれているとはいえ比較的リスキーな場所にもみえる。自粛要請の意図を理解して一斉にやらなければ、抑えられるものも抑えられなくなってしまう。営業を継続するからには、徹底した対策を施してもらいたい。

スポーツの魅力を再発見するいい機会

競馬は、売上もそこまで落ち込むことがなく、開催が続けられているだけでもとても幸せなことである。相撲も千代丸さんが陰性でなんとか継続できているけど、いまだ”その競技のプレイヤーから1人でも出たら中止”みたいな空気は残っていて、競馬もジョッキーあたりに感染者がでたらいつ中止と言われてもおかしくない。

クラシックレースの足音が近づいてきたこのタイミングでの中止は、ファンをがっかりさせるだけでなく、専業の馬主には収入がなくなることを意味するわけだし、預託料が継続的にかかるようであれば馬を続けられなくなる馬主も出てくるだろう。セリのシーズンも近づいているが、仮に中止にならなくても、”中止リスクがあるなら馬を増やすのはやめておこう”と買い控えが起こり、生産者に大きなダメージがいきかねない。そうなれば、業界として長く、深い谷に突入する可能性も大いにある。

だからこそ、みんなで適切な情報を得て、判断するリテラシーを持って、この難局を乗り越えていくことが本当に大切になってくる。感染拡大を防ぎつつも過度な自粛とならないような、生命と経済という、比較できないけれどもどちらかだけをとるわけにもいかない難しい舵取りが求められている。ただ、企業のリモートワークがあたりまえになってきたのと同じように、競馬が無観客でも8割売れるのだってこんなことでもなければ気づかなかったはずだし、真剣に考えて決断したらなにかしらの道が見えてくるのだと信じている。平時に利益のために無観客をやるのは反対だけど、ここで得られたことを生かすも殺すも私たち次第だし、どんな未来だってつくっていけるはずである。

最後に、阪神競馬場がアップしていた素敵な動画を紹介したい。無観客競馬で、各スポーツ厳しい状況に立たされてはいるが、だからこそ普段気づきにくかったその競技の魅力に触れるいい機会になっている。その筆頭が「音」だろう。野球中継をみれば、ミットに収まる音、打球音、さまざまな音が聞こえてくるし、そこにプロならではの迫力を感じることができる。同じように、競馬でも馬の蹄音をはじめ、さまざまな「音」を聞くことができる。この機会に、さまざまなスポーツ中継をみて、その魅力を再発見してみたいと思う。


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