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チキンレッグのフライドチキン

ごはんと味噌汁、焼き魚にお新香、はたまた、パンとスープにハムエッグとサラダ。そんな朝食を時々、懐かしく思う。朝食だけじゃない、カレーライス、うどん、そば、ラーメン、焼肉、今日は何を食べようか?今日の晩御飯は何だろう?そういった食事習慣を懐かしく思うのだ。

「社長、先月は目標に対して200%の予算達成です!!」

そんな営業部長の呼びかけで我に返った。今は経営会議中だった。
今や、食事習慣はガラッと変わり、サプリメントが主食である。みんな何かと忙しいのだろう。朝昼晩、食事の時間など取らなくても、サプリメントを数個口に放り込めば栄養バランスはバッチリなのだ。

インスタント食品を事業としていた大手の会社はサプリメント事業に切り替え、インスタント食品に関連する中小企業はバタバタと倒産した。
ファストフード店も街から姿を消した。サプリメントほどファストフードでヘルシーなものはないからだ。
料理をする家庭も少なくなった。

かたや、レストランは連日大盛況。栄養的にはサプリメントで十分だとはいえ、やはり料理に対する需要は多い。
特別な日はレストランで食事をする、ということが空前のブームになっていた。
もちろん、価格は高騰し、レストランで食事をするということが、ある種のステータスであり、富の象徴ともいえる行動なのだ。
そのおかげで、養鶏及び加工肉の卸販売をしている我が社の売り上げはここ数ヶ月右肩上がりだ。
それにしても目標数字に対して200%増は上がり過ぎじゃないだろうか?

「200%!?何で先月はそんなに上がったんだ?」
「社長、ご存じないんですか?今のブーム」
「知ってるよ。レストランだろ?レストランブームでどこのレストランも予約でいっぱいなんだから、出荷量も頭打ちでそんなに伸びないだろう」
「もう1つブームが生まれてるんですよ。フライドチキンブーム」
「フライドチキン!?」
「ええ、中でも、食べやすいという理由でチキンレッグが大人気で」
「家で食べるのかい?」
「はい。レストランは高級過ぎて行けない家庭をターゲットにフライドチキンを売り出した企業が大当たりしていて、そこからの注文が殺到しているんです」
「最近、息子がフライドチキンを食べたいって言っていた理由はそういうことか。レストランを予約したけれど3ヶ月待ちだ」
「フライドチキンなら早めに並べば買えますよ。しかし、我が社の在庫も底をつきそうです」

そうか、今晩にでも買って帰ってやろうか、と考えていると。

「そこで、開発部長から提案があるんです。この写真をご覧ください」

今まで営業数字が写っていた画面に、見たことのない動物が写っていた。
開発部長が説明をはじめる。

「これは開発部で長年研究していた成果です。やっと成功しまして、この機会に是非採用していただきたく」
「この写真の動物は何だね?」
「すみません。説明不足でした。これは鶏です」
「鶏?まったくそう見えないが…」
「遺伝子操作をして、足が6本生える品種にしたのです」

会議室がざわついた。
よく見ると鶏かもしれない。
足が6本に増えたことで胴の部分が長い。
鶏の胴を長くして足を4本足した動物、それは鶏なのだろうか?遺伝子操作で足が6本になるのだろうか?そもそも足が6本に増えても学問的に鶏として認められるのだろうか?見慣れないから気持ちが悪い。

「社長!決裁をお願いします!1匹の鶏から6本の足が取れるなんて素晴らしいじゃないですか!在庫の不安も解消されますし、売上も大幅にUPしますよ!」

営業部長の鼻息が粗い。
先月の売上とその理由を聞くと、確かにビジネスチャンスだろう。

「開発部長、で、その6本足の鶏はどのくらいで出荷レベルまで持っていけるんだ?」
「これから生まれる鶏に適用して、育成促進剤を投与すれば1ヶ月後には出荷できる見込みです」
「営業部長、フライドチキンブームは今後どのくらい続くと思う?」
「少なく見積もっても半年は続くかと。ちなみに現状2ヶ月後には在庫は尽きます」
「そうか。では、6本足の鶏、採用しよう。このチャンスを活かしてくれ」

1ヶ月後、6本足の鶏の出荷が始まり、供給が足りていなかったフライドチキン市場の救世主となるばかりか、より一層のブーム拡大に寄与し、会社の売上は月を追うごとに増えて行った。

3ヶ月後、勢いに乗る社員のなかで、養鶏場の責任者が社長室をノックした。社長とは同世代だった。

「社長。大成功ですね!昔、朝昼晩、料理を食べることが普通だった人間としては何だか嬉しいですね」
「そうだな。売上も伸びているし、料理を食べるという喜びをレストランだけでなく、再び家庭で気軽に体感できるようになったというのは喜ばしいことだ」
「このフライドチキン、1度食べるとハマっちゃって、ほぼ、毎日食べてますよ」
「実はまだ食べてないんだよ。どうも6本足の鶏というのが、、、まだちょっと気味が悪くて」
「まぁ加工して売ってるんで、食べてる人間はもちろん、フライドチキンを売ってる会社もまさか6本足の鶏を食べているとは思ってないでしょうけどね。知っているのはウチの会社の人間くらいでしょう。で、ちょっと不思議なことがあったんで社長室に寄らせてもらいました」
「なんだ?」
「養鶏場近くでネズミらしきものとカラスらしきものを捕まえたのですが」
「それがどうした?」
「足が6本あるんです」
「それがどうした?」
「たぶん、フライドチキンを食べたんだと思うんですけど」
「…」

養鶏場の責任者が体の向きを横にしながら言った。

「で、私にも、足が4本生えてきたんです」

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