日記・人が集まらない海
誰もいない海が好きだ。
近くの海は、夏を過ぎれば人があまり集まらない。それは寒さが厳しくなるほど顕著になる。真冬の海は、夜、特に冷える。
その海に人を集めようという動きがあるらしく、複雑な気持ちでいる。僕も毎日のように海に行くわけじゃない。たまに時間があって、誰もいない海を見に行きたくて海に行く。
人が少ないことが魅力の場所もあるような気がする。インスタグラムの表と裏みたいな画像を見たことがある。表は人のいない綺麗な風景、裏は人が集まり過ぎて人ばかり写る風景の画像だ。
画像に裏も表もないような気もするが、綺麗な風景の反対側には人衆がうごめいていると知ると、カメラが写せない場所になにがあるのか想像してしまう。
かつて絶景とは人を平易には寄せつけない場所から見える景色を言っていたような気もするが「絶景」という言葉自体にそのような意味はなく、その場所以外では見られない景色を絶景と呼ぶらしい。
冬の夜の海が絶景だとは思わない。真っ暗な海は恐ろしく黒い。波が揺らめいているのか、あるいはこの世ならざる者がうごめいているのか、目を凝らしても凝らしても景色は黒く塗り潰されている。震えているのは寒さだけによらないのかも知れない。
そういう空恐ろしさを感じる海が好きだ。じっと黒塗りの海を見ていると、目の端にふと星が美しく光っているのが見える。冬だから、空がよく澄んでいるのだ。外灯の少ない海は星がよく見える。
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