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まだまだ死ねない死にたくない

【新規案件】のワードがタイトルに入っているメールが好きだ。
メールの受信フォルダを開けて、そのタイトルの新規メールがあるのを見るだけでワクワクする。
そんな気持ちに、「あー、私って新しいことが好きなんだな」と最近気がついた。

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フリーライターになったのは、生きるためだった。

当時、父親がこさえた借金を返すために私の懐は常にキュウキュウだった。働いて一刻も早く返したい。就職したところでもらえるお金は限られているし、返せるお金も少額。いつになったら完済できるのか分からない。
それなら、時給お高めのバイトをしつつ、フリーランスで稼げばいいのでは? とひらめいた。何も知らないからできることだ。怖い、若い頃の無知な自分が怖い。今だったら絶対にそんなことはできない。

朝5時半から10時までエキナカコンビニで働いて(時給が高い、ということでここに行くあたりが甘い気はかる)、終わったあとはひたすら原稿を書く。仕事は、mixiのライターコミュニティだったり、稀にある案件掲示板で見つけて、少しでもできそうなことは片っ端から応募した。
とは言え、何も知らないひよっこ……どころか、卵の殻がつきまくりでドタドタとよそ見しながら走っている状態だったものだから、最初の2~3年はいろんなところで怒られた。取材で大ポカして泣きながら謝罪に行ったこともあって、そこから「取材のお仕事はできない……」と心も折れた。

それでもどうにか続けられたのは、とにかくお金を返さなければ私の未来はない、と思い込んでいたからだと思う。それに、お金がなければ、実家からも離れられない。比較的ずっと、お金に困っている生活を送っていたので、お金に対する執着心は強かった。

全額返済したところで、ようやく自由になれた気がした。そのタイミングで結婚もして実家を出られた。一気にいろんなしがらみから解き放たれた結果、一息つく……のではなく、それまで以上にたくさん仕事を受けるようになった。
それまで、「稼がなければ」ばかりだったのが、ようやく「仕事を楽しむ」というフェーズに移れたのだと思う。何をやっても楽しい。「少し原稿料が安いな」と感じても、やってみたい仕事なら受けられるようになったのも嬉しかった。
生きるため、と言いつつ、どうしてライターを選んだか。一番大きな理由は「文章を書くことが好きだから」だと思い出した。

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小さいころから、家庭内暴力に怯えていた。友達と遊びに行くことも許されなかった。そんな中で唯一の楽しみは本を読むこと。自分で書くこと。それが今に繋がっているのは自然の成り行きかもしれない。父親が「俺の教育の賜物」と言い出しそうで腹立たしい。が、最初に本を与えてくれたことには感謝している。

一番本を読んでいたのは、たぶん高校生のころ。書く量も多かった。まだどこかに気軽に発表するという時代でもなかったけれど、物語を作って書く、ということが楽しくて仕方がなかった。

仕事として文章を書くようになってからは、もっと世界が広がった。
一言で「ライター」と言ってもジャンルはさまざま。すべてを網羅することなんてできない。
だいたい、依頼していただくと「おもしろそう!」と飛びつく。「おもしろそう」はもちろん本音だ。社交辞令で言っているわけじゃない。知らないけれど、気になるジャンルはチャンスがあるなら触れてみたい。

とは言え、年数を重ねてくると自分には難しい仕事だったり、苦手分野、やりがちなミスも見えてくるので、前ほど「やりたいです!」と手を挙げられる機会は減っている。そう考えると、ちょっとは成長した、のだろうか。

悩むことも多い。落ち込んで、心が折れてしまうことも多い。
できないことだらけだし、できると思っていたのにできないことも多い。
少し立ち止まればあっという間に頭の中がサビてしまいそうだ、と焦ることもある。
でも、書く仕事を辞めたいと思ったことはない。
もちろん、今だって生きるために働いているわけだけれど、それ以上に、自分が書く文字で世界をつくることができる楽しみが好きだからだと思っている。

時代は流れる。
物語も価値観もアップデートされていく。
その中で、自分も少しずつ変わっていけるのが楽しい。
そのためにもいくつか自分に課していることがある。偉そうなことを言わないようにするとか、誰に対しても学ぶ姿勢を忘れないようにするとか、自分がやった仕事を自慢しないとか(でもこれは、自分が「やったー!やりきったぞ!」というときは自慢したくなってしまうので反省)。あと、他人の気持ちを想像することを忘れないだとか。

もっともっといいものが書けるようになりたい。同時にいつも新しいことにチャレンジしていきたい、やりたいことはまだまだたくさんある。
そう思わせてくれるのは今やっている仕事だからこそ。

死ぬ間際に、「この仕事は天職だったな」と言えたら本望。
「天職だった」「やりきった」と言えるまで死ねない。

ちなみに、「新規案件」も好きだが、「継続案件」も大好きだ。

ありがとうございます。 本と旅費として活用させていただきます! 旅にでかけて次の作品の素材に☆☆