岸田繁さんに依頼した入浴専用音楽のCD「MUSIC FOR THE ONSEN」を発売します
こんにちは。旅館大村屋noteでライターをしております、大塚たくまです。今日は大ニュースです。
なんと、旅館大村屋の半露天風呂で流れている、くるりの岸田繁さんがつくった「入浴専用音楽」の音源が「MUSIC FOR THE ONSEN」として、2024年11月1日にCDが発売されることになりました。
CDの予約は旅館大村屋のSTOREにて受付中です。販売形態は以下の通り。
CD発売にあたり、岸田繁さんからもコメントをいただいています。
歴史ある佐賀のいで湯、嬉野温泉の名物旅館大村屋。温泉と音楽を心より愛する北川さんのホスピタリティは素晴らしく、訪れた人々はたちまちこの宿の虜になってしまうことでしょう。
湯は柔らかく、身体の芯から解れていくことを実感します。温泉湯豆腐や山海の幸、そして名物嬉野茶は是非味わっていただきたい。そして、街のオーセンティック・バー顔負けの素敵なカウンターで、ハイエンド・オーディオに耳を傾けながら飲むアイラ・モルトもまた一興。
北川さんより、内風呂改装に併せて、半露天風呂で流れるアンビエント音楽の制作依頼。川のせせらぎ、野鳥や虫の鳴き声と、それらを包むいで湯のサウンドスケープ。
既に出来上がっている音風景を、音楽で彩るために注力したのは「風景と一体化する音」と、「巡るイメージ」。
まるで自分自身がそこにある風景になっているかのような音世界。あるいは、時代やそれぞれの想い出、身体の中のエネルギーや血が巡るような感覚。そんなことをイメージしながら音を編んでいきました。
どうかこのいで湯の魅力にどっぷり浸かっていただき、世にも珍しい「温泉入浴専用音楽」を楽しんでいただければ幸いです。
岸田 繁(くるり)
実は昔から温泉で音楽を流したかった
CD発売が決定したと聞き、ぼくは旅館大村屋の北川さんに話を聞くため、大急ぎで嬉野へ行きました。
──ちょっと北川さん、マジですかコレ!凄いことになりましたね。品番NCS3053って、これビクターから出るんですか。
ビクターから、本当に出るんですね……。ぼくも夢心地です。
──これで自宅でも大村屋の半露天風呂を思い出せますね。
入浴体験をより気持ち良くするために作られた音楽は、皆様のご自宅での入浴やチルアウトタイムにもぴったりだと思います。ぜひご自宅でもお楽しみいただければと思いますね。
──そもそも「温泉に音楽を流そう」というのは、いつ頃から考えていたんですか。
けっこう昔からですね。「音楽をコンセプトにしよう」と考えた頃からです。貸切風呂だとやりやすいかなあ、と思って、具体的に計画したこともありました。
──そうだったんですね。なぜ、音楽が鳴る貸切風呂は実現しなかったんでしょう。
いい音楽がなかったんですよね。防水のスピーカーとか、プレイヤーはあるんですけど、肝心の「音楽」でいいものが見つかりませんでした。
──温泉で流すのに最適な音楽か……。前例がなくて、考えるのが難しいですね。
癒し系の音楽とか、ヒーリング系の音楽とか。「自律神経によい音楽」みたいな感じのものはあるんですけど。
──あ、なんか良さそうですけどね。
でも、実際に流してみると、違和感があって、なんかピンとこないんですよ。「大村屋らしくないな」と思って。それでやっていなくて、一時は忘れていました。
──そして、大浴場改装のタイミングで思い出したということですか。
そうですね。ちょうど、くるりの岸田さんともご縁ができて。この件をご相談したら二つ返事で快諾してくださったんです。
「温泉好きの音楽家」だからこその依頼
──北川さんがくるりが大好きだったので、岸田繁さんに依頼したのでしょうか。
たしかにぼくはくるりが大好きですが、今回依頼させていただいた要因はそういうことではありません。何よりも岸田さんが「温泉好きの音楽家」であることが一番の要因です。
──誰しも温泉はある程度好きだと思うんですが、岸田さんって、そんなに温泉がお好きなんですか。
そうですよ! くるりの楽曲に「温泉」って曲があるくらいですから。温泉をテーマにした楽曲をつくるほど、温泉が大好きなミュージシャンはそうそういないと思います。
──たしかに……。他に温泉をテーマにした楽曲は、ザ・ドリフターズの「いい湯だな」くらいしか知らないかも。
「今後、ここまで温泉好きの音楽家に出会えることはないんじゃないか」と思ったんです。もし「温泉好きの音楽家」が他にいたとしても、大村屋の大浴場に入ったことがなければ、イメージが湧かないわけじゃないですか。
──その点、岸田さんは大村屋には何回もいらっしゃってますからね。
岸田さんだったら、きっと意図をわかってくださると思いました。
──でも、くるりはロックバンドですよね。万人が入浴しながら聞く音楽だなんて、くるりの音楽性とはかなり異なるんじゃないですか。
ぼくがオファーしたのは「岸田さんの声がまったく入っていなくても構わない」「くるりっぽくなくてよい」と伝えました。
──本当に「くるりの岸田さん」というよりは、「温泉好きの音楽家である岸田さん」として、依頼したんですね。
そうです。岸田さんが「温泉好きの音楽家」として、温泉に入ったときに、入浴体験がより気持ちよくなるような音楽を作ってほしいと、依頼させていただきました。
──なるほど。とはいえ、一度は温泉で流す音楽を「ピンとくる音楽がない」と諦めたほどじゃないですか。岸田さんに依頼すれば合った音楽ができるという確信はあったんでしょうか。
ありました。岸田さんは映画音楽の仕事をされているんです。ぼくはそのサウンドトラックも好きで、よく聞いていました。ぼくが一番好きなのは「ジョゼと虎と魚たち」のサントラの「ジョゼのテーマ」なんですけど……。
──くるりとは全然違う。
そうでしょう。ぼくは「ジョゼと虎と魚たち」のサントラに入っているインストの曲がとても気持ちよくて、大好きなんです。だから「岸田さんだったら、いいものが作れる」というイメージがありました。それで「お願いするしかない」と思いました。
「入浴専用音楽」なんて、どうやって作るの?
──楽曲を作る際、岸田さんから何か尋ねられることはありましたか。
「湯口の音はどんな感じですか」と尋ねられました。
──湯口の音……ですか。
大塚さんは、以前の大浴場の湯口の音を覚えていますか。
──覚えていますよ。「ジャブジャブジャブジャブ!」って感じですよね。
そうです。以前の湯口は新しい源泉と濾過された温泉をミックスしていて出していて湯量が多いので、そんな感じの音。一方、今回の半露天は源泉掛け流し。70〜80度ある源泉のみを出しているので、湯口からの湯量は少なく、音は「チョロチョロ」って感じです。
──それが音楽にどう影響を与えるんですか?
岸田さんは「音の隙間を考えてつくります」とおっしゃっていました。湯口の音が「ジャブジャブ」と大きい状況と、「チョロチョロ」と小さい状況なら、音楽の使い方が変わります。
──そんな緻密に。そこまで、環境に合わせて制作されたのか……。
「外の環境音は聞こえる状況ですか」というのも尋ねられました。
──今回の半露天風呂はそういった外の音は、よく聞こえますよね。
そうです。それを岸田さんに伝えると「風の音とか鳥の声とか虫の音とか雨の音とかが聴こえる前提で、その音に調和するような音楽をつくります」とおっしゃっていただけました。
──単純に「入浴専用音楽」ではなく、あくまで「旅館大村屋の半露天風呂での入浴専用音楽」として、つくってるのか。すごい。
これは、何度も大村屋を訪れている、岸田さんでないと対応できないと思います。たとえば、旅館のそばには塩田川が流れていますよね。
──そうですね。半露天風呂でも、川のせせらぎが聞こえます。
そうです。単に「川が流れている」だけではなく、川の流れがおおよそどれぐらいの激しさなのかも、岸田さんならイメージできると思うんです。
──たしかに。激しい流れではなく、ある程度、穏やかな流れであることをご存知なはず。
きっと鮮明にイメージを描いて、「入浴専用音楽」をつくってくださったんだと思っています。
──実際にできあがったものを聴いて、どう思いました?
実際自分でも聞いてみて、15分間まったく飽きないつくりになっているのがすごいと思いました。いろんなリズムが合わさって、じわじわと変化していく。ぜひ現場で体感してみてほしいですね。
──「Emerging Hot Spring」「Vigorously Bubbling Hot Spring」の2曲あることに驚きました。
岸田さん側から2曲できたので、どちらかを選んでほしいと。聞いてみると、片方が夜のお風呂、もう片方が朝のお風呂にぴったりだと感じたんです。そこで、両方採用したいという旨をお伝えしました。現在は朝と夜で音楽を変えて流しています。
入浴専用音楽は常連客からの反応も上々
──男湯はすでに改装されており、半露天風呂で「入浴専用音楽」が流れていますよね。常連のお客さんからの反応はいかがですか。
この間、ぼくが小学生くらいの頃からずーっと通っている70代の方が、初めて半露天風呂に入ったんですよ。そしたら「すっごい良かった。これまでの大村屋のお風呂に入った体験の中で、一番長く浸かったかもしれない」と言ってくださって。
──あぁ、それわかります。入浴時間が長くなっちゃう。
半露天風呂に椅子ができたことで、外気浴ができるようになったことも入浴時間が伸びている要因だと思います。
──そうそう。あの椅子に座って、音楽を聞きながら、温泉の水面をぼんやり眺めている時間がまた、至福です。
──耳を澄まして聞いていると「これは音楽?それとも環境音?」とわからなくなるような感じがします。
ぼくは入浴専用音楽と、外の雨音が一緒になるときが好きですね。まさに雨の音と美しく調和していて、岸田さんが意図したとおりになっているなと思います。
──いいですよね。温泉に入るとき「雨の時の雨音が楽しみ」なんてことは、これまでなかったですよ。
「温泉に入るときに音なんていらない」と思う方もいらっしゃるかもしれないんですが、実際に入ってみると「音が主役」という感じは一切ない。
──音楽が鳴っているから、耳をすます。すると「いい雨音」とか「虫の音が美しい」なんてことに気付けるようになります。音楽がそんな美しい世界へ、ナビゲートしてくれる。
しみじみと「すごいなぁ、音楽家って」って、思いますよ。
──岸田さんの音楽のおかげで、入浴中に五感を研ぎ澄ますことができる。ぼくは入浴中に、自然とそんなことを感じ取れるほど、風流な人間ではないですもん。
お客様から「温泉で景色や設備、泉質といった要素以外で価値をつけられることってあるんですね」と言われたことも印象に残りました。
──たしかに。めっちゃ斬新。
大村屋の場合は敷地が限られているので、ものすごく広い露天風呂などを新たにつくることはできません。
──限られたスペースの中で、魅力を作るしかないですもんね。
その限られたスペースを、うまく活かせたと思います。半露天風呂だったことも、音楽を流す面では好都合。完全に開放しているわけではないから、しっかりと音が響くんです。
──逆転の発想ですね。ちなみに、くるりのファンの方からはどんな感想を聞いていますか?
「ここは天国ですか?」とか……。
──本当、くるりのファンの方からすると、そのレベルですよね。
「岸田さんのアンビエント楽曲が珍しくて、新鮮だった」という声も多いですね。
景観を壊さない岩型擬態スピーカー
──岩の形のスピーカーの功績も大きいですよね。あのスピーカーはどうやって手に入れたんでしょうか。
館内のオーディオ周りを担当しているF.T Nextの藤川さんに「半露天風呂用のスピーカーを探している」という相談はしていたんですよね。いろいろ、防水タイプのご提案をしていただきました。ただやはり、いかにも壁や天井に設置する「スピーカー」という感じのもので、「なんか違うなぁ」と思っていました。
そんな中、半露天風呂で石で作った小さな庭をつくると決め「ここにスピーカーが仕込めると面白いな」と思ったんですよ。そこで、藤川さんに「岩の形したスピーカーありますか」って、尋ねてみたんですよ。そしたら「あります」って。
──「岩の形したスピーカーありますかね」って聞く方も聞くほうだけど、「あります」って答える方はもっとすごいな。
すると、スピーカーのサイトのリンクが送られてきたんです。見てみたら、まさにお風呂で使おうとしている岩と同じような風合いで、驚きました。「大村屋のために作ってくれたのかな?」と勘違いするくらい、ぴったりでした。
──それはびっくりしますね。
ぼくも半分冗談で聞いてみたようなところもあったので「まさか本当にあるとは」と思いました。しかも、ちゃんと音も良いものでしたから、「これしかない」と思いました。
──本当に、たくさんの方に半露天風呂を早く味わってほしいですね!
はい!ぜひともたくさんの方に、この新しい入浴体験を体感していただきたいと思います。
CDの購入がクラファンの支援にもなります
今回は岸田繁さんとの入浴専用音楽の制作秘話と、半露天風呂の魅力を改めてたっぷりとお伝えしました。
旅館大村屋の半露天風呂で流れている、くるりの岸田繁さんがつくった「入浴専用音楽」の音源が「MUSIC FOR THE ONSEN」として、2024年11月1日にCDが発売されます!
CDの購入は、大村屋の大浴場の改装クラファンの支援にもつながりますので、ぜひともご協力をよろしくお願いします。CDの予約は旅館大村屋のSTOREにて受付中です。
現在は女湯の大浴場でも、改装工事を行なっております。そして、まだまだ大浴場改装のクラファンは実施中です。ぜひとも、ご支援をよろしくお願いします。
既に577万円を超える支援が集まっております。本当にありがとうございます!クラウドファンディングは11月1日まで続く予定ですので、引き続きご支援や拡散をよろしくお願いします。
これまでのクラファンのnote発信を掲載したマガジンがありますので、ぜひ読んでください。
さあ、いよいよラストスパートです!11月1日まで、どうぞよろしくお願いします。