見出し画像

旅情奪回 第五回: 「いつか使う」旅だけのお供。

 「いつか使うから」。この言葉に対して、どこまで寛容でいられるかは、相当肝心なことである。たとえば、大掃除などをしていても、「いつか使う。だから捨てない」という方向に行くのか、「いつか使う、は二度と使わない、だ」と割り切って処分するかによって、居住スペースを狭くも広くもする。どこか、棚なり引出しにしまって、三年開きもしなかったらそれは衣服であれ、道具であれ不要なのだ、と言う人もある。人によっては、それが一年だったり、五年だったりするかもしれない。これまた、何に対して寛容であるか、というスタンスによるに相違ない。
 この「いつか使うから」の公式に当てはまらないのが旅道具ではないだろうか。というのも、自身の持ち物を見回してみても、旅の時にしか使わない道具、というのがある。こうした道具たちは、普段は結構な場所を占めているが、次はいつともアテの知れない旅の計画のために、不当に追いやられたり、処分リストに加えられることもなく、静かに出番を待っている。
 だが、旅道具と言っても、十把一絡げに括れるわけではない。それらは、例えば海外旅行用のコンセントの変換プラグとか、スマートフォンの携帯充電器などという必要不可欠なものがほとんどかもしれない。しかし、こうした必需品とは違う、旅の時にしか持っていかない「不可欠でない道具」というものもある。そうしてそれらは、旅道具だという理由だけで、「いつか使うから」の寛容性の恩恵に浴しているわけである。
 「旅上手は荷物が少ない」と心得ているつもりである。私は、「仕事」、「旅行」、「帰省」の三つに分けた、実に細かい旅支度のチェックリストを作っていて、これも時々更新している。そのリストの中に、いわゆる特別枠という欄があり、ここには、例の「不可欠でない道具」が名を連ねることになる。
 旅の魅力には色々あるが、旅先で使ってみたい道具、というのもまた大きな楽しみではないだろうか。普段は活躍の場がないこと明白な道具を買ってみては、いつか行く旅での活躍を夢想する。いざ旅になれば、それらの中からいくつか選んで実際に持って行ってみる。先日も、大した荷物量でもないのに、USBで充電できる手のひらサイズの圧縮機を持参してみた。旅先から帰る前の晩、事前に覚えていった説明の手順通り、衣類やかさばる荷物を真空パックしていく…。これは…自分で畳んで詰めた方が早いのではないか!? そんな理性がたびたび脳裏を過ったりもしたが、なんだか無性に楽しかったのは間違いない。同じような気持ちになった旅道具たちを数え上げればきりがない。
 たとえ寝かしている時間の方が長かったとしても、これら旅に不可欠とは言えない道具たちとの旅先でのふれあいは、やはり止められないのである。(了)
*(20190927執筆)

旅情奪回-5


この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?