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センセイから見た「SDGsトイレットペーパー」誕生ヒストリー②

今回はPlungerの「チームビルディング」と「クラウドファンディング」について綴っていく。前回の記事はコチラ。

チームを創る、チームで創る

怜歩(らむ)が自分自身のビジョンに気付くことができたので、次のステップとしてチーム・ビルディングを検討した。怪我の功名で、新型コロナウイルスによるオンライン化が急速に進み、専門的知識や経験を持つ社会人と生徒とを繋ぐことが大変容易になった。一介の教師たる自分に出来ることは限られていると考え、知人の力を拝借することにした。

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そこで、課題解決のプロ・コンサルであり、起業家でもある小山耕平(以下「耕平」)に相談したところ、「面白そう!」と二つ返事で快諾してくれた。彼とは4年前にキューバの旅で出逢い、現地でも意気投合してハバナの街を練り歩いた仲だった。

キューバで出逢った当時、ICUの学生で中米から北米にかけて旅をしていた彼は、アメリカ留学中にロイター通信にインターン、帰国後は東大大学院で工学研究に勤しみ、東大発のデザインファームi.schoolで学んだ。卒業後は、外資系コンサルで活躍する傍ら、合同会社を立ち上げ、一般社団法人日本クィディッチ協会代表理事・全日本代表監督という肩書でも活動している異才中の異才である。

怜歩がプレゼンし、耕平も「高校生がソーシャル・グッドを目指す大変価値ある挑戦」というお墨付きを得て、正式に3人でプロジェクトを進めることになった。

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プロジェクトを進める中で、怜歩はアドバイスに応えて、自身のアイディアを深めていった。僕より怜歩に年齢が近く、気さくな耕平の性格も相まって、チームでのミーティングはいつも和やかに進んだ。

より客観的な意見が欲しいということとなり、「バリア・バリュー」をモットーとするミライロの岸田ひろ実さんやLGBTQコミュニティ、トビタテの仲間たちに相談したりすることで、仮説を検証し、アイディアをブラッシュアップさせた。

そんな折に、耕平からの提案で「100BANCH Garage Program」に挑戦することになった。100BANCHとは、松下電器(現・パナソニック)創業者の松下幸之助の遺志を実現させるべく、「次の100年を創る100のプロジェクト」を支援するプラットフォームであり、パナソニック・ロフトワーク・カフェカンパニーの3社が共同で運営している。

プレゼンの末、100BANCHに採択された我々は「トイレに詰まった汚れを洗い流す」という意味を込めて「Plunger(プランジャー、「詰まり」を流す棒、の意)」と名乗り、本格的にチームとして動き出した。メンターにはジェンダー課題に先進的に取り組む渋谷区長・長谷部健さんを迎え、適宜アドバイスを頂いた。

9月22日、渋谷駅近くの100BANCHのコワーキングオフィスにて、実にプロジェクト発足5カ月で初めて対面でチームが一堂に会した。ちなみに、チームが対面で集まったのは、プロジェクト終了までわずか4回のみである。オンライン上でもプロジェクト型学習が十分に可能であるという証左となった。

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プロジェクトを進める上で、僕と耕平が心掛けていたことがある。それは、必ず最終的な意思決定はリーダーである怜歩が行うということだ。大人から見たら「こうした方がいいだろ」と思うことでも、誰のためのチャレンジであるのかは常に考えることが、中高生の探究的な学びを支援する上では不可欠であろう。何せ、答えのない問いについて考え、行動しているのだから。

たとえば、ビジョン実現のためのファーストアクションとして、多くの人に届けたいか、本当に困っている人に届けたいか、という2つのアプローチで迷った際、怜歩は「『ノーマライゼーション』という言葉の要らない世界を実現するには、関心を持っていない多くの人に届けることが必要だと思う」と表明し、ジェンダーフリートイレを設置することではなく、まずは「ジェンダー課題に関心を持っていない人にも、確実に多くの人に届くサービス」を検討した。

そして洞察を繰り返して生まれたのが「SDGsを漫画で学べるトイレットペーパー」というアイディアである。誰しもがトイレを利用することに着目し、トイレットペーパーをメディアとして利用することにした。また、ジェンダーではなくSDGsとしたのは、より多くの人に関心を持ってもらうための手段である。漫画にして、老若男女に楽しく学んでもらうというエッセンスも加えた。

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ここでも耕平のアドバイスのもと、ハイレベルなプロダクトを製作するために、デザイナーをメンバーに迎え入れることにした。そこで、僕が以前担任をしていた武蔵野美術大学の学生・小森未来(こもりみく、以下「未来」)にも加わってもらい、4人のチームでクラウドファンディングに挑戦することとなった。ちなみに、彼女はPlungerのロゴデザインも手掛けてくれている。

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結果として、4人のチームは最高だったと自負している。リーダーとしてプロジェクトの旗を振る怜歩、プロジェクトマネージャーとしてロードマップを描いた耕平、アイディアをカタチにしたデザイナーの未来。僕は内外の交渉や広報に専念し、もはや怜歩のマネージャーであった(笑)いずれにせよ、多様性に溢れ、それぞれの強みを活かしながらプロジェクトを進めるという体験は、大変尊いものであった。

オリ・ブラフマンなどが著した『ひらめきはカオスから生まれる』では、イノベーションを起こすコツとして「多様性」と「余白」を挙げている。まさに、コロナ禍で意図せず生まれた余白を活用して、多様性溢れるチームで駆け抜けたこのプロジェクトのことを指しているなと思った。

他者とはそもそも異質な存在であると考えれば、わざわざ空間で学ぶという意味での学校には、今後ますます「異質性」の担保が求められるだろう。チームで協働することによって、異質の他者を「認める」という消極的承認ではなく「活かし合う」という積極的承認を、生徒たちには経験して欲しい。


Think to Build?Build to Think?

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いよいよチームも結成し、方向性も固まってきた。トイレットペーパーのコマ割を怜歩・耕平・僕で考え、未来にデザインしてもらうというミーティングを10回以上も重ねた。作っては作り直し、作っては作り直し・・・。小学校高学年から大人まで楽しみにながら学べるというコンセプトのもと、17の4コマ漫画を全て「トイレ」か「ジェンダー」に関連させながら構想した。

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変化が激しい時代ではPDCAサイクルでは対応しきれないと言われ、クリエイティビティが求められるビジネスの現場では「Think to Build(作るために考える)」ことよりも、「Build to Think(考えるために作る)」ことが優先されることがある。我々も例に漏れず、トイレットペーパーはプロトの段階でクラウドファンディングをスタートし、広報活動を始めた。

鎌倉市長の松尾崇さん、トビタテ!留学JAPAN発起人の船橋力さん、ミライロの岸田ひろ実さんにSNSを通じて応援メッセージを依頼したところ、皆さんからご快諾頂いた。高校生発のプロジェクトに対し、いかに大人たちが未来への投資に協力し、手を差し伸べてくれるかということを実感した。

また、FM Yokohamaはじめ数多くのメディアにも取り上げて頂き、わずか開始1週間で目標支援額の40万円をクリアしてしまった。そして、約2カ月で100名超の方々から延べ846,000円の支援を頂くことになった。

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一方、トントン拍子であったかと言われれば、全くそんなことはなかった。たとえば、消費財への「SDGs」掲載許可を得るために国連に英語でメールをしたり、トイレットペーパーの最小ロット数が4種類×1,000個の4,000個であると判明し1mm単位で漫画を調整したり、トイレットペーパー自体よりも配送料が高額で収支計算にヒヤヒヤしたりと、舞台裏では何度もピンチが訪れ、その度に臨時ミーティングを重ねて対応してきた。

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そんな中、クラウドファンディングは「共感」してもらえるかどうかが生命線で、「プロダクトへの共感」のみならず「チャレンジャーへの共感」という意味で、必死に取り組んできた怜歩に共感して下さる学校内外の方々が多くいらっしゃったことは、いつも大きな励みになった。クラファンをやって、いかに多くの方々が支えてくれているかを知った。心から感謝する機会にもなった。


2021年3月末、プロジェクト開始から丸一年。ついにトイレットペーパーが完成した。

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トイレットペーパーを支援者に発送しつつ、鎌倉市内全ての小中学校25校に500個、鎌倉駅東口の公衆トイレに500個を寄贈した。その他、トビタテのコミュニティや100BANCH、横浜市の奨学財団等でも報告会を行った。また、彼女の活動が他の学園生の刺激になればという想いで、学校にも200個寄贈した。

有り難いことに多方面から問い合わせを頂き、今後もSDGsの啓発活動に努めていく。

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鎌倉市・松尾崇市長への寄贈式


最終回は、探究的な学びの意義と学校の担う役割について書きたい。


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