
不死の狩猟官 第5話「そんなのってねーよ」
あらすじ
前回のエピソード
霧崎「生きてたんすね……」
キルスティン「きりっちと目つき悪男のおかげでね」
黒上「誰が目つき悪男だ」
身動きできず短機関銃を構えたまま不機嫌そうに眉をひそめる黒上。
四つ目の不死者は尾の先から血を流しながらキルスティンを睨む。
四つ目の不死者「貴様、まだ生きていたか」
キルスティン「こんくらいで死んでちゃ三等狩猟官は務まらんよ」
剣を片手に四つ目の不死者と対峙するキルスティン。
黒上「あの女、真正面から戦うつもりか……?」
キルスティンはおもむろに片手を前に突きだし、突きだした手のひらを剣で真横にゆっくり斬りつけながら血を滴らせる。
キルスティン「二種が相手となれば、使わざるをえないか」
四つ目の不死者「まさか──」
黒上「血殺術を使うつもりか……!?」
霧崎「血殺術?」
黒上「狩猟官は体内に不死者の血を宿す。血殺術はその血を代償に不死者の力を引き出す」
四つ目の不死者「──!?」
刹那、四つ目の不死者の背後から心臓を一突きするキルスティン。
キルスティン「血を流し切ってもらうよ」
四つ目の不死者の心臓を貫いたまま刃をひねるキルスティン。
四つ目の不死者の胸からさらに血が流れる。
四つ目の不死者「調子に……のるな!」
振り向き様に軍刀を振るう四つ目の不死者。
しかし、キルスティンの姿はそこにはもうない。
キルスティン「君の能力は視界内の者の身体を拘束する能力といったところかな」
四つ目の不死者「がぁぁぁ」
四つ目の不死者の頭上から現れ、目に剣を突き刺すキルスティン。
キルスティン「でも、姿が見えなければ意味がない」
四つ目の不死者「ぎゃぁ」
四つ目の不死者の腹下から現れ、目に剣を突き立てるキルスティン。
四つ目の不死者「まるで動きが見えない……」
四つの目のうち三つの目を失い、傷口から血を流す四つ目の不死者。
ようやく身体の自由がきくようになった黒上は空の弾倉になった短機関銃を捨て、ジャケットの内側から拳銃を取りだす。
黒上「そうか。ヤツは目に入った相手の動きを止めていたのか」
霧崎「それでキルスティン先輩は目を狙ってるのか」
再び不死殺しの刀を構える霧崎。
黒上はすばやく拳銃を構える。
黒上「俺たちも加勢するぞ」
霧崎「おうよ」
四つ目の不死者の視線の外に出るように大回りしながら懐に向かっていく霧崎、そして、その背後に隠れながら拳銃を構える黒上。
四つ目の不死者「ザコ共は大人しくしてろ」
キルスティン「よそ見してる場合かな」
二人に気を取られた四つ目の不死者の側面から姿を現すキルスティン。
とつじょ、バンッと一発の銃声が響く。
霧崎「は?」
キルスティン「え……?」
床に剣を落としてすとんと倒れるキルスティン。
霧崎「お前……何してるんだよ……」
黒上「違う……俺じゃない」
床に倒れたキルスティンに銃口を向けて見下ろす黒上。
四つ目の不死者はニヤリとほくそ笑む。
四つ目の不死者「能力ってのは最後まで隠しておくもんだ」
黒上「見誤った……ヤツの能力は相手の動きを止める力なんかじゃない──」
霧崎「まさか……」
四つ目の不死者「トドメだ」
四つ目の不死者はまるで拳銃を構えているかのように片手を突きだし、倒れているキルスティンに向かってゆっくり引き金を引くようなそぶりを見せる。
黒上「やめろ……」
床に倒れこむキルスティンに何度も銃弾を浴びせる黒上。
キルスティン「──!?」
キルスティンの腹部からおびただしい血が流れる。
四つ目の不死者は不気味な笑みを浮かべながら今度は自分のこめかめに片手を突きつける。すると、黒上もまた四つ目の不死者の動きに合わせて、自分のこめかめに拳銃を突きつける。
霧崎「やめろ──」
とっさに四つ目の不死者に斬りかかる霧崎。
しかし、霧崎の刃が届くよりも先に乾いた銃声が響く。
黒上「──!?」
バンッとみずから脳天を撃ち抜いて床に倒れる黒上。
霧崎は四つ目の不死者を前にして振り上げた刃を振り下ろせない。
霧崎「テメェ、ぐちゃぐちゃにしてやる」
四つ目の不死者「安心しろ。お前もすぐに仲間のもとに行かせよう」
自分の首元にまるで刃を沿わせるようなそぶりを見せる四つ目の不死者。すると、霧崎もまたつられるように自分の首元に不死殺しの刀を沿わせる。
霧崎「俺は不死身だ。死ぬかよ」
四つ目の不死者「不死の身体といえど、不死殺しの刀で斬られれば命はあるまい」
霧崎「──!?」
自らの首を刎ねる霧崎。
かと思いきや、次の瞬間、霧崎は四つ目の不死者の背後に立っていた。
キルスティン「能力は最後まで……隠しておくもんでしょ?」
血だまりのなか息たえだえに床に横たわりながら霧崎を見つめるキルスティン。
霧崎「これは先輩の力?」
四つ目の不死者「まさか、あの三等狩猟官の能力は位置を──」
霧崎「死にやがれぇぇぇ」
四つ目の不死者「間に合わな──」
不死殺しの刀で四つ目の不死者の心臓を貫く霧崎。
四つ目の不死者は大量の血を流しながら床に倒れる。
霧崎は鞘に刀を納め、冷たい床に転がるキルスティンを抱き寄せる。
霧崎「俺、殺りましたよ」
キルスティン「ごめんね……」
霧崎「へ?」
キルスティン「帰ったら……一万円返すって約束したのに…………」
霧崎「なに言ってんすか」
腕の中で弱々しく息をするキルスティンを見つめる霧崎。
黒上「残念だが、キルスティンは助からない」
霧崎の背後からキルスティンを見下ろす黒上。
霧崎は眉をひそめながら黒上を見上げる。
霧崎「お前、頭に銃弾を受けたんじゃ……」
黒上「確かに俺は自分で自分の頭を撃った。だが、実際にはかする程度で済んでいた。おそらくキルスティンの能力だろう」
霧崎「じゃあ、お前もキルスティン先輩に助けられたってことだよな? なんでそんなに冷静にいられんだよ」
黒上「狩猟官にとって仲間の死は珍しいことじゃない」
キルスティンは虫の息であったが、決して苦しそうには見せず、二人の前でにこりとほほえむ。
キルスティン「二人は……生きてね……」
黒上「……」
霧崎「……そんなのってねーよ。先輩みたいに優しい人が死ぬのは嫌だ」
腕の中でじょじょに弱っていくキルスティンの姿に力なくうなだれる霧崎。
黒上はおもむろに腰からナイフを取りだし、虫の息のキルスティンにゆっくり近づく。
黒上「こうなったら仕方ない」
霧崎「おまえ、何する気だ」
黒上はキルスティンの前で立ち止まり、片手を突き出す。そして、自分の手のひらをナイフで横一文字に斬りつけ血を滴らせる。
黒上「俺はキルスティンがいなければ、今ごろ死んでいた」
霧崎「それは血殺術……?」
黒上「安心しろ。キルスティンに俺の命を分ける」
霧崎「どういう意味だ」
黒上「お前は目をつむっておけ。見ないほうがいい」
霧崎「意味わかんねえよ」
黒上「早く目をつむれ。助けたくないのか」
霧崎「分かった。でも、絶対助けろよな」
おとなしく目をつむる霧崎。
次の瞬間、人のものとは思えない不気味な甲高い叫び声が室内に響く。
黒上はワイシャツをちぎり、血が滴る手のひら傷口に布を当ててしばる。
黒上「よし、もう目を開けていいぞ」
霧崎「いまの声はいったい……って、おまえ鼻から血が出てるぞ」
黒上「気にするな」
乱雑に鼻血を指で拭いさる黒上。
キルスティンは霧崎に抱きかかえられたままゆっくり上体を起こす。
キルスティン「君の血殺術、だいぶ変わってるね」
霧崎「身体、動かして大丈夫なんすか?」
キルスティン「うん、大丈夫みたい。ほら、この通り」
血まみれのワイシャツの上から何事もなかったかのようにお腹を叩いてみせるキルスティン。
キルスティン「痛ってて」
黒上「バカ。おとなしくしておけ。俺がなかったことにできたのは数発の銃弾だけだ」
霧崎「どういうことだよ」
キルスティンは霧崎の口に小さな指を押し当てる。
キルスティン「能力の詮索は禁物だよ。たとえ、仲間であっても、おいそれと話すべきじゃない」
霧崎「そういうもんなんすね」
キルスティンは静かに立ち上がり、黒上と向き合う。
キルスティン「目つき悪男君のおかげで助かったよ」
黒上「その呼び方は止めろ。俺は第二諜報課 四等狩猟官の黒上だ」
キルスティン「私は第三強襲課 三等狩猟官のキルスティン・アルバーン。礼を言うよ、黒ちゃん」
黒上の前に片手を差しだすキルスティン。
黒上はそのあだ名に少し気恥ずかしそうにする。
黒上「……俺もあんたのおかげで助かったんだ。だから礼は不要だ」
キルスティンと握手を交わす黒上。しかし、その表情は何か訝しむような表情だ。
キルスティン「ん? どした」
黒上「……正直、たった三人で二種を殺せたのは奇跡的だ。お前……なんで三等狩猟官に甘んじてる」
キルスティン「いやー私、勤怠とか悪くて……飲み過ぎちゃうと次の日に起きられないんだよねぇ」
苦い表情をするキルスティン。
霧崎は思わず苦笑する。
霧崎「俺もバイトにしょっちゅう遅れてたんでそのキモチすげー分かるっす」
キルスティン「いぇ~えい、仲間!」
ハイタッチする霧崎とキルスティン。
黒上は呆れたようにため息をつく。
黒上「最後にもう一つ聞きたい。もう一本の剣、なぜ抜かなかった」
キルスティンは背中に差した一本の剣を取り出す。
キルスティン「ああ、これはね、抜かないじゃなくて抜けないんよ」
黒上「どういうことだ」
キルスティン「能力の詮索はなしだよ。それより目つき悪男君はさ──」
黒上「おい」
キルスティン「黒ちゃんはどうして魔都品川区なんかに来たのさ」
黒上君「機密事項だ。もっとも第三強襲課の課長は知ってるだろうが」
キルスティン「レイ課長が?」
霧崎は二人の間に入って、そーっと手をあげる。
霧崎「そーいや、車内でもキルスティン先輩はレイ課長って言ってたけど、もしかしてレイさんて偉い人?」
キルスティン「うん。偉いよ」
黒上「めちゃくちゃな」
霧崎「え、まじすか。態度とか言葉遣いとかでクビになったりしないすよね……?」
急に青ざめる霧崎の顔を見てゲラゲラと笑うキルスティンと黒上。
満身創痍の三人は早々に会話を切り上げ、建物から出る。

建物から出た黒上は怪訝そうに眉をひそめ、先を歩く二人の後ろ姿を見つめる。
黒上「……しかし、まさか第三強襲課が動いてくるとは」
キルスティン「おーい、置いて帰るぞー」
行きに乗ってきた車に乗りこんだキルスティンが車窓から顔を出しながら呑気に黒上に手を振っている。
黒上は頭に浮かんだ疑念を忘れるかのように横に首を振り、いまはキルスティンたちが待つ黒塗りの車に向かった。
三人はこうして魔都品川区を後にした。
第5話「そんなのってねーよ」完
第6話「京都からアイツらが帰ってくる」
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