11月7日発売の『レイシズムとは何か』(ちくま新書)「はじめに」部分公開

みなさん、梁英聖です。

明日11月7日に、新刊が出ます。

タイトルは『レイシズムとは何か』。ちくま新書からです。

発売日は明日なのですが、ネットではもう買えるようですね。

版元ドットコムのリンクはこちらです。

恐れ入りますが、皆様、ぜひ買って読んでくださいませ!

正直、かなり苦労して書きました。なにせ、タイトルが「レイシズムとは何か」です。入門書として平易さを目指しつつ、できるだけ内容を落とさずに書くのは簡単ではありません。

しかし類書はありません。レイシズムの入門書として、タイムリーな本を出せたと自負しております。

ここで、本書の「はじめに」の冒頭部分を、紹介します。どのような本なのか知ってもらうには、読んでもらうのが一番よいでしょうから。

はじめに

†「できるだけたくさんのメキシコ人を撃ちたかった」

 「できるだけたくさんのメキシコ人を撃ちたかった」──。二〇一九年八月三日、米南部国境に近いテキサス州エルパソのウォルマートで、メキシコ系移民を狙って銃乱射事件を引き起こした犯人は警察にそう語ったとい1う。その日のうちに二〇名を殺した犯人は二一歳の白人男性だった。彼は白人至上主義者が頻繁にヘイトスピーチ(差別煽動言説)を書き込むインターネット掲示板「8ch」(元々日本の「2ちゃんねる」を真似たもの)に犯行声明を投稿している。それによるとヒスパニック系の移民のほうこそ「テキサス州を侵略」してきた側であり、そして自分の銃撃は侵略への対応策であると公然と主張していた。

 いったい若き白人男性に、メキシコ系移民を侵略者だと思わせ、移民をできるだけ多く撃ち殺すことをそれが義挙であるかのように確信させたのは何だったのか。銃乱射事件を夢見るだけでなく、実際に計画させ、犯行声明を書かせ、自宅から一〇〇〇キロの道のりを一〇時間以上かけて車でドライブしてまで実行させたものとは何だったのか──。

 レイシズムは単なる差別ではない。レイシズムは最悪の暴力現象を組織する差別だ。

 その秘密はレイシズムが一種の「正義」に依拠している点にある。人種差別や暴力を引き起すとき、人は「社会は防衛しなければならない」というレイシズムの正義に衝き動かされているのである。もし「メキシコ人」が米国に「寄生」して社会福祉や職を奪ったり、「侵略」して国家を蝕むのなら、どうしてそのような「敵人種」を積極的に差別して追放してはいけないのだろうか? そのような「敵人種」などむしろ殺すべきではないか? いやむしろ殺さない限り「私たち」の社会の安全が保てるはずがないではないか?
 エルパソの犯人のように「敵人種」を「できるだけたくさん」殺すようレイシズムに衝き動かされ、世界各地でヘイトクライム(差別を動機とする犯罪)が頻発している。このままでは世界はレイシズムによって社会と民主主義を徹底的に破壊されてしまうだろう。

 本書はレイシズム(racism人種差別/人種主義)が偏見や差別にとどまらず、最悪の暴力に結びつくメカニズムを分析するという課題に、正面から取り組む。これが本書の第一のテーマである。

このレイシズムが暴力に結びつくメカニズムの分析は、現在頻発している様々な政治現象を読み解くうえで絶対に欠かせないものなのです。

詳しくは次回に書こうと思いますが、たとえばトランプ大統領。

米国の選挙でどちらが勝とうと、「内戦」の危機が叫ばれています。

(記事の萱野稔人氏のコメントは問題ですがいまは論じません)

ここまで危険な状況を招いたのは、なにか。それがレイシズムです。

トランプ大統領が移民排斥を訴えるレイシズムを煽動し続けた結果、市民社会のレイシズムを暴力に結びつける社会的回路が著しく発展したこと。

これこそが、問題の核心です。

「はじめに」に書いた通り、本書『レイシズムとは何か』(ちくま新書)の第一のテーマがこれです。

しばらくこのブログを使って、本書『レイシズムとは何か』(ちくま新書)でどういうことを言いたくて書いたのか、昨今のレイシズム現象をどのように読み解けるのかを、書いていきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?