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マイ初日 浅利先生追悼公演『エビータ』 2019.06.21(金)マチネ

6/17(月)ソワレが初日というめずらしいスケジュールであったこの公演。諸事情でマイ初日がすっかり遅くなってしまったが、ひとまずオープニングキャストで観られてよかった。

何と言っても注目は、この公演でエヴァデビューした谷原志音さんだ。結論から言うと、かなりよく仕上がっていたと思う。声が野村玲子さんにそっくりでびっくりした。世の中でも絶賛されており、もちろん私も素晴らしいエヴァだったと思うのだが、それでもやはり、エビータ役にはもう一段上の歌唱力を期待してしまう。野村さんが歌えていたかどうかというのは別の話で、2000年代にエヴァをひとりで担っていたと言ってもよい、井上智恵さんと同じくらいの歌を望んでしまうのだ。その点では少しだけ期待が大きすぎたというのが正直なところだ。
そして二幕はもっと上達の余地があると思う。もちろんまだ若いため、弱ってからの演技がわざとらしくなってしまうのはやむなしだと思うのだが、それだけでなく、「金は出ていく…」でのお金の配り方なども、玲子さんからぜひ学んでほしいと思う。まだまだもっと素晴らしいエビータができる人だと信じている。
マイナスポイントばかり書いてしまったが、そんなことは瑣末とも思えるほどの、待望のエヴァ役者であったことは間違いない。これはキャスティングされている残りのふたり(江畑さんと鳥原さん)は出てくるのが大変だと思う。(歌唱力は江畑さんに期待しているよ。)

この作品は、オープニングからブエノスアイレスまでが特に息が抜けない。あっという間に終わってしまうのだ。そこを引っ張っていく谷原エヴァの魅力は素晴らしかったし、それ以上にアンサンブルの厚みに驚かされた。
アンサンブルに、谷原さんと同じアリエル役者の小林由希子さんがいたり、あるいはエポニーヌや美女と野獣ベル、SOMマリアなどを歴任した平田愛咲くさんがいたりするのだ。男性ではラウル役者の鈴木涼太さんなど。こんな贅沢な『エビータ』があるだろうか。さすが追悼公演と言わざるを得ない。

葬儀の後の一曲目「こいつはサーカス」は「泣かないでアルゼンチンよ」と同じメロディだ。しかし曲調があまりにも異なるため、同じメロディであることをうっかりと聞き落としそうになってしまう。わたしは「こいつはサーカス」の方が好みの曲だ。(だから同じだって。)

その「こいつはサーカス」を歌う、チェ役の芝清道さん。私が初めてこの作品を観たのは、マドンナの映画と前後した頃だったので、おそらく1996年だが、そのときにはすでに芝さんがチェをやっていた(エヴァは野村さん)。20年を超えてやっていると、もう役が体に染み付いているのだと思う。いつもどおりの美声と声量で、総じて満足なのではあるが、やはりちょっと馴れすぎているのか、歌い方が雑だと思われるところが散見された。もっとも、これは本人が丁寧に演じていないということではなく、体力がついていっていないだけかもしれないと感じた。ほとんどの人は気にならないと思う。それほどに魅力的なチェだ。

一方で、ペロンの佐野正幸さんは比較的新しいキャストだ。一時、チェを演じていたこともある(というかずっと稽古していてなかなかOKが出ず、ようやく出られたのだと聞いている)佐野さんだが、あの貫禄はペロンにぴったりだ。怪人や野獣で聞かせてくれた歌唱力も健在。現在、劇団がキャスティングできる最高のペロンだと思う。
欲を言えば、谷原エヴァに相応しい若いキャストが出てきてくれればとも思うが、追悼公演であることを思えばこれでよかった。

しかしそれにしても、この楽曲と演出の素晴らしさよ。この作品を演じることができる俳優が限られるためか、なかなかロングランはされないが、本来であればもっと長く劇場を埋めることができる傑作だと思う。

余談であるが、カーテンコールはやはりブエノスアイレスのテーマに乗って颯爽と出てきてくれた方が好みだ。今のものも威厳があってよいのだが、エヴァの死という重い課題を受けた後だからこそ、夢溢れた時代の一曲で締めくくってくれたらありがたい。

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