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音楽劇『ライムライト』 2019.04.15(月)マチネ&04.22(月)マチネ

観劇してからすっかり時間が経ってしまった。2015年の初演時には涙が溢れて止まらなかった『ライムライト』。今回、満を持しての再演ということで期待も高く劇場に向かった。

私事であるが、この2回の観劇の間に季節外れのインフルエンザにやられてしまった。そのため、この間に予定していた観劇はすべてキャンセルし、結果的には連続ライムライトとなった。それはそれで、ライムライトの世界に生き続けることができたという点でよかったと感じている。

さて、物語。
往年の大コメディアンだったカルヴェロが、老いて仕事を失くした日々。若き才能溢れるバレリーナであるテリーの自殺未遂を救うところから始まる。
ここではカルヴェロの苦悩とテリーの苦悩それぞれに意味があり、テリーが先に救われることでカルヴェロをも救おうという展開と考えるとわかりやすい。そのため、一幕では二人の苦悩がともに描かれるが、二幕ではほぼカルヴェロの苦悩にフォーカスされる。(テリーはテリーで傷つくのであるが、それは日常の一部と捉えることとする。)

厳しいことを言うようであるが、テリー役の実咲さんがいまひとつハマっていない。初演の野々さんがあまりにも素晴らしかった(芝居のみならずバレエも)ため、その点ではかなり消化不良であった。そのため、テリーの踊れない苦悩もイマイチ共感できず、一幕最後に立ち上がったときこそ多少涙が溢れるものの、前回のように一幕を通じてずっと涙するというわけにはいかなかった。しかし愛妻は一幕でも号泣しっぱなしと言っていたので、単なる好みの問題なのかもしれない。愛妻も、バレエは野々さんが圧倒的に上手だったと言っていたが、芝居はともに満足したようであった。

そして私の大好きな保坂知寿さん(元舞台女優のアパート大家役)。彼女も今回の公演はイマイチ本領発揮できていなかった気がする。初演時は、出てくるだけで場の空気を変えるほどの力を持っていた保坂さん。今回は逆に、あまり目立ちすぎないように気をつけたのかもしれないが、彼女のカミソリのような演技が影を潜め、ちょっとだけ残念であった。

と、いまいちだったところを先に挙げておくのであるが、とてもとても素晴らしい公演であったことは間違いない。

カルヴェロに助けてもらい、バレリーナとして再生を果たすテリー。そのテリーが何十歳も年上のカルヴェロにプロポーズする。それを断り、姿を消すカルヴェロ。この気持ちは分かる人もいればわからない人もいるだろうと思う。
まず、テリーは「私が貴方を幸せにする」と言うのであるが、ここで言う幸せの定義は何だろう。私には、カルヴェロにとっての幸せは「舞台で成功すること(喝采を浴びること)」以外にないと思うので、テリーがいわゆる「円満な家族、のどかな時間」を以て「幸せ」と考えていたのなら(そう考えていたのは間違いない)すれ違いもやむなしという気がする。
そしてもうひとつ、年下の若い女の子に養ってもらうことに対するプライドもあったろうが、それと複雑に絡み合うのが、ネヴィルの存在だ。カルヴェロは、年齢的にも社会的にもテリーと釣り合う男性であるネヴィルの存在を知っており、テリーはネヴィルと結ばれるべきだと考える。もちろんこれは本当にそれを望んでいるというよりは、傷つきたくないという保身の側面が強いとは思うが、そればかりでもなく、テリーの幸せ(もちろん、舞台で成功することではなく、円満な家庭を築くことを意味する)をも願い、身を引くのが美しいと考えたのだ。これは美学の問題かもしれない。

そして、大道芸で生きるカルヴェロ。わたし的、いちばんの泣き所だ。あのシーンのカルヴェロは、本当に生き生きしている。そして、芸で生きるということがどういうことなのかを、わたしに教えてくれる。

これまた完全に私事であるが、私はアマチュアマジシャンだ。もう40年もの間、手品をやり続けているが、ほとんどの場合、見る人を限定してやってきた。アマチュアだからこそ、見せたい人にだけ見せることが可能になるからだ。
しかし先日ふとしたことで知り合った、マジック歴2年の若者が、ストリートマジックや更には営業活動などを通じていろんな人にマジックを見せていると聞いて、正直、うらやましくなった。
今の自分にそこまでのバイタリティはないが、少しでも彼に近づけるよう、私の手品を多くの人にご覧いただけるよう、新たな活動へ一歩を踏み出す後押しをしてくれたのだ。
そこへ持ってきてこのカルヴェロの大道芸。これだよこれ。やはりショーマンはショーを見てもらってなんぼなのだ。若いマジシャンとのちょっとした邂逅と、そしてこのライムライト再演の時期が重なったことは天啓とも言えた。

カルヴェロは友人たちの優しさに支えられ、最終的にはホールへ戻る。それだけの価値がある人だったのだと思う。「あれはサクラなんかじゃない」と最後につぶやくカルヴェロ。命を賭した最期のショーに、観客は心からの拍手を送ったのだと思う。

日本発で、こんなに素晴らしい音楽劇を作り上げてくれたことにただただ感謝したい。石丸幹二さんのライフワークにしてほしいほどだ。これから年を経るに従って、もっともっと味の出るカルヴェロになっていくだろうと思う。

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