[お屋敷の文学](その2)抱擁,あるいはライスには塩を(江國香織)

Photo by mariannehope

■ 最近 文章教室 ばっかりやってて,連載が途切れる危機にありましたが,なんとか続きを.

【お屋敷の文学:その1】『ミーナの行進(小川洋子)』に続く,第2弾は,大好きな江國香織さんの本.抱擁、あるいはライスには塩を 上 (集英社文庫)


■ 本来,「お屋敷もの」はその屋敷に何代も住む ”ある種因縁のある一族” であって欲しい(「楡家の一族とか」)ので,前回の主人公は「お屋敷に1年間預けられる親戚の子」でちょっと不満足でしたが.が今回は,「学校にも行かせないで家庭教師に教わる三大続いた洋館に住む」家族!まさに王道です!

■ 最初の章は,それが,「主人の気まぐれ(実は三男の実の母親の希望)で小学校へ通う(そしてやはり挫折する)」というところから始まります.が,そこで主人公が「衛生概念に堪えきれず嘔吐を繰り返すようになり,それを真似され,教師には「君の方が適応がない」と批判され...というあたりが,本当に ”絶望的ないじめ(違うもの排他)の現場” で,そこだけは読み進めるのがつらいのだが,そのあとはいわゆる江國節.

■ 江國さんの長編には,「輪舞曲形式(語り手が章ごとに入れ替わる)」が多い.(そのなかで一番好きなのは薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木だ)今回は,3世代なので,ちょっとその関係が複雑すぎで.その章が,誰の話なのかを理解するのが難しかった(雑誌に連載してたみたいだけど,なおさら大変だっただろう!).

■あと,あんまり幸せなひとがいないのか?と思ったのが今回.結構「語り手がしんどい思いするエピソード(冒頭含め)」が多くて,読んで幸せな気持ちになりにくいってのが率直な感想.

■ あとは,感情移入できる人がいなかったとか(「ホリー・ガーデン 」でいう静枝とか,流しのしたの骨の主人公とか),菊乃が家に戻ってきたのはなぜか,という伏線が回収されてないところとか.

  まあ,いろいろ不満はいくつかありますが(江國さんは特別なので,もっともっとってどうしても思ってしまう).
  とはいえ,最近では久しぶりにちゃんと読み終えた「長編小説」であり,確かに読み応えのあるお話であったことには間違いありません.



■(次は本当に”洋物”の「お屋敷」に言及したいのだけれど,そんなの書けるようなお話があったかしら...)


■みじかく,これで,おしまい.

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