ワークライフバランスとは①

その日のマーケティング部のプレゼンに、私は怒りを感じた。テーマは「ワークライフバランス」。今の私にはどうすることもできない時間を、自分の思い通りに使える20代半ばの発表者が羨ましかったのかもしれない。

私は保育園に通う子供2人を育てながら働いている。上は5歳、下は1歳。上の娘が産まれ職場復帰をするときに、時短にするか、フルタイムにするかを選択できた。その時の私はフルタイムを選んだ。「ワークライフバランス」を意識して転職したその会社では、残業が少ない代わりにかなりの安月給。それなのに、2時間時短にした場合25%もカットされるというのだ。1歳児で保育園に入れると毎月の費用が嵩む。娘は早生まれということもあり、認可保育園には空きがなく私営無認可保育園に入園した。自治体から多少の補助が出るものの、持ち出し額は毎月10万弱。

「保育料のためだけに働く」

そんな言葉をどこかで聞いたことがある。先輩ママ同士の会話だったかもしれない。SNSで見かけたワーママの愚痴だったかもしれない。とにかくこのネガティブなワードが、現実味を帯びで私に迫ってきた。

「一旦やってみて、無理だったら時短に戻そう」

そんな軽い気持ちでフルタイムでの職場復帰を決めた。復帰後与えられた仕事は営業。その部署には、入社1年も経たない社員ばかりが構成されていた。1週間も過ごすと、その理由がわかる。社長の厳しさや熱の有り余る指導に、所属社員が頑張ることを諦め離れていくのである。

人間には感情がある。この社長から非人道的な言葉を浴びせられ、私もその場を離れたいと思ったことは一度や二度ではない。泣きながら家路についたことも多かった。「迎えが遅くなる」と、涙を堪えながら保育園に電話を入れたこともあった。

気がついたら周囲の誰よりも社歴を重ねていた。幾度となく繰り返される叱責に、頭の悪い私もある程度学習した上、強靭なメンタルが形成されつつあった。

そんな折に2人目の妊娠がわかる。産休育休を取得し、下の息子が1歳になる前に時短で職場復帰をする。出産前にフルタイムで踏ん張ったおかげか、少しずつ昇給していたこともあり、時短分給与がカットされたとしても、許容範囲内。また、保育料も2人とも認可保育園に入園したため格段に安くなった。幼保無償化は家計に大助かりだった。

ここでワークライフバランスを取ることの本当の難しさを知ることになる。

つづく

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