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ノージャンルで自由に言葉を紡ぐ、さつま瑠璃のエッセイ。
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#季語

3月3日——雛人形と母娘

毎年3月になると決まって母からLINEが来る。 「今年もお雛様、出したわよ」 我が家の【雛飾】は祖母の代からあるアンティークだ。小ぶりながらも立派な御殿とぼんぼりがしっかり付いている。所々壊れてしまい色褪せてきているけれど、いつだか母が「このお雛様もそろそろ処分しようか」と言ったとき私が「いつか私が貰い受けるから絶対に捨てないで」と言った記憶がある。古風で美しい【雛人形】。 そして【雛祭】が終われば「お雛様ちゃんとしまっておいたわよ」とまたLINEが来る。【桃の節句】を

2月3日——豆撒いて邪を払う

【鬼は外】、【福は内】。 2月3日は【立春】の前日、節に分かれると書いて【節分】。 もともとは四季それぞれの分かれ目を意味する言葉だったらしい。然し、現在は冬と春の境を指す。春を迎える間近、一年を健康に過ごすために邪気を追い払おうと【豆撒】をするのだ。 東京で一人、その日を迎えた夜。私は実家の行事を思い出していた。 私と3つ下の弟がまだ小さい頃の話。夕食を済ませて居間で寛いでいると、ふとさっきまで居た父の姿が見えなくなっている。 それから急にインターホンが鳴る。ドアを

1月7日——七種粥に舌鼓

カレンダーを見たら「小寒」とあった。昨日のことだ。 ここから節分までさらに寒さが厳しくなるらしい。【寒の入り】。 今日が何の日か、私は忘れていない。午前の仕事を切り上げて、近所のスーパーに向かって「【春の七草】セット」を買う。 積み重なった山から1パック手に取ってカゴに入れるだけでいい、便利な世の中。だって、想像してほしい。昔の人はきっと極寒の野原を見渡して、雪の下から微かに春の兆しを伝える七草を探し、家族の分を摘んで帰ったのだから。 湯を沸かし、青菜を刻んで塩でさっと

1月1日——元日の夜明け来たりて

年越しの季節がやってきた。 紅白歌合戦を見終えて、「蛍の光」を聴いて、「ゆく年くる年」を見て。 ゴーン、とテレビ越しのどこかの神社で除夜の鐘が鳴ったら、みんなで口々に新年を祝いあって——これを【御慶】と言うらしい——、それぞれの部屋へ帰る。 それが我が家のお正月。 【初日の出】を見る人は、早起き。 日が昇るまで寝ていたい人は、スヤスヤ夢の中。 【元旦】の食卓は、関東風の鶏ガラの【お雑煮】。餅つきをした近所の人がおすそ分けしてくれた、新鮮なお餅をこんがり焼いて中に入れる