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如是我聞Podcast #21 4つの道

前回のエピソードでは、スティーブン・バチェラーさんのセキュラーな仏教(宗教性のない、世俗の、時代にあった)プログラムでの、お釈迦様と同時代人であるソクラテスについてお話ししました。今回は、4つの道についてお話しします。

まず、目覚め(awakening)の論理というテーマから始まりました。スティーブンさんは、ご自身の探求のあり方について、文献研究を中心とした仏教学者というよりも、今、この時代の宗教にとって重要なことを研究するという点で、ポール・バダム(Paul Badham)、ディートリッヒ・ボンヘーファー(Dietrich Bonhoeffer)、ドン・キューピット(Don Cupitt)といったキリスト教の神学者・宗教思想家に近いと考えられているのだそうです。キリスト教と同じ概念での神は、仏教にはもちろん存在しませんが、ブッダの説いた法(仏法)の構成あるいは設定(configuration)を調整することだと例えられていました。

ドン・キューピット:1934年英国ランカシャーに生まれる。ケンブリッジ大学で自然科学、神学、哲学を学ぶ。1959年に英国国教会の助祭に、1960年には司祭に叙せられる。1968年から1996年までケンブリッジ大学イマニュエル・カレッジで宗教哲学を講じる。現在、同カレッジの終身フェロー。多数の著作や、BBCテレビの宗教番組への出演をとおして、正統的キリスト教神学や教会のありかたに対して大胆な批判を試み、非実在論的立場から新しい時代の新しい宗教のあり方を探っている。「世界でもっともラディカルな神学者」、「もっともリベラルな宗教思想家」の一人と言われている。(アマゾン・著者紹介)

マハーヴェーダッラ・スッタ(Mahāvedalla Sutta、有明大経あるいは大有明経とも)には、非常に知的な賢人であるコッティタ(Koṭṭhita)とブッダの高弟であるサーリプッタ(Sāriputta)との間に、賢い人と、そうでない人を分けるのは何かという対話が残されています。

智慧、あるいは賢明さとは、実存的で、私たちの生き方全体を包括するもので、単なる知識とは違うものとサリプッタは説明しています。パーリ語には、PannyaとVinnyaという、同じ「nnya」という部分を含む言葉がありますが、Pannyaは意識、Vinnyaは賢明さを指すのだそうです。とはいっても、ある一定の点を超えると、定義はあまり意味をなさなくなる。それは何かという真理を前提とした問いよりも、それと共に何をするのかという問いの方が意味があるのです。意識というのは、ただ起きることであって、何のコントロールもできないものです。一方で、賢明さというのは、一生をかけて鍛錬すること、養っていくものです。この賢明さについて、再び言葉を組み立てることで、新たな仏法の輪郭を明らかにしていきたいとスティーブンさんは考えられています。

目覚めの論理とは、日々話していることを解剖するようなものだと例えられています。なぜこの文章が意味を為すのかということです。チベット仏教では、論理に重きが置かれ、クリティカルに考えることを鍛えられます。救済に至る論理(Soteriology)について、目覚めのプロセスをどのように概念として確立するかを問題としています。伝統的な仏教においては、前々回でご紹介したように(如是我聞 Podcast #19 認識論)、5つの道とされています。形成する→統合する→見る→瞑想する→もはや学ぶのもはない、という5つの道からなるプロセスです。形成というとイメージしにくいかもしれませんが、例えば、画家になるためには、まず基本的に画材や道具の使い方を学ぶことが必要で、これを形成のプロセスと考えるとよいと思います。米からは米が実り、マンゴーの種からはマンゴーが実るという例えがあり、自然の摂理に従う、合理的なプロセスと考えられています。道の法、実践の法とも言われるそうです。

5つの道
1 基礎を形成する道 ー 基礎的な考え方を学ぶ
2 統合を図る道 ー 自分でやってみる(瞑想の中で、無我であること、洞察を深める)
3 見ることができる道 ー ありのままに見るという体験、概念がいらない体験をする
4 瞑想の道 ー 瞑想を続け、ありのままに見ることを妨げることを取り除いていく
5 もはや学ぶことのない道

この5つの道は、様々な宗派に共通しているそうです。しかしながら、少なくとも文章という形では、初期の仏教を伝えているパーリ経典には決して書かれていないそうです。一体これはどこから来たのでしょうか。初期仏教の18の宗派のうちの一つ、サヴァスティヴァーダという北インドでサンスクリット語を用いた宗派によると言われています。

なぜパーリ仏典にはないのでしょうか。5つの道を改めて見てみると、5つ目のもはや学ぶことはないということですので、ゴールに当たります。その前の4つの道は、実は4つのタスクに重なります。このモデルでは、4番目の道に至って、初めて八正道の実践が始まることになっています。スティーブンさんとしては、もっと早くから実践できるのではないかという意味で「歪んだ形」と考えられているそうです。

この4つの道の実践には、伝統的には、目覚めに至る37の要素が紐付けられています。ただし、5つは重複しているという解釈もでき、実質的には32の要素になります。数という観点からも、37という素数では、あまり収まりがよくないと、スティーブンさんには気になるのだそうです。それは、コラージュのアート作品を作るからかもしれないと言われていました。

この32の要素は、4つのタスクに紐づけることができます。さらに、この4つのタスクは、基本的な色である4色にも結びつけることができます。この色との紐付けは、文字があまり定着していなかった時代には、記憶のための仕掛けにもなっていたのではないかと推測されているそうです。

4つの基本色と4つのタスク
黄 地 人生を抱きしめる
赤 火 反応性を手放す
白 空 反応性をなくした状態にとどまる
青 水 道を耕す 
参考:スティーブン・バチェラー Stephen Bachelor
イギリスの仏教者、瞑想指導者。初期の経典(パーリ仏典)に遡り、仏法(Dharma)を現代に生かすための再解釈を行なってきた。チベット仏教僧、禅僧としての修行・指導を経て、ヨーロッパを拠点とした瞑想指導を行いながら、1980年代から、欧米におけるセキュラーな仏教(宗教性のない、世俗的な、時代にあった仏教)を牽引している。邦訳に、ダルマの実践(四季社、2002年)、藤田一照訳(原著:1998年 Buddhism without Beliefs - a contemporary guide to awakening -)がある。

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