ハラワタたち

3

酸の苦み

舌の付け根から苦みがこみ上げてきた。と同時に頬がすぼまるような酸味を覚える。我慢できるか、できないか。とっさの判断を迫られる。

 ダメだ、これは我慢していいヤツじゃない。

 諦めという決意をして便所へ駆け込んだ。

 便座に両手をついて何度も嘔吐くが肝心のものは出てこない。にがずっぱさは収まらない。やむを得ず人差し指と中指を喉の奥へと差し込んだ。舌の奥の方、妙に舌の突起が大きくなる辺りを指で押

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胸一杯の

女は左手の人差し指に毛糸を2回巻き付けた。右手に持ったかぎ針をできた輪の中に通し、新たな糸を引き出す。もう一度糸を引き出して作り目を作り、ふたたび輪の中をくぐって糸を引き出してから、針にかかった2本の糸を新たな糸で同時に引き抜いた。

 細編み。

 かぎ針編みの基本的な編み方のひとつである。
 女はこれといって編み物に長けているというわけではなかった。今日もひたすら細編みを続けているに過ぎない。

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白い歯と、ワンピース。

タグを切り取ったばかりのワンピースは少し石油の匂いがする。今日だけはそれをいい匂いだと思うことにした。水を微妙に弾きそうなぬるっと感もたぶん洗えば消えてしまうから。

 夏のはじめ、私は毎年ワンピースを買ってしまう。白かったり、黒かったりする、長めの、ほとんど切り返しのない自由なワンピース。誰にも会う予定のない日の遅い朝に、それに袖を通す。

 南の方で大量の雨を落としてきたはずの梅雨前線が、まだ

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