見出し画像

「あの頃、文芸坐で」【49】鈴木清順オールナイト⑥清順美学成立の絶頂期「けんかえれじい」「東京流れ者」「殺しの烙印」

画像1

画像2

文芸坐.001

今考えると、六週間のオールナイトを通ったのは体力があったからというところと、学生というどうでもいい身分だったからということに尽きる。そして、この頃から映画鑑賞数がまた増えていく。映画館の空間にいることが心地よかったのは事実である。それは環境が変わっても、今も同じだったりもする。

*     *     *

コラムは、映画を観に行くなら「胸をときめかせながら行く方がいい」というお話。全くその通りだと思う。私も、一時期、映画館から遠ざかっていた日々がある。ここ2、3年、また映画館に通っているわけだが、やはり映画館の空間に入る時は胸がときめく。ネットだ電話だと、逃げられない社会空間から2時間でも解き放たれる世界は最近とても癒しの空間でもある。

そして、ここでまた、値上げのニュースが出ていますね。まだまだ、昭和の時代は値上げという行為で経済を支えることができたのです。そして、消費税などというものもなかったしね…。

*     *     *

プログラムは、文芸坐にハンフリー・ボガードとウィリアム・ホールデン。こんな名前でピンとくる若者も少ないでしょうね。昔々の話ですね。文芸地下は高林陽一の後に、「純」と「青春の門」。これは観に行っているので後日。オールナイトは、泉谷しげるのコンサート。「狂い咲きサンダーロード」の4ch版などというものの上映もあったんですね。そして、芹川有吾監督特集。「安寿と厨子王丸」は、なかなか今見ても独自の雰囲気の作品ですよね。

*     *     *

清順オールナイトの最終回。館内には、いわゆる清順監督の昔からのファンらしい人が集まっていた。なぜわかるかというと、「けんかえれじい」「東京流れ者」のいわゆる名シーンで、大きな拍手が起こる。大向こうから掛け声がかかる。まさに、だから「清順歌舞伎」なのか!という体験だった。まあ、40年前にそこに加わっていた人の多くが鬼籍に入ってしまったのだろうが、この時は、鈴木清順のファンの少しイカれた部分を触感できた。

「けんかえれじい」

普通に考えて、鈴木清順の映画の中で、もっとも面白い映画がこれであろう。高橋英樹が旧制の中学生というのは、かなり無理があるが、だからこそ面白いと言える一作だろう。川津祐介にけんか道を学ぶところから、清順演出は、スピード違反である。そして、いちいち面白い。そして、愛すべきヒロイン浅野順子(故大橋巨泉夫人)の可憐なこと。あまりの過激な喧嘩をしすぎて、舞台は岡山から会津に飛ぶ。田舎での友達が野呂圭介。こちらも中学生には無理がありすぎる。この当時の配役の無茶苦茶さは、映画作りのパワーにも見える。そして、ここで出会う女、松尾嘉代。彼女がもっとも美しく見える映画といってもいい。「髪梳けば 髪吹きゆけり 木の芽風」この句がこの映画のテーマか?岡山での浅野との別れのシーンの美しさ。清順監督のロマンシズムの極致だと思う。高橋が列車に乗り込み東京に向かうラスト!続編が絶対あるラストだ。結果的には続編は脚本のみで映画化されず…。

この時観たフィルムは、あちこち回ったフィルムだったのだろう。これ以上ぼろぼろになると、話が見えなくなるのではないかと思うようなものだった。その後、何度もビデオで観て、何度も感動している作品だが、この時の、ボロボロのフィルムでの鑑賞がもっとも印象的なものだった。

「東京流れ者」

清順映画の中で、私がもっとも好きな作品である。当時の渡哲也が好きだということもあるだろう。とにかく、日活アクションという定型的なものを、ここまで崩して演出するか?と最初に見た時は、本当に驚いた。そして、このフィルムもこの時見たものは、退色と切れ切れの二重苦フィルム。その、切れ切れまでも、清順演出なのか?と思ったりもした。この映画は、その後16mmの綺麗なフィルムを見たりもしている。また、ビデオでも最も多く見た作品だろう。何度見てもたまらない映画だ。

大体、主役の役名が「不死鳥の哲」である。無敵の男が、ヤクザを辞めたいのにやめられない状況。これは、後年の「無頼シリーズ」と似たような状況だ。だが、それが最初から、鈴木清順の異空間の中で演じられる。木村威夫の美術が最もうまく使われた一作とも言える。そして、ラストの撃ち合いは、シュールに哲也が絶対的な強さを見せる。去るときに美しい松原智恵子にいうセリフ「流れ者に女はいらない」「女がいたんじゃ歩けないんだ」。もはや、この到達点でしっかりとこのセリフが生きたセリフに昇華しているのは、映画全編の異空間性があるからだ。映画の嘘はとことん嘘であっていいと、私は清順映画に教えてもらった気がする。

「河内カルメン」

この前も、少し書いたが、清順映画の野川由美子主演作品。田舎から出てきた美女が水商売などを経て、女として成長していく物語。白黒作品だが、美術の異質性では結構見るところのある作品。そして、野川由美子を見るのも楽しい。こういう感じの若い女優さん、今はいないですよね。この作品、映画館で見たのはこの時だけだから、もう一回スクリーンで拝見したいですね。

「悲愁物語」

以前にも書いたので、詳しくは書かない。ゴルフスポ根芸能ドラマ。最後は地獄絵のような感じ。なんといっても、江波杏子が白木葉子のサイン色紙を包丁で切るシーンが脳内に残る

「殺しの烙印」

清順日活最終作。そして、宍戸錠ハードボイルド三部作の最後の作品。宍戸錠の渋い殺し屋が、ご飯の炊ける匂いフェチという、おかしな設定。パロマの提供作品だが、それがあってこの設定なのか?逆なのかはよくわからない。脚本は具流八郎という集団のペンネーム。つまり、鈴木清順という監督に撮らせるために奇想天外に作られた脚本だと思う。話はNO3の殺し屋がNO1になるために殺し屋稼業を続ける話。日活本体が、「訳のわからない映画」という意味もわかる作品。だから、面白いのだが、プログラムピクチャーで興行成績がものをいう世界で作る映画でないことは確か。私的には真理アンヌと小川万里子の日活的ではないヒロインがとても印象的だった。その後、ビデオで何回も見ているが、見るたびに発見がある作品だ。

ということで、鈴木清順特集オールナイト6夜を完全に見切って、これで清順映画も7割方鑑賞。とはいえ、フィルムの状態が悪いということもあったのだろうが、後期作品が結構欠落している。この後、ビデオも含め、穴を潰すことになるのだが、その後見返すと、結構、初期から変な撮り方をしている監督である。もう一度、全作品、スクリーンで見てみたいという希望が私の本心である。とはいえ、最近は、黒澤や小津作品でもそれが難しいのですからね…。この名画をスクリーンですぐにみられない環境はなんとかならないですかね?とにかくも、清順映画は日本映画の宝だと私は思っています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?