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「ファーストラヴ」生きることに怯える人を描く濃厚な有機性。それが役者の演技を激しくする。

昨年公開された「Red」もそうだったが、島本理生原作の映画は重い。ある意味、日本映画が、いや日本人が基本的に持っているような粘着質的な要素が詰まっている。そして、このタイトルからは、想像できない重い内容。そして、何か閉塞感を感じる現代には、こういう親子関係は少なくないだろうと思うし、そう考えればすごくリアルな世界を描いた作品だ。

それもあって、堤幸彦監督作品としては濃厚。北川景子と芳根京子は、女優としてのベストアクトかもしれない。たぶん、二人ともこの役をどう演じるかかなり悩んだのではないか?そこで、行き着いたものがしっかり生かされている感じだ。北川に関しては10歳以上若い演技も一緒にするという難易度が高い状況で、その年齢差もしっかりできているし、感情の溢れる表情がしっかりできていたのが印象的だった。そして、いつもながらに美しい。

娘の父親に対する不信感。そして、そこから受けたトラウマが、男に対するトラウマにもなっている。そんな性的なトラウマは人間として生きるための欠陥にもなっていく。そして、そんな消えないものが少し過去のものにできたら…。という話だ。

話は芳根が父親殺しで捕まった話から始まり、北川は公認心理師として芳根を取材し、自分と同じものを感じる。そして、芳根の弁護をすることになったのは、大学時代の恋人である中村倫也。そして、北川はその兄である窪塚洋介と結婚している。北川が窪塚との生活の時の顔と、仕事の顔を使い分けている感じがよく描けていた。そう、人はトラウマを隠しながらも生活上の演技ができという感じ。いや、北川が窪塚を大切に思っていることがよくわかるのだ。

芳根を追っていくうちに、色々とおぞましい話が出てきて、自分の過去とシンクロしてうなされる日もある。そう、この話はサスペンスというよりは心理劇だ。それは、島本理生の原作の面白いところなのだろう。そこを映画として描くには、映像の力もあるが、あくまでも俳優の能力が問われる。そこのところを理解した結果の北川と芳根だった。

ラストの方で、法廷シーンに移る前に、二人が拘置所で対峙するシーンは、映画として観るに相応しいシーンだった。

それに対して、中村倫也は雰囲気的には良いのだが、どうも北川の演技に負けている感じはあった。弁護士としての法廷シーンも少し凄みが足りない感じ。まあ、基本的に厳しい感じの役がまだできていないのだろう。この辺りができるようになれば、この人はもっと色々演じられるようになると思う。

それに対し、印象的な雰囲気を漂わせていたのは、窪塚洋介。昔は、荒れた感じの役者だったのに、昨年の「みをつくし料理帖」といい、この役といい、なんて優しい顔をするのだ!と驚くばかりである。そして、ここでの彼は、北川と中村を見守って包んでいる感じがすごくよかった。今更だが、今後に期待する!

それとは逆に、芳根京子の母親役で出演の木村佳乃はヒールな役が続く。昨年公開の「ドクターデスの遺産」では、犯人役。ここでは、娘の弁護ではなく検察の証人として出てくるキツい母親。役としてはしっかりできているが、このままこういう方向性で使われて行ってしまいそうな感じがする。それでいいのか?

役者たちの演技がしっかり見られる映画だった。そういう意味で堤作品としては異質な感じもするが、スクリーンを離れる時に、映画を観たという濃厚さを感じた時間だった。

北川景子はこの映画を撮った後に母親になっているのだろうから、自分の子供への思いも強くなったのではないだろうか?とにかくも、彼女の次作が早く観たい。


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