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「さかなのこ」この題材で映画を作るなら、これ以上のものは作れないかもしれないと思わせる快作

沖田修一監督、渾身の一作という感じに見えた。さかなクンの自伝を原作に前田司郎氏との共同脚本で全体構成、細かい部分も、ソツがないできである。見終わった後に元気をもらえる映画にもなっている。そして、映画の最初にもクレジットが出てくるが、主人公を男とか女に限定しないで、ただのミー坊にしたことが最高に映画を自由にしている。夏休みが終わってからの公開にはなったが、「SABAKAN」に続き、親子で見てほしい作品である。

主人公をのんにしたところから脚本を組んだのか、逆なのかはわからないが、この主人公、のん以外はあり得ないだろうと思わせるものがある。彼女も今年29歳である。そんな彼女が学ランを着た高校生をやっても何も違和感がない、ファンタジーな世界を作り上げてるのがなかなかうまい。周囲の高校生も、柳楽優弥だったり、磯村勇斗であったり、岡山天音であったり、皆似たようなとしの面々で構成されていることがまた、ファンタジーを増幅させている。彼らも面白がってやってる感が観客に良い方向性で伝わっている。

そして、最初から最後まで、見事におさかな天国である。肉などこれっぽっちも出てこないですものね。それなのに、魚屋さんは一回も出てこないんですよね。変な映画!

139分と沖田監督の映画らしく、そこそこ尺が長いのだが、無駄を感じない。話もリニアにただ、子供の頃からテレビに出るまでのさかなクンの人生を描いているわけだが、多分、基本的に彼の人生がおもしろすぎるのだろう。所謂世の中のレールに全く乗っていない中で、「お魚博士」になるの一言しかなく、生きていく上で魚に集中することで今があるわけで、「好きこそ物の上手なれ」を体現できる映画なのだ。そして、そういう特異な人には、良い人の縁もあるということ。

水族館で全く仕事ができないことは、人としてダメなわけではなく、そういうルーティンの仕事には全く向いていないということなのだ。そんな人でも、好きなものが一つあって、集中していけば、いつかなりたいものに到達できるということをこの映画は教えてくれる。だから、親子で見て欲しいわけだ。この映画を見ると、良い学校を出て良い就職をすることが実につまらないことに見えてくるところが良い。そういう意味では、ある一定数の親たちからしたら、絶対に子供には見せたくないという意見も出るだろう。だが、これからの時代は、こういう自由な人々が活躍する時代だと私は思う。

主演の、のん。30歳になろうとする今もキラキラしている。その瞳には映画の向こうに吸い込まれていくような魅力がある。そして、演技をしているときはいつもファンタジーの中にいるように演じられるのがとても良い。しかし、お母さん役の井川遥と向き合った時に、のんの顔が二回りくらい小さいことに唖然とした。この子は本当に美しい。日本の女優で、最も素で美しいのではないかと私は思う。そういうキラキラを生かした映画に出続けて欲しいですよね。

さかなクンが、のんの魚博士の指南役みたいに出てきますが、これも、全く邪魔でなく、自然にあるところが実に良かった。ある意味、こういう自由なものは世代を超えて通じたりしますものね。

細かい笑いの作り方もうまく、見終わった後で映画館をニコニコしながら出られることがこの作品の質を物語っておりました。

とはいえ、巷では脚本の前田司郎氏のパワハラセクハラ問題で、この映画を公開することや、公開する映画館を悪く言っている人がいます。私的には、完成された映画は、もはや観客に見せるものであり、映画には罪はないと思います。監督がセクハラをして、公開中止になった映画もありましたが、これも作られたものには罪はない思っていて、私はこういうことには反対です。もちろん、映画館自体のパワハラ問題などでその映画館には行かないというのはわかります。とにかく、この傑作を脚本家がクズだというだけで、差別的に扱うことは私にはできません。一映画ファンの意見です。



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