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「35歳の少女」25年の時間が消えた世界。汚れてしまった世界を変えられるのか?

脚本家、遊川和彦が好きそうな世界である。この春に公開された監督作品「弥生、三月 君を愛した30年」は同じように30年の時間をリセットするような話であった。ここでは、25年の時を喪失した主人公(柴咲コウ)がいる。彼女は子供の時の自転車事故がきっかけで25年間、眠りの中にいた。

考えれば、25年前といえば、1995年。阪神大震災や地下鉄サリン事件があった年である。バブルの余韻の中で徐々にたまった世の中の不安定なマグマが一気に吹き出したような年である。そこに、このドラマの起点をおく。そして四半世紀たった今、私たちは心が壊れたままにパンデミックな世界にいる。

ドラマの中でも、娘の事故がきっかけで、親は離婚、家族は個々に生き、それぞれの内情も幸せなものでは無い。家庭内暴力や、あけすけな浮気、まともな仕事ができない流浪な日々など、これが現代だ!とでもいうように、個々の出演者の苛立ちみたいなものがよく出ている。だから、初回で観るのも止める人もいるのでは無いかと思う流れ。

でも、物語を作るきっかけになったとも思われる、ミヒャエル・エンデ「モモ」の小説を借りた、主人公の友人の坂口健太郎が一人、10歳の心のままの柴咲に寄り添う。多分、リセットボタンが最初に入ったのが彼ということだったのだろう。彼の台詞には、10歳の時は幸せだったことがよく現れ、それが、柴咲が目覚めて初めて、嬉しかった言葉だろう。陰鬱なドラマをちゃんと最後の方で次に興味を持たせるのはさすが脚本家の技である。上の写真の図書館のシーンはなかなかよかった。時岡という柴咲の苗字も、この図書館も、「時をかける少女」へのリスペクトなのか?

柴咲の消えた25年がどのように補填されていくのかと同時に、周囲のイライラしている、鈴木保奈美、田中哲司、橋本愛、坂口健太郎らがどのように心のリセットをして、未来が見えてくるのかが、このドラマの肝になるのだろう。

鈴木保奈美が、事故当日に戻して、すき焼きで全快祝いをするのも、橋本愛がドラマの中でいうように、かなりブラックである。そんなブラックなことの積み重ねの上に、現代の問題点を浮かび上がらせようとしている感じにも見えるが、どうなのだろうか?

世界中で、似たようなリセットを感じている2020年にふさわしいドラマになるかどうかはよくわからない。柴咲コウもまだ演技に困っているような感じがする。とりあえず、次回は観よう。

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