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「茜色に焼かれる」石井裕也監督x尾野真千子で描かれる現代の日本像に映画の存在意味を確認する

映画とは時代を描くものという認識が私にはある。このコロナ禍のど真ん中にある日本を舞台にした映画である。この時代に生きていることで、さまざまに日本人が感じていることが映画の中にうまくまとめられている気がした。今の日本の怒りや生きてる意味など考えて、映画にしてみたらこうなりましたという感じの強い主張にただただ熱くなりました。傑作です!

尾野真千子という女優は、主役をやって光る女優だと思う。144分の上映時間、たっぷり彼女を堪能できた。何がすごいと言えば、観ている方が、どんどん彼女の演じる役の内在するようなところに吸い込まれていくようなところだろう。そして、今、この現代で生きている等身大の人間を表現する能力には感嘆する。この作品が彼女の代表作になったと言っていい。

話は、彼女の夫のオダギリ・ジョーが高齢者の運転する車のアクセルとブレーキの踏み間違いで死んだところから始まる。このシチュエーションのモデルは、いうまでもなく、いまだ逮捕もされない(裁判は行われているが)池袋暴走事故の話であろう。夫が死んで10年、その加害者の葬式に現れる尾野。そして、近親者や弁護士に「迷惑だ」と追い払われる。彼女は弁護士にいう「一言も謝ってもらえなかった」そして、その人の葬式がどんなものなのか確認したかった。そう、彼女は、自分の大切なものが奪われた意味が知りたかっただけだ。

そして、彼女の今が語られていく。時は、コロナ禍、マスクなしでは歩けない不自由な今に、スーパーのバイトと風俗のバイトで暮らしている。彼女には息子が一人いる。彼は学校ではいじめられているが優秀という設定。そして、介護施設に預けてある父親もいたりする。ここには、今日本が抱る貧困の家庭問題が、これでもかというほど詰め込んである。

その描き方は、ある意味リアルであるがゆえに、観客にいろんなことを想起させる。そして、個々でシンクロする部分が多すぎる。風俗が出てくるせいもあるが、男のだらしなさみたいなものも隠さず吐露される。貧困の中にある男は、暴力的で、身勝手であり、そこに未来は見えないというところが、これでもかというくらいに出てくる男のだらしなさは、昔の映画と同じだったりするのだが、これがマスクだらけの現在に描かれるのは、とても痛い。

痛いのが、ヤクザのような生活をしているものだけでなく、スーパーの上司だったり、久しぶりにあった同級生まで、同じような感性に描かれるのは、もはや社会の病んだ状況がここまできているよという監督からの警告なのだろう。

尾野と一緒に風俗で働く片山友希の役もなかなか辛い役だが、似たような境遇にいるものは、今の世の中で多いとも思う。インスリンを撃ち続けなければいけない身体で、レイプされ続ける人生。そして、自虐的な話の中に優しさを感じたりもする。そこに、尾野の息子の和田庵が惚れてしまうのは微笑ましいが、惚れさせる女性だったということが、この映画の救いにもなっている。二人とも、尾野の演技に引っ張られるような好演であった。

風俗の店長で、尾野を助けることにもなる永瀬正敏に共感する人も多いだろう。糞みたいな男には一撃喰らわすしかないと思っている、時代に置いてかれたような感性の男。こういうキャラが置かれるのもこの映画の痺れるところだ。

ある意味、2021年のオリジナル脚本だからこそ見せることができる現代の映像だ。今に怒る人は、とにかく観るべき作品だと思う。作品のあちこちに、いろんな生活の価格のクレジットが入る。この価格が、適正なのか?という問いなのか?それは、2021年の貧困をよく表しているのかもしれない。あと、10年後にこの映画をみて、「こんな時代だったの?」とこの価格がものを言ったらいいと思う。

石井裕也監督の視点はなかなか厳しい。そして、こういう映画はマスコミで語られることもなくスルーされるだろう。自然にそういう方向に流れるのが今の日本である。みっともない話だ!!

私的には、こういう骨太な映画を提示できる監督がいることで、まだまだ日本映画界は終わっていないと思うし、映画というコンテンツの威力も感じた。とにかく、多くの方の意見を聴きたい映画である。

ラストは、そのタイトルの茜色の空が美しい。そして、怒りをさらにためる中でも未来を見つめる尾野真千子の笑顔は美しい。本当に、クソッタレの日本の中で、プライド持って生きていくのって大変である。だが、多くの日本人が、そこを乗り越えて、腐るところまで腐った膿でしかない政治家や高級国民に、「ふざけんじゃねーよ!」と高らかに叫べる国に回帰していかないといけないだよな!と思った次第である。

息子の成績が、全国一番クラスだという設定はとても勇気が出る設定だと思った。そう、まずは学んで、その日に備えることなのかもしれない。

とにかく、あと1週間くらいで上映終わりそうです!時間ある方、気になっている方、是非、映画館でご覧ください!


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