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『みんなが自然な“やくどころ”を感じられる世界へ』 コアキナイ

社会人になってから、
「自分は自分のままじゃダメなんだ」と思うことが増えた気がする。

自分なりに一生懸命頑張っても、
私よりも仕事ができる人は大勢いて、
その中で頑張りを認めてもらうためには、
結果を出さなければいけない。

今のまま頑張ったとしても、結果を出さなければ誰にも認めてもらえない。

学生時代と社会人の一番の違いは、そこにあると思う。
ただいるだけで存在を認めてくれる。
そんな世界からは、もう卒業してしまっているのだ。

社会人になると、会社にとって利益を生む存在であるかどうかで自分の価値が決まる。
だから、会社に認めてもらえるように、必死になって自分自身に価値を付け加えなければならない。

売上に貢献するために、身を粉にして働き、
仕事を円滑に進めるために、相手が求めるリアクションをする。
たとえ、それが自分らしい姿でなくとも、
自分の価値が上がるなら仕方のないことだと。

もちろん、良い結果が出た時は嬉しい。がんばった甲斐があったと思う。
だけど、やっぱりどこか無理しているような感覚になる時がある。
相手が求めている自分は、本当の自分ではない気がするから。

きっと、「相手が求めている自分」を演じ続ければ社会的な成功は得られるかもしれない。
だからこそ、「今の自分のままじゃいけない」と思いながら働く。

だけど、心のどこかでは「そのままの自分でいいよ」と言ってほしいと思っている。
本当の自分と現実との間に生まれるギャップは、思った以上に大きい。

今回紹介する社会づくりプロジェクト「コアキナイ」は、そんな葛藤を抱える人のために生まれた。参加者たちの「自分らしさ」を一緒に探りながら、その価値を見出していく。そうして出来上がった自分らしい商いを中心に、本当の自分を受け入れてもらえる居場所が広がっていくのだ。

そんな「コアキナイ」の主宰者・嶋田匠さんも、かつて「会社で求められる自分」とのギャップに苦しんでいた。

数字ばかりを追い求め、居場所を見つけられなかった会社員時代。
会社の外で見つけた自分の居場所が、「コアキナイ」の原点。

「コアキナイ」の主宰者・嶋田匠さん

大学時代はゼミ長を勤め、アルバイト先の塾ではリーダーを任されていた嶋田さん。
そして、大手人材会社に内定をもらい、この先も順風満帆だと思われた。
しかし入社後、想像以上に厳しい現実が待っていた。

営業部に配属されたものの、なかなか案件を獲得することができない。
同期たちが初受注を決めている中で、自分だけが取り残されているような感覚。
「このままじゃダメだ。社内に自分の居場所をつくるためには、成績を残すしかない。」
そう思って、土日も祝日も投げ打って働いていたと言う。

しかし、そんな働き方も長くは続かなかった。
3ヶ月ほど経ったある日の朝、ベッドから起き上がろうとすると動悸が止まらない。
いわゆるノイローゼ状態だった。
初めて自分に限界が来ていることに気づき、土日は泥のように眠るようになった。

体と心を休める中で、ふと嶋田さんの頭に浮かんだのが、学生時代に趣味で行っていた「無料相談屋」だった。

毎週日曜日の原宿のキャットストリート。「無料相談屋」と書いた看板を掲げて、道ゆく人の相談に乗る。
初めは自らの「傾聴力」強化のために始めたものだったが、無料相談屋はいつしか嶋田さんの居場所となっていった。

「相談に乗ることで何か新しい価値を生み出したわけではなかったけど、お互いに取り繕うことなく等身大で話をすることが、とても心地よかったんです。きっとそれは、ありのままの自分を受け入れてもらえている状態だったからだと思います。

会社では自分が組織にとって価値のある存在であることを証明し続けなければ、居場所を作れませんでした。しかし、あそこなら自分を丸ごと受け入れてくれる居場所になるかもしれない。そう思って、日曜に看板を携えて原宿の路地裏に向かい、無料相談屋を再開しました。」

すると、仕事が多忙でなかなか会えていなかった友人やかつて無料相談で出会った人たちが嶋田さんの元を訪れるようになった。

嶋田匠に会いたかったから。

それだけの理由で自分に会いに来てくれる人たちと話す中で、今まで見つけることができなかった自分の居場所を見つけられたと思った。そのままの自分が価値となっている状態。そこに、会社では感じることのなかった安心感を感じた。

自分のような人にとっての居場所を作りたい。
そのために、店長日替わりのバーを開店。

ソーシャルバー・PORTO

無料相談屋を再開したことで、ありのままの自分を受け入れてくれる場所の大切さを実感した嶋田さんは、自分の居場所を拠点として構えたいと思うようになった。

そして、きっと世の中には自分と同じように居場所を求めている人がたくさんいるはず。自分が場所を提供することで、彼らがそこで自分たちの居場所をつくることができるのではないか。

そんな思いから、嶋田さんは会社を辞め、まずはソーシャルバー・PORTOを開いた。このバーでは、嶋田さんを含めた42人の日替わり店長たちが代わるがわるお店に立ち、彼らの友人やそのまた友人たちがフラっと店に訪れる。

「PORTOという場所は、僕にとっての“よりどころ”であり”やくどころ”なんです。そこに居れば、自分という存在を価値として認める仲間が集まってきてくれる。会社員時代には感じることのできなかった居場所を肌で感じることのできる空間です。」

嶋田さんによると、居場所には2種類あると言う。

まず一つは“よりどころ”。それは、家族や恋人、友人など自分の存在価値を認めている人との間で作られる。利害関係なく、そこにいるだけで自分を受け入れてくれる関係性だ。

そしてもう一つが“やくどころ”。自分が提供する価値が認められている関係性だ。「期待」や「役割」に応えることによって得られる居場所。会社のような組織では、給与だけでなく“やくどころ”も報酬として機能する。

会社員だった頃の嶋田さんの役割は、営業として売上を立てることだった。それが、会社が嶋田さんに求めていることであり、求めていることができないと”やくどころ”は得られなかった。

ソーシャルバー・PORTOのオーナーとなってからは、PORTOという居場所を様々な人に提供することが嶋田さんの“やくどころ”となった。それは、人とのつながりに助けられ、居場所の大切さを心から感じている嶋田さんだからこそ提供できる価値だと言える。

「会社員時代は、会社が求める期待や役割を全うすることで自分の価値を見出そうとしていました。しかし、会社ありきの“やくどころ”はとても不安定なものです。売上を立てても、会社はさらに上の期待をかける。期待に応えられなければ、簡単に居場所はなくなります。しかし、PORTOを始めて、自分をそのまま差し出したような仕事を価値として受け取ってもらえた時、絶対的な”やくどころ”を感じることができたんです。

ありのままの自分でいることで、それを価値として受け取ってくれる人がいる。

その事実が、大きな自信になりました。
そんな自分らしい自然な“やくどころ”を多くの人に感じてほしいと思って始めたのが、「コアキナイ」というプロジェクトです。」

自分起点の小さな商いを応援する「コアキナイ」。
対話の中で自分の中のコアキナイのタネを育む。

「コアキナイ」とは、個人のらしさを活かした商いという意味での「個商」と、小さな商いという意味での「小商」を掛け合わせた造語。つまり、自分らしさを活かした、無理のない大きさの価値交換のこと。そんな質的にも量的にも無理のない商いから、自然な”やくどころ”が生まれるのだ。

そんなコアキナイを生み、育むための社会づくりプロジェクトもまた、「コアキナイ」と名付けた。「コアキナイ」はいくつもの事業によって成り立つプロジェクトであり、コミュニティだ。

自分のコアキナイを見つけるためには、まず「自分らしさ」とは何なのかを知る必要がある。
そのために「コアキナイ」では、事業の1つとして「コアキナイゼミ」という隔週全8回、4ヶ月間にわたるゼミを営んでいる。
ゼミの受講生は嶋田さんをはじめとする講師陣や受講生同士でのセッションやワークショップによって、「自分らしさ」を深ぼり。その過程で自分の中にあるコアキナイのタネを見つけていくのだ。受講生によってタネを見つけるペースは様々なので、個々に合わせてサポートする仕組みが整っている。

『コアキナイゼミ』の詳細はこちら↓
https://ko-akinai.com/seminar/

ペースだけでなく、コアキナイのタネの見つけ方も、人によって様々だ。
過去に感じた痛みや違和感がタネへと変わる人もいれば、ある特定のものへの愛がタネとなる人もいる。
そのタネを「コアキナイ」のコミュニティのみんなと協力して、言語化したり手を動かしたりしながら、ゆっくりと商いへと育て上げていくのだ。

<コアキナイの例>

・ “あなたらしさ”を表現したスパイスカレーが作れるオンラインカレー教室「アパナ・マサラ」
・対話を通してあなたの大切している価値観や想いを言葉にし、曲で表現「あなたレコード」
・自分の幸せを見つける きっかけとなるカフェ「day moon cafe」

「「コアキナイ」はみんなが自然なやくどころを感じられる“森”でありたい」

「コアキナイハウス」の屋上で植物を育てる嶋田さん

嶋田さんの話を聞いていると、「種」や「育てる」「自然な」というワードが多く出てくる。

それは、嶋田さんが「コアキナイ」を一つの森と捉えているから。

小さな種が、土に根付くことで木に育ち、木が落ち葉を落とし、落ち葉を微生物が分解し、また草木を育む土をつくる。
植物も、微生物も、誰もが自分のための営みを行っているのに、自然な循環の中でお互いの豊かさを育んでいる。「コアキナイ」もそんな環境でありたいと嶋田さんは考える。
つまり、各々が自分の豊かさのためにやりたいことを追求した結果、誰かの豊かさに繋がっている状態だ。

「「コアキナイ」という営みを見守る者として、みんなのコアキナイのタネがどんなふうに育っていくのか、ゆったりと心待ちにするという姿勢を大切にしています。急かしたり、過度な期待をかけるのではなく、その人らしい育て方ができるような場づくりをしていきたいですね。」

嶋田さんは、何かに挑戦している人たちに必要なのは、勇気ではなく安心を与えることだと考える。全ての営みを自然なこととして包み込む森のような「コアキナイ」のスタンスは、この考え方から生まれているのだ。

自分にとっての幸せとは何か。
仲間のコアキナイを共に育てる中で見えてきたもの。

「コアキナイ」には、社会的な成功と自分にとっての幸せとの間にギャップを感じている人が多く集まると言う。
「コアキナイハウス」に住む平松さんもその一人だった。

「コアキナイハウス」の住人・平松さん

「もともと営業として働いていたのですが、数字だけで自分が評価される環境に息苦しさを感じていました。さらに、『順調なキャリアを歩むにはどうすればいいか?』『優秀なビジネスマンになるには?』といった会話ばかりが飛び交う社内。最初は周りに合わせていましたが、順調なキャリアを歩むことや優秀なビジネスマンになることが、自分の理想なのか、よくわからなくなっていました。」

そんな時に大学時代の友人から、「コアキナイハウス」への入居の誘いがあった。
「コアキナイハウス」とは、「コアキナイ」の世界観に共感した住人たちが共同生活を送りながらお互いのコアキナイ的な営みを育む、コミュニティの拠点となっているシェアハウス。自分らしい価値、つまり自然な“やくどころ”を生み出したいと願う人たちが集う場所だ。

会社から求められる自分を演じることに嫌気がさしていた平松さんだったが、具体的にやりたいことがあるわけではなかった。

そこで彼が最初に始めたのが、仲間のコアキナイを手伝うこと。
具体的には「コアキナイガレージ」というフリースペースの運営を通して、仲間のお店やイベントづくりのサポートを行った。

その過程の中で、平松さんはコアキナイのタネを見つける。

「仲間と同じ屋根の下に住む中で、自分らしさに価値を生み出そうとする仲間たちの葛藤や苦しみをそばで見てきました。時には一緒に苦しみながらも、少しずつコアキナイを形にしていき、迎えたお披露目の日。その時を思い出すと今でも胸が熱くなります。苦しみを乗り越えて出来上がった仲間のイベントに、たくさんのお客さんが訪れる。そんな仲間の自分らしさが価値として受け取ってもらえている光景には、今まで味わったことのない尊さがありました。その瞬間に、自分にとっての幸せに気づいたんです。」

自分にとっての幸せとは、
高い売上を出すことでも、
優秀なビジネスマンになることでもない。

仲間と嬉しさや苦しみを共有しながら、一つのものを作り上げていくこと。
それこそが平松さんにとっての幸せであり、豊かさだったのだ。

彼はこの夏から「コアキナイゼミ」に参加することが決まっている。
彼の中にできたコアキナイのタネが、これからどのように芽吹いていくのか、とても楽しみだ。

コアキナイ情報

・コアキナイ公式HP

・ソーシャルバーPORTO

I am CONCEPT.編集部

・運営会社

執筆者:濱田あゆみ

Instagram

https://www.instagram.com/i_am_concept_rhr/?hl=ja

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