三年days #2
今思えばほんの些細なことでしかなかった
いつもより少し帰りの遅い彼
急に変わった音楽の趣味
私といる時必ず伏せて置いてあるスマホ
__分かってたんだ、きっと。
目を背けていただけ。この残酷な現実から
でも私は知っている
__誰よりも私が残酷だと。
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本を閉じると、新しい本独特の香りがする。
それにしても随分と鮮烈な文章だ。
説明のつかない感情と息をゆっくりと吐きだし、物思いに耽った。
夏鈴:...
よく行く本屋が大袈裟にプッシュしていた話題の作品。ドラマ化もされており、先にそちらを見ていたので手に取ってみたのだが、原作は少し...いや、かなり過激だった。
仲の良い夫婦の物語。
夫は今時の男性にしては珍しく過剰な程の愛妻家で、前半は仲睦まじい2人のストーリーがしつこいくらいに綴られていた。
__何だか私たちみたい。ドラマを見ていた時も前半はそんな気分で見ていたのだが。
要所に散りばめられた小さな違和感が徐々に2人の歯車を狂わせていく。
夫の帰りが遅い日が多くなり、休日も1人で外出する事が多くなる。
妻はそんな夫に違和感を感じつつも、見て見ぬふりを続けた。
__夫が浮気しているかもしれない。
そんな猜疑心を押し殺しながら。
ドラマではこの後浮気が妻の勘違いだった事で無事ハッピーエンドに繋がるのだが...
夏鈴:んー...やっぱ原作は結構違うんやな。
やはりドラマになると少し内容がマイルドになるのだろうか。原作では夫の浮気を疑う妻が、自身も危うい行動に出てしまうシーンが生々しく描かれていた。
まだ最後まで読んではいないが、今のところこれがハッピーエンドになりそうな気はしない。
それにしても、この手の作品が世代関係なくやけに人気なのは何故だろう。
既婚者の私としては例え架空の話だとしてもあまりいい気分ではない。それが自分たちに似ているとなれば尚更だ。
彼と結婚して三年。本当に幸せな毎日を送っている。
何をするにも私を優先してくれる彼はまさに絵に書いたような良夫。『そんな話』それこそ有り得ない。
本をテーブルに置いたのと同時に、スマホが鳴る。
『ごめん、今日も残業になりそう。ご飯は外で食べてくるね、ごめん。』
夫からの連絡。いつもなら仕方がないか、くらいで済ませられるのだが、今日の私は少し違った。
夏鈴:...最近残業多いな。
夫の会社の事情はよく知らないが、この頃やけに帰りが遅い。今日のように夕飯を家で食べないことも増えてきた。
__ふとさっきの本の内容がフラッシュバックする。
夏鈴:...いやいや...流石にないわ。影響されすぎやで。
夫が私以外の女性と殆ど交流がないのは知っているし、お酒が飲めない人なのでよくある間違いもないはず。会社から家までは徒歩で10分とかからないし、毎日帰る前は連絡をくれるから大丈夫。
それに何より今でも毎日言ってくれる『愛してる』が嘘だとは思えない。
夏鈴:...あかんあかん。毎日頑張ってくれてるんやからウチがこんな事思ってたら◯◯が可哀想や。
私は頭を振って頬を叩き、雑念を振り払った__
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翌日。
◯◯:それじゃ、行ってくるよ。
夏鈴:...うん。
◯◯:...夏鈴?どうした?具合でも悪い?
夏鈴:...えっ!?いや全然大丈夫やで?ちょっと眠くて...
◯◯:...辛いなら一緒にいようか?
夏鈴:...ううん、ホンマに大丈夫。ごめんな?心配かけて...
◯◯:...いいんだよ。最近一緒の時間少なくてごめんね、今日は早く帰るから。
そう言って彼は私を優しく抱き締め、名残惜しそうに家を出た。
夏鈴:(...やっぱり優しいな...好きやなぁ...)
ニヤニヤしながら部屋へと戻ると、テーブルに置きっ放しの本が目に入る。
昨日の事もあり、続きを読むのは躊躇われた。
夏鈴:...『アンタ』が悪い訳やないけど...しまっとくわ、ごめんな。
悩みの種を本棚に封印し、私は家事に取り掛かる。
___もう既にいくつか根付いてしまった種に気付くことなく。
__________be continued.
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