#04

夜の海。見つめているだけで引きずり込まれそうなほど濃厚で、深く暗い黒。その日も台風が来ていた。風が波の高さを増す。わたしは港の縁(へり)の先に立っている。荒っぽいコンクリートの切り出しの足場の上で、暗い海まで5センチも無かった。手すりも柵も、いわゆる道のガードレールのようなものは一切なく、雑な足場に腰をおろして釣り糸を垂らす人も散見される。
そこが気に入っていた。その雑さが。ここに来る誰かの安全を守ろうとか、釣り人用の腰掛を置いておこうとか、こどもが落ちたら一大事だとか、そういうのってぜんぶ余計だ。誰かのため、という建前の保身。出したもん勝ちで評価される安い、薄っぺらいアイディア。蛇足だ。シンプルにポンと投げ出されただけの港は、自然の造形物の一部に見事に溶け込んでいるように思えた。要らないものを投げ出したい時に来る場所のような気がした。実際、この日もそれで来ていたんだと思う。当時はまだ頭や心の中のカオスを整理しきれなくて、ぐちゃぐちゃの気持ちのまま来ていたから、その自覚はなかったけれど。

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#04

るね

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