お冷ください

それは部活の合宿の時だった。私の部活は年に2回、春休みと夏休みに3泊4日の合宿があった。たいてい同じ場所だったし、合宿ゆえ朝から晩まで練習と合奏の日々だったけれど楽しかった。

夜はお泊まり会のようだし、練習中にパートでお菓子を食べていたら先生に怒られたりなど今でも思い出して懐かしくなる。そんな合宿のご飯は、食堂でみんなで食べるものだった。最終日の昼がカレーだったことくらいしか覚えていないけれど。

そんなわいわいしながら食べていたご飯のとき、友達が合宿所の人に、”お冷ください”と手を挙げて言った。今ならお冷はお水のことというのは分かるけれど、その時まだ高校2年生。ほかの友達たちと、お冷ってなにと盛り上がった。盛り上がりつつも、お冷ってかっこいい言葉じゃんと思った。

前に付き合っていた人は、お会計を貰う時にいつも”おあいそお願いします”と言っていた。へー、お会計っておあいそって言うんだ。これまたかっこよ。人の言葉を聞いて勉強になる。

高校2年生の時に”お冷”と言っていた友達は、今では”お水ください”と言うようになっているし、なんなら本人はそのことを忘れているらしい。そんな私もなかなか”お冷ください”とは言えない。どうしてもお水くださいと言ってしまう。