1-3 夢なのに夢がないですね

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「はっはっは! 学校の屋上からとはな!」

眼帯女ーーメノウと私は少し場所を移動して、道路沿いにあるカフェのテラス席へと落ち着いた。お茶は出ないが腰を据えて話ができるだろう。
そうしてまずはこれまでの行動を訊きたいというのでひと通り話してみせた後の反応であった。

「他人事だと思って……」

実際他人事ではあるし自業自得でもあるのだが、こうも盛大に笑われると若干気分を害する。
なお、気分どころか身体を害された先程の噛み傷は時間経過で綺麗サッパリ消えてしまって痛みもない。服だけがズタズタであった。

「はは、いやすまんすまん。だが一から説明する手間が省けたな。それこそがこの夢のデメリットだよ」

「デメリット?」

「痛みを感じるという点についてはもう説明不要だろう。頬を抓って夢だと確認するアレは使えないわけだ。そして痛みが一定の強さを超えると気絶して……夢の中で気絶というのも変だが……目が覚めてしまう。そしてそういう目覚め方をした場合、夜のうちにはもう眠ることができなくなる」

まさしく昨日から今日にかけて体験したことそのものであった。

「おまけに起きている間は夢のことは忘れているときた。原因不明の不眠はきつかろう?」

そう、起きている時の私はこの夢の事を覚えていなかった。理由なく突然夜中に目覚めるというのは、その後一睡もできなかったことと合わせてなんとも気味の悪い体験であった。

「夢だからって、無謀なことはしない方がいいわけですね」

「まあ、とはいえ夢だからな、思い込みの力というのがある。ある程度は『痛くない』と自分に暗示をかけることで無視はできる」

「思い込み、ですか」

「夢の世界は思い込みとイメージの世界だ。イメージすれば痛いものも痛くないし、どこまでだって強くなれるし、空も飛べる」

飛べる、というその言葉に胸の高鳴りを感じる。が、前のめりになってはいけない。欲を見せればそこを突かれる。

「……空、飛べるんですね」

「ああ。というかさっきの現場に私は飛んで来たわけだしな」

そうだったのか。突然現れて四つ目犬の背に乗っていたのだから、それもそうか。

「正確に言うと、飛んでいるというよりは自分で自分を飛ばしているという感じなんだがな。まず物を動かす『念動力』があって、その応用だ」

メノウが言うには、この夢の世界で使える「異能」には主として「念動力」と「身体強化」があるらしい。
「念動力」の基本は手を触れずに物を動かす、わかりやすい超能力である。空を飛ぶにはまずこれを習得し、自分で自分を操って浮かばせる必要があるのだそうだ。
「身体強化」はその名の通り身体を頑丈にし、超人的な身のこなしを得るものである。こちらは割と簡単に発動するようで、屋上で金網が登れたのはこれのおかげだとか。
どちらもイメージ次第で色々なことができる、ということらしい。

説明しながら空いている椅子だのなんだのを実際に浮かばせて見せてくれた。本当に超能力だ。夢の中だが。

「私でもできるようになります?」

「努力次第と言っておこうか」

「それはまあ、そうでしょうけど……夢なのに夢がないですね」

「夢といっても半分現実みたいなものだからなあ」

確かに、こうして話している今もほとんど現実と変わらないくらい現実感がある。周囲の景色が灰色だったり、居座っているのが無人のカフェだったり、おかしな点はあるのだが。

「それでだ。こちらとしては君に『異能』を教えたい」

「理由は?」

「さっきの……我々は『バク』と呼んでいるが、あいつらの退治に協力してほしいからだ」

四つ目犬は「バク」というらしい。夢を食べるといわれる想像上の生き物の名前だったか。

「奴らはこの夢にとって、存在自体が害悪なんだ」

「害獣なんだろうってのはまあ、襲われたからわかりますけど、協力しろと言われても……」

「安心してくれ、まずは『異能』を十分に習得するところからだ。そうしたら実際の退治を見学、指導しながら一人で退治できるようになるまで育成する」

指導とか育成とか、なんだかアルバイトみたいだ。アルバイトしたことないけど。

「それに一人前になった後も、基本的には目についたやつを倒してくれればそれでいい。こちらからノルマを強制はしないし、拘束時間もなしだ」

「それだと、そちらにメリットがあまりないような」

「とにかく人手が足りていない。かといってこればかりは即戦力なんて存在しないからな。新しく”囚われた”人間を育てるしかない。もちろん、君が積極的に『バク』退治体制に参加してくれるなら願ってもないことだがね」

今更目の前の人物を自らの夢の産物だとは思っていないし、話の筋は通っている、ように思える。
こちらとしては、空を飛ぶことを含めて「異能」が教えてもらえて、手の届く範囲で害獣駆除をしていればあとは自由。突然不可思議な状況に巻き込まれたにしては待遇がいい方なのかもしれない。

「わかりました。それじゃあよろしくおねがいします」

まだ何らかの悪意を持っている可能性は否定できないが、夢の中でどんなメリットがあってどんな害をこちらになそうとしているかの具体的な想像が全くつかない。
今後何らかの企みに利用されるとしても、こちらは向こうを利用して「異能」を習得するのだからおあいこだし、利用されていることがわかったら逃げればいい。そのための力はその時既に持っているだろう。
とまあ、色々考えはしても結局は夢だ。夢なら夢らしく楽しいことがしたい。具体的には空が飛びたい。

「決まりだな」

「あ、そういえば」

「ん?」

「さっき『我々』って言ってましたけど、他にも"見て"いる人はいるんですか?」

「……ああ、機会があれば紹介しよう。だがまずは『異能』の修得からだな。『バク』に対応できるようになるのは早いほうがいい」

露骨に話題を逸らされた気がする。やはり何か、少なくとも隠し事はしているようだ。まあ所詮は夢だが。

「それじゃあ場所、どうします? この辺でそのまま始めちゃってもいいんですか?」

「うーん、そうだな……他はともかく飛行訓練は広い場所が要るから、学校がいいな。近くに小学校があったはずだ」

私の通う中学校もあるにはあるが、わざわざ個人情報の一端を教えることもない。素直に小学校の方へ行くことにしよう。

席を立ったメノウがテラスの柵に手をついてヒラリと飛び越える。真似をしてみたら脚が引っかかった。

「見かけだけ真似しても上手くはいかない。成功する様を明確にイメージしろ。そうすれば身体は応えてくれる」

柵越しにかけられたメノウの言葉に、華麗に飛び越えるところを頭の中に思い浮かべる。
先程とは比べ物にならないほど身体が軽くなり、脚が柵を越え、そして着地に失敗して尻餅をついた。

「あいたたた……」

「着地まで含めてイメージだ。足首を挫きたくなかったら着地こそ一番気をつけるべきだな」

思わぬところで最初の実技訓練となった。

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ここでは小説を書くことを志すナニカ。ラノベ漫画アニメゲームを広く薄く囓っている中途半端なオタクでもある。現在は創作論のようなものを投稿しながら裏で小説の執筆に挑戦している模様