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涼宮ハルヒの衰退

去る11月25日、およそ9年半ぶりとなる「涼宮ハルヒ」シリーズ最新刊である「涼宮ハルヒの直観」が発売された。

「驚愕」の時は発売日に秋葉原まで行って買い求めたものだが、そこまでする情熱もなく今回は翌日に近所の本屋で買った。そして寝食を忘れて一気に読み通すなどということもなく、数日をかけて読んだ。

構成としては、短編1本中編1本長編1本からなる本筋とは関わりの薄い番外編的なものであった。なお短編と中編は他で発表されていたものを収録した形なので、完全新作は書き下ろしの長編だけである。
その長編「鶴屋さんの挑戦」は題の通り鶴屋さんが物語の中心的な役回りで、彼女の体験談を追いかける形でその中に隠された謎をSOS団の面々があーでもないこーでもないと考えながら解いていくという趣向であった。ミステリとしての側面が強く、様々な著作からの引用やミステリにおける諸問題への言及などもあり、ミステリ好きにもぜひとも読んでもらいたいエピソードである。

さて、00年代オタク文化の象徴のように取り上げられることが多く、新刊が出ない9年半の間にも何かと名前を聞くことのあった「ハルヒ」であるが、今回の「直観」をきっかけにして令和の世に再びその存在感を取り戻すことができるだろうか。

私自身の希望に反して、その答えは否であろう。
たとえ谷川流がこれまでと一変して獅子奮迅のごとき働きで新刊を次々編み出そうとも、メディアミックス展開が再始動しようとも、そうなることは残念ながらおそらくないのである。

その理由は、単純化してしまえば「ハルヒ」の世界にスマホがないからである。

私はスマホの登場・普及以前を既に現代ではない歴史の一幕と考えている。フィクションにおいても、スマホ以前は現代劇ではなく時代劇(というと語弊があるが)に分類している。

第一作である「憂鬱」が刊行されたのは2003年、コンスタントに新作が刊行されていたと言えるのは2007年までで、2011年の「驚愕」は「分裂」からの連続したエピソードであるため、実質的に13年もの間現実世界とのズレがある。
初代iPhoneの発売が2007年、TwitterとFacebookの日本語版が登場したのが2008年、スマホ向けの各種メッセンジャーアプリが登場しだしたのは2009年以降である。スマホとそれらサービスの普及を「ハルヒ」は見事にスルーしてしまっているのだ。
結果として、劇中にはSNSのたぐいが存在せず、登場人物は空き時間にソーシャルゲームのひとつもやっていない。
「鶴屋さんの挑戦」の中でもネット検索はわざわざパソコンを立ち上げてやっていたし、物語の核である鶴屋さんからのメールもパソコンに届いていた。

その他の文化風俗が限りなく現代に近いにもかかわらず、刊行当時はまさしく現代劇であったにもかかわらず、2020年現在において「ハルヒ」は既に時代劇なのである。

では、そのことがなぜ「ハルヒ」復権を否定する材料になるのかといえば、若年層への訴求力の問題である。
前掲の記事でも言及しているが、スマホ以前の時代については若年層ほど記憶が薄い。特に中高生などはスマホのない時代の生活をろくに経験さえしていないだろう。作中における「日常」「退屈」といったものに対して現実感が湧くとは思えない。
かといって他の時代劇ーー戦国時代や江戸時代のように刀で戦うわけでもなく、明治以降昭和初期までの激動する時代背景があるわけでもない。あえてその時代に焦点を当てるような”かっこよさ”がない。

結局は当時を懐かしむ層からもてはやされる「過去の名作」扱いから脱することはできないと思われる。

一応、その既定路線をひっくり返す手が無いわけではない。
作中で年月が経過しているわけでもないのに何故か科学技術は進歩していく、いわゆる「名探偵コナン」時空を採用するのである。特に説明なく、しれっとスマホを出し、登場人物に使わせてしまう。以降の物語はスマホの存在前提で進めていく。
メディアミックスについては、いっそのこと「憂鬱」の最初から再アニメ化でもいいと思う。スマホの存在を前提として、原作とは別物として内容を大幅に改変するのである。

そういった物語のバランスを崩しかねないウルトラCを繰り出してもなお、帯の煽り文「王道にして最前線」を実現するのは難しいかもしれない。とにかく時代の転換期にブランクが開きすぎたのである。

私自身の希望に反して、と言ったとおり、私はどうにかして「ハルヒ」に復権してほしいと願ってはいる。
ゆえに、ここに書いた考察が全くの的外れで、スマホの存在如何にかかわらず「ハルヒ」が中高生をはじめ様々な層に受け入れられ、令和オタク文化を牽引していく未来があるならば、それを切に願うものである。

以上。

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ここでは小説を書くことを志すナニカ。ラノベ漫画アニメゲームを広く薄く囓っている中途半端なオタクでもある。現在は創作論のようなものを投稿しながら裏で小説の執筆に挑戦している模様

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