1-8 よろしく

<前 目次

「すまなかった、面目ない!」

次の夜、空からこちらを捜索していたメノウを見つけて合流したところ、開口一番謝られた。

「索敵を他人任せにしていたツケ……いや、こういう言い方も良くないな。とにかく申し訳ない」

今までやや尊大な印象のあったメノウにここまで平謝りされては、こちらから何も言えなくなってしまう。

「もういいですよ。まあ、大型のやつがいることは教えておいてほしかったですけど」

「そうだ、六つ目の個体をよく一人で倒せたな。首は?」

「踏んでも駄目だったので浮かせて頭から落としてやりました」

反応できずにやられた相手のことと、私が倒したことを把握している。他人任せという言葉を合わせて考えると、索敵役の「異能」使いが仲間にいるのだろうか。そして何らかの通信手段を持っていると思われる。

「ふむ、やはりいい対処だな。不謹慎だが君が”囚われ”てよかったと思うよ。たった一週間で立派な戦力になってくれた」

「倒したと言ってもこちらもボロボロで、結構ギリギリでしたけどね」

なお、噛みちぎられた右腕はしっかり治っていた。日を跨ぐと服も元通りになるので、一見して死闘の後とは思えないだろう。

「さて、それじゃあ改めてアジトに案内しようか」

思わぬ、大きすぎる邪魔が入ったが、いよいよである。
今度こそ歩いてアジトへ向かう。

「まあ、あんまり大所帯というわけでもないんだ。私を含めて今は四人しかいなくてね」

思った以上に少なかった。

「加齢によってこの夢は見なくなるらしくてな、増えたり減ったりだよ。それに我々の仲間ではないものも、まあいるだろうしね」

そうして話しながらたどり着いたのは、小学校でも中学校でもなく高校だった。市立の、特別進学校というわけでもなければ落ちこぼれの行くところというわけでもない、今の私が今のままであれば行くことになるだろうレベルの高校である。

当然のように土足で踏み入り、最上階まで上る。空が飛べる以上、高いほうが都合がいいんだとか。

「ここだ」

メノウがひとつの教室の前で立ち止まった。扉を引き開け、中へ入る。ちょっと緊張しながら後を続いた。

「ようこそ、我々『トレジャーズ』のアジトへ」

大半の机が後ろへ追いやられた教室の中には説明の通り他に三人の人間がいた。

「まあ、まあまあまあまあ!」

そのうちの一人がこちらを見るなり駆け寄ってくる。
陶磁のような肌、つぶらな瞳、ストロベリーブロンドの長いウェーブヘアー。メノウの容姿に輪をかけて現実感のない、等身大の人形かと思う見た目の少女である。

「昨夜は助けも出さず申し訳ありません! 腕、痛かったでしょう?」

鈴を転がすような声で謝罪を口にし、こちらの右手を取って前腕をさすってくる。

「はあ、いや、もう大丈夫です……」

「こいつはサンゴ。『遠隔透視』と『念話』の『異能』を持つうちの索敵・情報担当だ」

彼女が「バク」の居所を捜索してメノウに通達していたということか。昨夜の私の戦いも見ていたらしい。しかし「遠隔透視」に「念話」とは、また毛色の違う「異能」があったものだ。

「それで、六つ目相手に救援を出さなかったのはどういうわけだ?」

「それは、ハリさんが……」

サンゴがそう言って教室の後ろの方へ目をやる。そこにはあとの二人が寄り添うように座っていた。
双子だ、と一目でわかる程度には容姿がそっくりだったし、中身が似ていないんだろうなと想像がつく程度にその居住まいは違っていた。
青い髪の少女は席について背を丸め、気まずそうにこちらから目を背けている。反対に白髪の少女は行儀悪く机に腰掛け、挑戦的な笑みでこちらを見ていた。
お揃いで知らない学校の制服を着ている。

「だってー、四つ目は余裕で倒せたって言うじゃないですかー。だったら大丈夫かなって。他に『バク』が出ないとも限らなかったですし」

白髪の少女が悪びれもせずにこやかに言った。

「えっと、ちょうど別の場所でも『バク』が出てて、待機はハリちゃんだけで、その……」

青髪の少女がどもりながら釈明している。目線はこちらへ向いていない。

「ハリ、お前なあ……」

「奇襲受けて即退場した人には何も言われたくないでーす」

「うっ」

「新人さーん、私はハリだよー。六つ目ほんとに倒しちゃうんだからすごいねー。……ほらお姉ちゃん」

「うぅ……ルリです。よろしく……」

結局青髪の少女ーールリはこちらを見ることがなかった。

「まったく……すまんな、こんな組織ともいえない集団で」

「いえ、まあいいんじゃないですかね」

曖昧に流しておく。以前はぐらかされた理由が少しわかった気がした。

「ところで、ひょっとしてこの夢、男の人は見ないんですか?」

ここにいる全員が女である。些細なことだが、気にはなった。

「いや、以前はいたから今はたまたま偏ってるだけだな。もっとも、夢と現実で性別が変わっている者もいるかもしれんがね。まあそこは詮索無用だ」

私自身別人レベルで容姿が変わっているのだ。性別が変わっていても驚くことではないのかもしれない。夢なのだし。

「さて……それじゃあそろそろ君の名前を教えてくれるかな?」

名前。今まで訊かれもせず、教えたくなかったのでこちらからも名乗らなかった名前。
ルリ、ハリ、サンゴ、そしてメノウ。「トレジャーズ」という集団名。宝石の名前を使った偽名の集団。
本名を言わなくてもいい、という配慮でもあり、仲間になるつもりはあるのか、という問いかけでもあるわけだ。

腕をさするのをやめ、離れてこちらを見ているサンゴ。既にこちらへの興味をなくしたように姉へちょっかいをかけているハリ、嫌がるルリ。そして不敵に笑いながらもどこか不安そうなメノウ。
正直胡散臭いというか、得体のしれない集団ではある。メノウとはそれなりに信頼関係が出来つつあるし、サンゴは一見やさしそうではあるが、ハリは性格に問題がありそうだしルリに至ってはまともな意志の疎通が図れるかも怪しい。

とはいえ、この集団から距離を置いてどうするのか、という話でもある。
「異能」の訓練は未だ道半ばだし、昨夜のような六つ目の「バク」と何度も遭遇するようでは単独行動は危険だ。寄らば大樹の陰と言うし、世話になってしまった方が何かと都合がいいだろう。

集団に属する利点と集団そのものの怪しさ、それらを天秤にかけて考える。

「えーっと……コハクです。よろしく」

考えて、そう名乗った。
むやみに疑ってかかるよりは、ひとまず信じてみようと思ったのだ。もし後になって抜けると言っても、そう引き止められはしないだろうという雰囲気を感じているところもある。

メノウがホッとしたような表情を浮かべた。サンゴはニッコリと微笑み、ハリは再びこちらへ向いて「よろしくー」などと安っぽい愛想を振りまいている。ルリはこちらを向いてくれない。

教室の窓を、墨を流したような空が黒く染めている。星ひとつない空の下にあるのは無限に広がる無彩色の街並み。
まだまだわからないことの多いこの夢の世界ではあるけれど、こうして”囚われて”いる以上時間はたくさんある。少しずつ知って、できる限り楽しんでいこう。

具体的には、とりあえず空を自由に飛べるまで。

<つづく>

<前 目次

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
2
ここでは小説を書くことを志すナニカ。ラノベ漫画アニメゲームを広く薄く囓っている中途半端なオタクでもある。現在は創作論のようなものを投稿しながら裏で小説の執筆に挑戦している模様