愛と哀しみの水餃子

包む。ひたすら包む。
白くて丸い、平べったい生地に、ボウルの中身をスプーンで乗せ、包む。
量は多すぎず少なすぎず、生地が破れないよう注意しながら、包む。

高級タワーマンションの一室、広い台所を沈黙が支配している。
テーブルにはステンレスのボウルとバット。ボウルの中にはひき肉と野菜で作られた大量の餡が入っており、バットには包み終わったものがずらりと並んでいる。

何個目か、数えることすら放棄したそれのヒダを作りながら、対面に立って同じことをしている彼女を見る。その表情から何を考えているかは読み取れない。ただ無心に、作業に没頭している。

「今すぐ来て」と電話で呼び出されて、何をするかも聞かされないまま買い物に付き合い、あれよあれよという間にこの状況。さすがにそろそろ説明が欲しい。

「あのさ」

「料理中に喋らないの」

「あ、はい……」

鈴を転がすような声。ついでに言えば顔も、スタイルも、男が見れば放っておかない超一級品の美人である。頭もよく、何でもそつなくこなす才色兼備。ただし、ちょっと変わっている。突然こうして人を巻き込んで餃子作りを始めるくらいには。

台所を再び沈黙が支配する。

ひたすら包んで、包んで、ようやく最後の一個になった。彼女が包み終えると、ちょうど餡はなくなった。
そうして次に彼女が用意したのは大きな寸胴鍋である。水を張り、火にかける。

お湯が沸く間に再び手分けして食べない分の餃子をラップで包み、道具を洗う。
すっかり片付いたテーブルに茹で上がった餃子の大皿が置かれたとき、時刻はちょうど正午であった。

向かい合って席につく。
わけはわからずとも腹は減る。箸と取皿は用意してくれたし、ここまできて食うなと言われることもないだろう。

「いただきます」

手を合わせ、箸を持つ。餃子を一つ取り上げる。皮の薄い焼き餃子と違ってプルプルとしている。

「あのね」

口へ運ぶ前に、彼女が口を開いた。

「私、宇宙人なの」

「……はあ?」

<つづく/800文字>

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ここでは小説を書くことを志すナニカ。ラノベ漫画アニメゲームを広く薄く囓っている中途半端なオタクでもある。現在は創作論のようなものを投稿しながら裏で小説の執筆に挑戦している模様