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12. 先行文献研究:観光ネクストステージ スマホのゲームIngress(イングレス)を観光に活かす 岩手県庁Ingress活用研究会の活動から(保和衛、2015年)|内田悠貴

<先行研究内容>
 2014年9月、「岩手県がIngressを観光に活用する」というニュースが大きく取り上げられて以来、予想もしない反響があり、そのような中で「岩手県庁Ingress活用研究会」は大きな成果を収めることができた。
 もとより、研究会はゲームそのものを推奨する目的ではなく、観光振興や地域活性化にどう活用するかがミッションであると述べられていて、本先行研究では活動を通じて得た知見を紹介している。
1. 自分たちの地域をあらためて知る
 Ingress最大の特徴は、ゲームにおいて「ポータル」と呼ばれる拠点のある場所に自分自身が移動しないと遊べない、ということである。ポータルは一定の基準のもと神社仏閣、歌碑や彫刻などのモニュメント、歴史的建造物が登録される。したがって基本的にゲームを遊ぶことはポータルを訪ね歩くこと、すなわちそれは観光スポットを巡ることと同じ、と捉えることができる。これまで自分たちの地域の歴史文化を訪ね歩くことは一部の愛好家の間に留まるものだったが、Ingressはこれを一変させるものになった。Ingressを通じた地域発見は観光資源のストックを増やし、それまで縁の無かった人たちに開放されることになり、最大のメリットの1つであることに間違いない。
2. 売り出すものと方法を考える
 Ingressをプレイする人達は、ゲームの世界で実績を積みたいなどの欲求を持って遊んでいる。必ずしも観光したいわけではない。その人たちに自分たちの地域に関心を持ってもらい、魅力を感じてほしいと願う立場からは相応の知恵と工夫が求められる。
 Ingressには、ゲーム内の機能として「ミッション」と呼ばれる、特定の決められたポータルを巡るスタンプラリーのような遊び方が備わっている。研究会では、このミッション機能と組み合わせて、さらに深く盛岡の魅力や歴史文化をしって楽しく遊んでもらえるよう、独自のガイドブックを製作・提供している。神奈川県横須賀市と連携して「岩手×横須賀 友情の架け橋ミッションを提供していて、過酷なミッションと評されつつも、数十人が既にコンプリートしている。
 ポータルが少ない地域でも、遊び方に魅力を感じればプレイヤーはやってくる。自分たちの地域の何を、どう売り出すのか、よく考える必要がある。歓迎ムードの演出や現実的なメリット供与(例えばプレイヤーへの商品の割引、特別なプレゼント)も良いが、ゲームの世界を理解した上で、プレイヤーの心をくすぐる作戦(例えばイングレスの世界観を表現した地元産原材料のお土産品)もある。いずれにしろ、主役であるプレイヤーに寄り添うことが重要であるとしている。
3. 地元連携の重要性とリスク
 研究会では、もともと地元のイベントとIngressの融合に腐心してきたが、関係者との連携の中で、地元で活動しているプレイヤー団体(コミュニティ)との協力関係が重要だ。これまで全く縁のなかった世界に飛び込むため、その世界にいる人たちに協力を求めることが成功の第一条件である。研究会の場合は、2014年11月の最初のイベント「ポータル探して盛岡街歩き」が持ち上がった当初から、岩手県内で活動するコミュニティに協力を得て、以降も相談をしながら活動を進めることができた。また、盛岡で歴史文化を研究している団体の支援を受けたこともありがたいものとなったという。
 また、Ingressの管理運営は全て、開発元であるNiantic, Inc.が行っていることで、その経営方針やゲームの運営方針に左右されるため、明日突然終焉を迎えるかもしれないというリスク、スマホなどのアプリということで、スマホを持たない人やゲームをしない人には全く訴求力がないことに加えて、上手く行けばプレイヤー全てを岩手のファンにできる可能性がある一方、知らない人に協力を求める場合に苦労することなどのゲームならではの課題やリスクが挙げられる、と本先行研究では述べられている。
4. 研究会の改組で幅を広げる
 2014年度に発足した研究会は、2015年5月に「岩手県庁ゲームノミクス研究会」に替わった。これは、①イングレスで経験できた特定のゲームタイトルとのコラボレーションについて、さらに可能性を探っていきたい、②ゲームやゲームの考え方・構造を使った様々な仕組みが広まった今の世の中にあって、行政の業務や施策にそのような考え方を活かす研究をしたい、と考えたためであり、脱イングレスではなく、幅を広げていくということである、と本先行研究では述べられている。

<論文を受けて>
 ゲームの世界を理解し、かつプレイヤーに寄り添う形のコラボレーションが求められていて、決して単純なものではないことがわかり、これはIngressあるいはその他ゲームタイトルに限ったことではないと考えた。各種イベントや取り組みの盛況度合いはプレイヤーがいかに楽しめるかにかかっているとこれまで各種イベントに参加してきた個人の経験から感じている。

前の項目 ― 11. 先行文献研究:位置ゲームと観光振興—イングレスを例として—(宮武清志、2015年)

目次

次の項目 ― 13. 先行文献研究:位置情報ゲーム「Ingress」を用いた観光振興の可能性の研究—横須賀市を事例として—(山田浩義・志摩憲寿、2016年)

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