海を混ぜる

画像1 「大きいスプーンで掻き回されてるみたいな感じだよ。」 夢うつつから抜け切れぬ男は言った。 口ぶりはまるで過去のことを打明かしているようだが、 指先の震えはかの船の縁を掴もうと強ばっている。 女は囁いた。 「忘れてしまいなさいよ。明日にはきっと兄さんが来るわ。」 男は固く瞑っていた目を開け、女を見つめた。 「兄さんは食われちまった。」 「誰に?」 「あの女さ…」 「誰?…またうわ言ね。」 女の指先がこつ、と男の濡れた額を叩く。 男は焦げたパンを齧るまで、それからいつまでもうなされていた。

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