【短編】三角関係

 この関係は形容しがたい。
俺は2人を同様に愛している。同じ熱量で、2人でいる時間を全力で楽しみ、慈しみ、尊んでいる。彼女たちの望むことはできるだけ叶えてあげたいし、一緒に支えあっていきたい。浮気、という軽薄なものではなく、真剣だ。ただ彼女たちがいい気がしないのも理解できる。俺は何も言わなかった。すべてが完璧で、万事上手くいっていると思った。

 最近、彼女からそっけない態度を取られるようになった。
他に好きな人がいるのでしょう、気もそぞろだ、と指摘された。俺はもちろんそんなことはないと丁寧に否定した。必死に愛の言葉を紡いだ。その場はなんとか乗り切ったが、全身から汗という汗が吹き出し、疲労困憊した。

 人間は社会的動物だ。人間が2人以上集まると、それはもう小さな社会と言っていいだろうと思う。彼女達にも無数の社会があり、俺にも彼女達の知らない無数の社会がある。起きて、身支度をし、出かける。アパートの隣人、カフェで挨拶する店員、犬を散歩するマダム。それぞれの社会を持った人間が一つの場面に収まり、一点で交わることもあれば、しばらくの期間、関係が続くこともある。

 彼女達と出会った時間、場所はばらばらであるが、出会った仔細は覚えていない。よく行くカフェで出会ったのかもしれないし、手紙が間違って入っていたのかもしれない。最終のバスを待つ列で少し話したのかもしれないし、映画館で間違った席に座っていたのかもしれない。覚えているのは彼女達の名前と、2人の違った聡明さと、美しさである。人間の記憶というものは実に都合が良い。ロマンチックだ、と思えばそれらはロマンチックなものとして彩られるし、地獄のようだ、と思えばそれはその人間にとって地獄なのである。

 そう考えると、実に人間というのは曖昧で、不完全で、都合よく生きる動物だ。私は違う、と言う人もいるだろう。規範的で、常に論理的で、感情に惑わされず日常を送っている人もいる。では何が真実なのだろう。事実とは何なのだろう。

 その止めどない思考をめぐらし、事実変わらない美しさを持つ彼女に今日も会う。事実。俺は彼女達を心から尊敬し、愛している。

 


―最近、クラークさんはずっと芝生のベンチでVRをつけているね、大丈夫かな。

―大丈夫でしょ。それより誰も面会に来ないのが心配。

―天涯孤独か。

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わたしも、スキ。
5
片隅で書きます。誰かにそっと届きますように。

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