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ラグビーワールドカップ2019を振り返って(後編)

RUGGERSオリジナルコラム
筆:廣瀬俊朗
1981年生まれ、大阪府吹田市出身
元ラグビー日本代表キャプテン
株式会社HiRAKU 代表取締役
NPO法人 Doooooooo 理事

※前編はコチラ

~7週間の夢のような時間~

 アイルランド戦の勝利で、日本では一気にワールドカップが盛り上がってきたことを実感。めっちゃ嬉しかった。今年10月にエコパスタジアムを訪れたとき、(福岡)堅樹のモニュメントがあって、改めて日本ラグビーの新たな歴史を作った場所になったな、と実感した。

 ワールドカップに話は戻る。

 その翌週に行われたサモア戦。あくまでも勝ちに徹して、堅めの試合展開。アイランダー系(注)のチームは調子が乗ると手をつけられない。だから最初が肝心で、まずまずのスタートを切った。次のステップとして、ボディブローを効かせがなら、じわりじわりと追い込む。その中で、セーフティーリードを取れれば、いつか相手は諦めてくれる。正攻法だ。試合展開も実際そのように進んだ。とはいえ、なんとかボーナスポイント含め勝ち点5が欲しいと思いながらも、試合終盤までボーナスポイント獲得に必要な4トライを取れない。2015年のワールドカップのように、勝つことはできても勝ち点4で終わってしまうのでは…、そうなると翌週のスコットランド戦がまたしんどい試合になる。なんとか最後トライを取り切って、勝ち点5を取って欲しいと切に願っていた。
 まさにラストワンプレーだったか。スクラムを押しながら、姫野選手が早めに持ち出して、最後は松島幸太朗選手がトライをとって見事に勝ち点5をゲットした。ブレないで最後まで戦い方を変えずに4トライを取り切るジャパンが本当に頼もしく見えた。そんな喜びと誇らしさを感じながら、豊田スタジアムを後にした。

 そして、いよいよスコットランド戦。「大一番が来る!!」と思っていたら、台風が日本を襲う。ワールドカップも3試合が中止となった。この状況の中で試合ができるのか、と不安もよぎっていたが、関係者の皆さんや、スタッフ・ボランティアなど多くの方のご尽力で開催できることになった。負けたら予選敗退という大一番、台風により色々なものがカオスであった。
 試合前の国歌斉唱、空気が張り詰めた。「君が代」が流れる。今までにない国歌斉唱であった。日本の皆から応援されている日本代表は幸せだろうな、と思った。日本代表の選手もこの試合の意味を十二分に理解しているように見えた。
 いよいよ始まる。先制トライをフィン・ラッセルに取られても、動じなかった。日本代表は美しいトライを3トライ取って前半を終えた。圧巻のパフォーマンスであった。後半の最初が大事で、そこさえなんとかなれば、と思っていたが、見事にターンオーバーから(福岡)堅樹がトライを取って、ほぼ勝利を手中に収めた。でも、そこからもなかなかキツかった。スコットランドの開き直った猛攻にあい、7点差まで迫られる。そのような状況下でも日本はなんとか耐え凌ぎ、最後は山ちゃん(山中亮平選手)が蹴り出して試合終了。本当に素晴らしい試合であった。勝って喜ぶ我々。そして、この現実を受け止めるスコットランドの選手たち。人は辛いときにその本質が出てくるが、彼らは堂々としていて本当にかっこよかった。スコットランドには今回勝たせてもらったが、まだまだ学ぶことが多いと思った。

 ベスト8はなんとかいけるかなと思っていたが、4勝0敗で一位通過。日本の選手達はとんでもないことを成し遂げた。日本中はさらに盛り上がって、お祭りの様であった。僕としては、勝ち負けではないスポーツの価値を伝えようと心掛けた。多国籍な集団がまとまる意味、相手を敬う気持ち、何かを貫くかっこよさなど。
 テレビ出演など、色々なことをやっているとあっという間に、準々決勝の南アフリカ戦になった。ここからは未知の世界で、思い切って戦って欲しいという想いだけであった。実際に始まると、なんとか猛攻を凌いでいるが、いつも通りのパフォーマンスを出せていないことは明白であった。前半はスコアこそ僅差であったが、後半は地力の差が出た。日本代表のワールドカップは終了。それでもここまで楽しませてくれた日本代表には本当に感謝しかなかった。また辛いときに支えてくれたファンの皆さんに対しても心からありがとうと思った。

 その後の準決勝、3位決定戦、決勝戦、全て見応えがある素晴らしい試合であった。また、日本が負けたにも関わらず、多くの日本人がワールドカップを見続けてくれた。ラグビーの面白さが伝わったことが分かりとても嬉しかった。11月2日の決勝戦、南アフリカが勝って優勝。7週間の夢のような時間が終わった。

 今、振り返ってもあの時が懐かしい。肩を組んで、大声を出して応援して、ビールやワインを飲んで、お互いの健闘を称え合う。次のワールドカップでも同じように楽しみ、また、他の見方も出来るように、これからも学んでいこうと思う。

(注)アイランダー系…太平洋諸島のラグビー強豪国。特にサモア・フィジー・トンガが有名。


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