ピアノの鍵盤は見たことがある_2019123017320000

第30回 三部形式ってなんだろう

📚[📖楽典]コーダ
📚[🧩様式論]国民楽派、ジャズ、三部形式、主題、主題提示部、展開部、再現部、結尾部
📚[🖋記譜法]リハーサル番号
📚[🛡音楽史]国民楽派、ジャズ

 お芝居や物語、絵画や彫刻にもいろんなジャンルがあるけれど、もちろん音楽にもそういうものはあって、ジャズとかロックとか、ラップとかスキャットとか、様式や形式をあらわす言葉はたくさんあるんだ。みんなも、この中のひとつくらいは、言葉を聞いたことがあるんじゃないのかな。
 そして、お芝居や物語でも、人情ものだけどミステリでもあったり、お笑いなんだけどアクションでもあったりというように、いくつかのジャンルにまたがることがあるけど、それは音楽でも同じで、たとえばジャズだけどクラシック、なんていうこともあるよ。

 そもそもジャズは19世紀の終わり頃から20世紀のはじまりにかけて誕生した様式で、クラシック音楽でいうところの「国民楽派(こくみんがくは)」と呼ばれる時代とかぶるんだ。
 国民楽派は自分の国や地域に伝わる音楽様式を重視したもので、郷土愛や民族意識にもとづくものとされているんだ。これはちょうど、アフリカからアメリカへと移り住むこととなった人たちが、祖国の音楽様式にもとづいた音階やリズムを使ってジャズをきずきあげたこととも符合するし、そういう時代だったのかもしれないね。

 学校の音楽の授業でも、様式論は勉強する機会があるんだけど、先生から教科書にも書かれている説明を受けたり、実際に曲を聴いたりしても、いまひとつよくわからない、ということは多いかもしれない。これは音楽学校で音楽を学ぶようになってもたぶん同じで、音楽様式について書かれた本は内容が高度でむずかしいか、そうでなければあいまいで、結局わかったようなわからないような、そんな説明が少なくないからなんだ。

 僕の音楽教室でも、「トルコ行進曲」については第24.3回で少しだけ触れたよね。そんなわけで、これからは他の様式論についても取り上げていこうと思うんだ。

 その前に、「リハーサル番号(リハーサルばんごう)」というものを紹介しておくね。「リハーサルナンバー」や「リハーサルマーク」とも言って、楽譜のところどころに書かれた番号やアルファベット文字のことなんだけれども、これは文章で言えば段落や節みたいなものと思ってくれればいいかな。
 演奏の練習をするときに、途中から始めたり、一部分だけを演奏したりというときに使うものなんだ。
 そして、これは様式論を考えるときにも便利なもので、その楽曲がどんな構造をしているのかを調べたり説明したりというときにも使えるよ。

譜例_30_01

 この曲は、たぶん誰でもよく知っている『きらきら星』の楽譜だよ。1700年代のフランスで作曲されたと言われているけれども、誰が書いたのかはわかっていないんだ。もともとは好きな男の子ができた女の子がお母さんにそのことを告げるといった内容の歌が付けられていたんだけど、1800年代に入って、みんながよく知っている「きらきら星」の歌詞が付くようになったようだね。

 上の譜例では[A]や[A']にだけ「リハーサル番号」って書いてあるけど、もちろん[B]や[Coda]と書かれた記号もリハーサル番号だよ。
 「Coda」は「コーダ」と読んで、これは曲の終わりの部分を意味する言葉なんだ。「エンディング」とか「アウトロ」という言い方のほうが馴染みのある人が多いかな。

 その[Coda]は今は置いておくとして、それまでの12小節は4小節ずつで[A]→[B]→[A']というかたちになっている。[A']は[A]を少し変えただけで、ほとんど同じように聴こえるよね。
 こんなふうに、似たような部分が曲の最初の部分と終わりの部分にあって、中間にそれとは異なる部分のある構造を「三部形式(さんぶけいしき)」と言うんだ。

 このうち、[A]の部分を「主題提示部(しゅだいていじぶ)」、[A']を「再現部(さいげんぶ)」と呼び、[B]の部分は「展開部(てんかいぶ)」と言うんだ。多くの楽曲には、その曲の基本となる音の進行があって、これを「主題(しゅだい)」とか「テーマ」と言うよ。

図表_30_02

 よく「◯◯のテーマ」なんていう曲があるけど、もともと「テーマ」とはその曲の中心になる音の進行、つまり「旋律(せんりつ)」のことで、たいていは何度も現れるんだ。
 音楽で物語や情景を表現する様式があるんだけど、たとえば登場人物のそれぞれにテーマがあって、その人物が現れるたびにそのテーマが鳴り響く。こういったものが本来の「◯◯のテーマ」というものだったんだ。お芝居や映画の音楽なんかでよく出てくるよね。

 話がちょっとそれちゃったけれども、三部形式の場合ならば、主題は少なくとも提示部と再現部で2回現れるわけだね。

 この三部形式という形式は古典派と呼ばれる時代からロマン派と呼ばれる時代にかけて、つまり17~18世紀頃の流行の様式だったんだ。

 『きらきら星』は12小節の短い曲だけど、何百小節もあるような大規模な曲でもこれは同じで、最初に特徴のある主題が響いて、聴いている人たちは「わぁ、いいね!」と思ったりする。そして、その主題にも少し飽きてきたところで展開部に入って、次々と新しい旋律や和音が鳴り響く。お客さんは「そろそろまたあの主題を聴きたいな」と思うようになって、そこで再現部がやってきて、そのままクライマックスに突入。そういう構造の形式なんだ。

 ちなみに現代の、多くの歌謡曲の構造は三部形式とは違うけれど、「サビ」と呼ばれる後半の聴かせどころの旋律を、歌が始まる前の「イントロ」と呼ばれる部分で使ったり、逆にイントロの進行をアウトロでも使ったりすることがあるから、そうした曲は三部形式の要素を含んでいることにもなるよね。

 人間には、最初にあったものや場所に戻ってくると気持ちが落ち着くみたいで、三部形式とは、そんな人の心の特徴を取り入れた様式と言えるのかもしれないのかな。

 というわけで今回は三部形式について勉強したよ。
 次回は「ソナタ」という言葉の意味を考えてみることにしよう。音楽に触れていれば、この言葉を一度は聞いたことがあるんじゃないかな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?