ピアノの鍵盤は見たことがある_2019123017320000

第17回 増えた音程と減った音程

📚[📖楽典]音程(増音程、減音程)、属音

 前回の終わりのほうで、長音程がさらに広がると増音程、短音程がさらに縮まると減音程だという話をちょっとしたね。そこで今回はその「増音程」「減音程」についてもう少しお話してみたいんだけど、その前に…。

 やっぱり前回の話だけど、教会旋法は大きく2種類に分けることができるということを紹介して、こんな図を見せたよね。

図表_16_06

 ここでロクリアン旋法にだけカッコ記号が付いているのを見て、何でだろうと思った人はいないかな。
 じつはこのロクリアンだけは、他の旋法とは違う特徴があって、教会旋法が確立した時代でも使われることは少なかった、理論の上だけの音階だったんだ。
 まず、「ド」から「ラ」の音のそれぞれが主音になる6種類の音階ができていって、そして、それだったら「シ」から始まる音階があってもいいんじゃないの?…ということでできた音階だったんだね。

 じゃあ、どうしてこれが理論の上だけの音階だったのかというと、それは主音から数えて高いほうに5度の音が減音程だったからなんだ。

ピアノの鍵盤_17_02

 もう少しあとになって改めて説明するけれど、主音から高いほうに完全5度の音は「属音(ぞくおん)」と呼ばれていて、これは第14回で出てきた「主音」や「導音」と同じくらいに重要な、音楽性を生み出す性質を持つ音になるんだ。
 この属音はロクリアン以外の教会旋法にはすべて含まれていて、ロクリアンだけは減音程になっている。そして、この減5度という音は、倍音的に最も離れた位置にある音でもあるんだ。第11回で出てきたこの図をもう一度見てみよう。

五度圏_11_06

 矢印でぐるっと一周する図になっているけど、矢印とは逆の方向、例えば「シ」の音にとって「ミ」の音は1/3倍音、つまり3倍される前の音だよね。「ミ」の音の3倍音が「シ」なんだから、これは倍音的に近い音なんだ。
 ということは、倍音的に一番遠く離れた音というのは、矢印通りの回り方をしても、逆の回り方をしても、どっちでも「シ」の音にとって一番遠い反対側にある「ファ」の音ということ。ものすごく簡単に言うと、一番ハモりづらい音なんだ。

 ちなみに、半音関係にある音は、このまるい図では減5度の両隣になっているのがわかるかな。例えば「シ」の音だったら、半音高い音は「ド」、半音低い音は「シ♭」だけど、どちらも「ファ」の音の両隣にあるよね。ハモらない音のことを「不協和音(ふきょうわおん)」と言うのだけど、半音同士で音をぶつけると不協和音になりやすい。この理由のひとつがここにあったんだ。

質問_2020012309240000

 うん、そうなんだけどね。その辺りについては、もっとあと、コードネームや和声法の話になったときに詳しくやっていこうと思うから、ちょっと待っててほしいな。第18回でも少しだけ触れる予定だよ。

 さて、話を戻すけれども、完全5度の音程が縮まると減5度になった、というところに注目してね。完全音程には長いとか短いとか無くって、その音程よりも縮まったら、もう減音程と呼ばれるようになっちゃうんだ。
 ということは、完全5度が広がったら…、もうわかるよね。増5度になるんだ。

 完全音程には5度のほかにも4度や8度もあったね。この音程も同じで、完全4度が広がったら増4度、縮まったら減4度。8度も同じ。
 つまり増4度と減5度は異名同音。さっきの図をもう一度見てごらん。おもしろいよね、ユニゾンの次に一番ハモる音は完全4度と完全5度。そしてその音にはさまれて、一番ハモらない音程があるんだから。

 ではここで、完全音程、長音程、短音程、増音程、減音程の関係をまとめてみよう。

図表_17_04

 つまり「長4度」とか「完全3度」という言葉は無い、ということだね。

質問_2020012309260000

 減1度というのは無いよ。

 「減1度」という言葉を載せている本もあるけど、僕は「完全1度よりも狭い音程は無い」という考えなんだ。なぜって、音程というのは音と音の離れ具合、距離をあらわしたものなんだよ。
 たとえば、実際の場所で考えてみよう。きみの家に僕が向かっていたとするよ。どんどん近付いて、10メートル、5メートル、1メートルとなって、最後には0メートルになる。そして僕がきみの家を素通りしちゃったとしよう。マイナス1メートル…? 違うよね、今度はどんどん離れていくんだ。1メートル、2メートル、3メートル…。
 音程だって同じだよ。完全1度よりも縮まった音程、それは結局、増1度ってことなんだ。

ピアノの鍵盤_17_05

 というわけで、今回は増音程と減音程を勉強したよ。
 次回は音程についての補講をはさんで、その後は調律に関するお話をちょっとしようと思ってるよ。お楽しみにね。

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