第22.6回 【補講】音価を基準にしない拍子に触れてみよう
📚[🧩様式論]拍子、メフテル、フォルクローレ
📚[🏺民俗音楽学]拍子、日本、トルコ音楽、フォルクローレ
答えを先に言っちゃうと、混合拍子ではないよ。
そもそも、第22回や第22.2回で取り上げたものとは別の考え方の拍子だと言えるかもしれないね。
三三七拍子というのは応援などに使われる日本のリズムで、これまでに勉強した記譜法で書くならば、例えばこんな感じになるもののことだよ。
この楽譜を見てもわかるように、4拍子系のリズムなんだけど、3拍目、3拍目、7拍目がそれぞれ長い音価になっているところに注目してね。
これまでに勉強してきた音楽理論は、基本的には、「西洋音楽(せいようおんがく)」と呼ばれるヨーロッパで発展してきたものを中心にしたものなんだ。そして、三三七拍子のように基準となる音価が変化する拍子は、原則として近代以降の西洋音楽の理論には含まれないものでもあるんだよ。
だけど、こういった西洋音楽のものとは違う拍子の考え方は、じつは世界のあちこちにあってね、この三三七拍子に似たものには、トルコ音楽の「メフテル」と呼ばれる様式なんかが挙げられるよ。
「メフテル」は今のトルコを中心とした地域にあったオスマン帝国の軍隊音楽の様式で行進曲なんだ。
モーツァルトさんやベートーヴェンさんの「トルコ行進曲」は、じつはこの様式に影響を受けて作られた曲だよ。18世紀後半のヨーロッパではメフテル様式が流行して、「トルコ行進曲」という名前の付けられた曲がいくつも作られたんだ。
そんなメフテルだけど、トルコ音楽ではこのリズムを3拍子として取るんだ。
3拍目が長いリズムになっているのがわかるかな。
行進曲と言ったけれど、もともとは3歩目で足を揃えて踏みとどまるものだったみたいで、今でもトルコ式の指揮法では3拍目を長く振る「3拍子」として扱うことがあるよ。
こんなふうに西洋音楽とは異なる拍子の音楽で、みんなもよく知ってるもののひとつに南米音楽の『コンドルは飛んでいく』があるかな。
ポール・サイモンさんとアート・ガーファンクルさんのフォークソングとして有名だけど、もともとは南米アンデス地方に伝わる音楽で、ペルーの音楽家、ダニエル・ロブレスさんがオペラ曲に取り込んだことが世界に広まったきっかけだと言われているから、1900年代のはじめ頃にはすでにあった曲ってことになるね。
アンデス地方の音楽のことを「フォルクローレ」と呼ぶんだけど、この様式もまた3拍子でとるのが特徴なんだ。だけどこれは三三七拍子ともメフテルとも違って、こんなふうにとるんだ。
うん、まぁそうだね。
でも、こういう民俗的な音楽は西洋音楽の理論がそのまま使えないことが多いんだ。
例えばこんなリズムを聴いたことはないかな。
フォルクローレ様式でよく使われるリズムのひとつなんだけど、このリズムを『コンドルは飛んでいく』にのせてみると、こんな感じになるよね。
特に何のへんてつもない楽譜に見えるし、やっぱり何のへんてつもない音楽なんだけど、南米独特の拍子のとり方を書くと、こんな感じになるんだよ。
3拍目だけ、ほんの少し短いのがわかるかな。
西洋音楽の考え方では「1.5拍+1.5拍+1拍」、または「附点四分音符+附点四分音符+四分音符」になるんだけど、フォルクローレから見ると、これを三連符と同じもの、より正確に言えば、これが三連符というもの、と考えることになるんだ。
西洋音楽の楽理は西洋音楽の世界で作られたものだから、西洋音楽の構造から説明しているんだ。当たり前だけどね。
でも世界には西洋音楽以外の音楽や考え方もたくさんあって、そういったものには西洋音楽の考え方がそのままでは通用しないことも多いんだ。
日本の「三三七拍子」というものも、そういった日本独自のリズムや拍子のとり方から作られているもので、だから西洋音楽から見れば4拍子系になるんだけど、日本のリズム感から見たら、あれは「3拍子+3拍子+7拍子」と考えるべき、ということになるし、西洋音楽とは別のものだから混合拍子でもないんだ。
というわけで拍子のお話はこれで一旦終わるよ。
次回は第22回でも少しだけ触れた、音の強弱について勉強してみよう。
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