見出し画像

『普請中』(ふしんちゅう)

『普請中』(ふしんちゅう)
森鴎外著

実録版、その後の『舞姫』と言われている作品。エリス来日の時にあったかもしれない話だと言われている。

登場人物はドイツ人女性と日本の官僚(渡辺)。渡辺がドイツに留学していた時、二人は恋人同士だったという設定。

普請中(改装中)のホテルで会食する二人なのだけど、男性の態度は冷ややか。そして、そのまま、女性は旅立っていく。という話。

物語のシーンとしては、それだけなのだけど(十ページ程度の超短編)、背景を考えるとなかなか感慨深いものを感じた。

『舞姫』で、豊太郎がドイツに置き去りにしたエリスは、実在していて、森鴎外が、帰国すると同時期に実は日本に来ている。現実のエリスは、日本で、森鴎外の家族には、受け入れられず、帰国させられてしまう。そのことについて、森鴎外としては、罪の意識を持っていることを表現しようとして冷酷な官僚の渡辺を表したのだと思うと、なかなか、心が痛む。物語を文字通り読むと、酷いやつだなあと思ってしまうが。


エリスほ、築地西洋軒(物語では、精養軒ホテル)に泊まっていたらしく、森鴎外とも会っていたらしい。



築地西洋軒の跡地には、現在、時事通信社のビルが建っているとのこと。

"普請中"とは、改装中という意味なのだけど、日本そのものが、改装中であり、ホテルも改装中であり、森鴎外自身も改装中ということで、恋愛している状況ではなかったと言い訳をしているのかなあと思った。

物語の中で官僚の渡辺は、日本(自分自身を含めて)は、ペリシテ人(聖書的には、野蛮な民族で、ユダヤ人を迫害する)だとして卑下しているようには、思った。高級官僚という立場もあるし、日本に帰ってみると、とても自由恋愛はできないと感じたのかもしれない。

とことんずるい人間を描いて、原罪を表しているのではないか?と勝手に思ってしまったが、現実は、どうだったのだろうね?

『イフ』アート・テイタム

この記事が参加している募集

読書感想文

この経験に学べ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?