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「子供の相手が30分持たない」という発言について思うこと

「ににんがし、にさんがろく……」

日本で暮らすほとんどの人は、小学校のころに、九九を覚えた人と思う。
もちろん私もそうだった。
帰りの会のあと、教卓に立っている先生の前に、ランドセルを背負って一列に並ぶ。その日習ったところまでを全部言う。最初は2の段、次は2の段と3の段、最後は九九全部を言う。
全部言えた子は帰っていい。間違えるとまた列の最後に並ぶ。(今ならやっちゃダメなやつかな……)全部言えないと帰れない。

毎日少しずつ、新しい段を覚えていく。
どうしても苦手だったのは、7の段だった。7×6が=42だったか、56だったか思い出せないとか、7×9=63がスコンと頭から消えたりした。

でも、毎日、毎日繰り返していると、いつしか九九がスラスラと全部言えるようになった。今になっても7の段はちょっと怪しいが、一応、覚えている。

全国の、昔、小学生だった人は、同じような経験があるのではないだろうか。九九もそうだし、鉄棒を必死で練習した甲斐あって、逆上がりができるようになったとか、飛べなかった跳び箱が飛べるようになったとか、泳げなかったけど、頑張って25メートルが泳げるようになったとか。
初めは、全然できなかったけど、毎日の練習と試行錯誤の結果、できるようになったという経験。
今朝、「誰でも最初は、経験ゼロから始まるんだけどな」と思ったことがあった。

今朝の新聞に、育児中の女性の記者さんが書いたエッセイが掲載されていた。
筆者は育児休業が明けたばかり。ご主人と二人三脚で仕事と育児を両立させておられた。
ご夫婦である取り決めをされた。
週末に、お互い自由時間を半日取ること。つまり、妻が半日間、子供を見て、夫がその間、一人の時間を満喫する。逆に、夫が半日、一人で子供を見て、妻がその間一人の自由時間を好きに使っていいという取り決めだそうだ。

そこで、夫が子供を連れて出かけると、いたるところで「ダンナさんが一人で子供をみてエライね」とか「僕なら30分ももちませんよ。すごいですね」などと言われるらしい。
いつしか、夫のほうも「俺って他の男性ができないことをやってる。すごいんだ」と思うようになってしまったということだ。
筆者の女性記者は、これらのことにモヤモヤするという。
「女性が一人で子供をみてても当たり前で、男性が子供を見ているとエライって言われるのはおかしい」と問題提起をされていた。
うん、うん、よくわかる、と首がちぎれそうなほど、何度もうなずいた。

その中で特に私が気になったのは、男性からの「僕なら30分も持ちませんよ」発言。
筆者の方も書かれていたが、女性が「私、育児は30分持ちません」なんて言えるはずがないのだ。なのに男性の中には軽々しくそう言う人がいる。

30分持たないのは、持たせようと努力していないからではないのだろうか。
できるようにならなくても、妻がなんとかしてくれるという甘えではないのだろうかと思うのだ。

初めて子供を持った人は、誰だって育児初心者だ。
抱っこの仕方も、おむつの変え方もミルクの作り方も、多くの人は教わって初めて知る。それは、父親も母親も同じではないか。ただ、その後、何度も何度も赤ちゃんの要求に応えるという練習を繰り返し、試行錯誤するからできるようになるだけのこと。男性だからできない、やらなくていいというのは、理由にならないんじゃないだろうか。

それは、小学校のころの掛け算の九九を覚えたときと同じだと思う。
先生に「今日は5の段まで言えないと帰れませんよ」と言われるから、必死で覚えて、できるまで繰り返すから言えるようになるのだ。
それに九九を覚えなければ、その先の割り算も掛け算も分数や少数の計算だってできなくなる。
買い物に行って、自分がいったいいくらの買い物をしているのか、いくら割引してもらえるのかという計算だってできない。それは、この社会で生きていくのにも結構不便だ。だから九九を覚える。先生も親も覚えさせようとしてくれる。
そのうち、7×6が56か42か分からなくなっても、6×7=42だと知っていれば答えられるとか、いろんな知恵がついて、なんとかできるようになるものだ。

「僕は、子供の相手は30分持ちませんよ」というのは「九九が4の段までしかいえないんですよ」と言うのと同じのような気がする。
他の人が九九を全部言えるように、毎日努力してきたことを、してこなかっただけ。
なんの自慢にもならないと思うのだが。

もちろん、夫が育児をしなくても、奥さんや祖父母が十分子供の面倒をみてくれるような環境で暮らしているのかもしれないし、子供と一緒に暮らせないような事情がおありの方かもしれない。

でも、夫婦二人三脚で育児に取り組まれているご家庭の、男性側の「30分持たない」発言は、これからの時代、ちょっと恥ずかしいんじゃないかなと思う。

本当のことを言えば、私も子供の相手は30分持たないほうの人間だ。
1対1での子供の相手はちょっと苦手。
ままごとに延々と付き合うのも苦手だし、子供のわからんちんな会話に付き合うのも苦手だ。
こんな人間が、偉そうに育児論なんか言ってんじゃないよと叱られるかもしれない。
でも、それでも親は育児放棄できないのだ。
とりあえず、ミルクやおむつ替えは、数々の失敗を繰り返し、試行錯誤の果てに、なんとかできるようになった。抱っこだって、周りから見ると相当危なっかしいと言われながらも、落っことさずにやってきた。
1対1では間が持たないので、いろんなところへ連れ出した。
ママ友のところ、妹のところ、独身で、子供のいない友人とのお出かけにも(友人の許可を得て)連れて行ったし、町の子供向け無料イベントにもよく連れて行った。ショッピングモールのヒーローショーには助けられたし、友人が仕事で関わっているイベントなんかにも無理やり連れて行ったことがある。まあ、そんなこんなで、暇な時間を乗り切ってきた。うちでは夫も同じようなことをして、子供との暇をつぶしていたなあ。

だから、「30分持たない」と思っている育児中の皆さん、やってみたら意外になんとかなるものです。
せっかくだから、九九は9の段まで言えるようになりましょうよ!

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