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最後の言葉をなんて書く?

残された人に、どんな言葉をかけるだろうか?

先日、生命保険を掛け替えた。

私の生命保険は、私が学生の頃に、実家の母が知り合いの保険屋さんに頼まれて加入したものだ。入院は5日目からしかもらえないし、がん保険もない。

夫の生命保険は、息子がお腹にいたときに、慌てて入ったもの。
夫は、20代のころから尿酸値が高くて、それを抑える薬を飲んでいる。そのせいで、一般的な生命保険に加入することができず、探し回ってなんとか入れる保険を見つけ、内容もよく確認しないまま加入した。
掛け捨てなのに保険料がべらぼうに高い。

思いがけず、友達の紹介で保険の営業さんを紹介してもらい、保険や資産運用のいろはから教えてもらうことができた。
夫ともども納得できる生命保険を見つけ、加入することができた。

契約の最後に、営業さんからお願いされた。
彼が取り出したのは、白い便箋と封筒。
「死亡保険をご家族が受け取るときは、お二人のどちらかに万が一が起きたときです。そのときに、ご家族に残す言葉を書いておいてください」

手紙を書く理由を説明してくれた。
死亡保険を受け取った遺族は、その保険金を5年以内に使い切ってしまうという統計があるそうだ 。
想像してほしい。自分の手元に、どんと数千万円のお金が振り込まれるところを。どう使いたいだろうか。海外旅行? それともブランドバッグ? ローンの返済? 
保険金を手にした人は、まるで宝くじにでも当たったかのような錯覚に陥るらしい。その原資が家族が、自分が死んだ後、家族の生活を思いやって残した愛だったとしても。
「ちょっとくらいなら」と、贅沢した結果が、「5年以内に使い切る」という結末に。
でも、考えてみよう。
あなたが、3000万円の死亡保険に入っているとしよう。
年収が800万円のサラリーマンなら、税金や社会保険を差し引くと、だいたい手取りは600万円程度ではないだろうか。
そういう人なら、5年あれば、3000万円稼ぎ出せるということ。
逆を言えば、手取り600万円を稼いでいた家族が亡くなって、その所得を補填するために掛けられた保険金3000万円は、今まで通りの暮らしをすれば、だいたい5年で使い切ってしまうということだ。
それを、宝くじに当たった気持ちで旅行だ、ブランドものだと使えば、5年よりずっと短い、多分2、3年でなくなってしまうのは明白。

怖いのは、ここからだ。
ちょっとハイクラスの生活を知ってしまった家族は、生活水準を下げられなくなっている。でも保険金は使い切った。そうするとどうなるか。
あなたのお見込みどおり。
手元にあった貯金を崩したり、最悪は借金したりするようになるのだ。
恐ろしい……

「ルミさん、やりそう……」
隣で一緒に話を聞いていた夫がぼそっと言う。おい!

ということで、渡された白い便箋に、家族へ宛てた手紙を書かねばならないのだ。
「できるだけ早く、気持ちが冷めないうちに書いてください」
と言われているが、こういうのは照れ臭くていけない。
結婚式の両親への手紙も恥ずかしくて書けなかった女だよ、私。

それに加えて、
「お前ら、この金をいい加減に使うなよ」
と釘を刺さねばならないのだから、難易度が高い。

何を書いても、本心でないような気がして、まだ書けずにいる。

いっそ、そのまま、

お前ら、この金をぞんざいに使ったら、化けて出るからな!

とでも書けば、一番私らしいかもしれない。

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