見出し画像

我が家の味になるものは

「ママ、朝ごはん何時ー?」
娘の声をベットの中から受け止める土曜の朝。

「ううん、8時かなあ」
と、適当な返事をしてから時計を見るともう7時半。
「あと半時間」
布団の中で雨音に耳を傾けながら、Twitterやnote、寝て言いる間に届いた友達からのLINEを見ながら、朝ごはんの献立を考える。

冷蔵庫のあれとあれと、昨日買った卵とパンで……よし、決まり。

のっそり布団から這い出して、階下に降りる。

娘は、夫と義父のところに遊びにいくため、朝シャン中(言い方が古い)
息子は、近所の私の実家(彼のセカンドハウス)に居候中。今朝は3人。

冷蔵庫を開けて、じゃがいも2個、使いかけのにんじんと玉ねぎを取り出す。ドアを閉めかけて、袋に入ったままのアスパラガスが目に付く。お弁当の付け合わせにしようと買って、使わずに眠っていたやつ。しなびた様子もなく元気なアスパラ。よし、これも使おうか。

今朝のメイディッシュは、塩梅かもめさんのトルティージャ。

じゃがいもとにんじん、玉ねぎをスライスする。アスパラガスは軸の固い皮を皮むき器でむいて、斜めにカットする。
薄くスライスしたほうが火の通りが早いので、時間のない朝ごはん向き。
慎重に慎重に薄く切っていく。先週、包丁を研ぎに出したので、今、包丁の切れ味がマックスで抜群。ちょっと包丁の刃が手に触れただけで手を怪我する。既に2回切っている。切れ味がいいので治りも早いが、やはり流血は避けたい。

デパートの特設会場に年に数回、大阪堺の刃物専門店の職人さんがやってきて、刃物の展示販売をやっている。そこで刃物を一本数百円で研いでくれるサービスがある。
自分で研ぐ方法を知らないわけではないけれど、やはりプロの職人さんに研いでもらった包丁の切れ味が格別。トマトに刃を当てた途端、もう切れている。切りにくい鶏肉だって、しゅっと切れる。ストレスフリー。
いけないとわかっていながら,、つい包丁を濡れたまま放置して、刃にサビが出てしまっても、きれいに研いで元通りにしてくださるのは、本当にありがたい。
それがもうすぐ、してもらえなくなる。8月末で、デパートが閉店することになったからだ。
次からは、包丁を大阪堺のお店に郵送して研いでもらうことになりそう。
野菜を切りながら、キッチンに貼ってある職人さんからいただいたお店の名刺に目を向ける。職人さんが私の包丁の柄を見て、「食洗機にかけないでください。刃も柄もダメになりますよ」なんて叱ってくれるのも、うれしかったのにな。残念。これもソーシャルディスタンスと言えるかも……いや、エコノミックディスタンスか……

20センチの小ぶりのフライパンを取り出す。ニトリで700円くらいで買ったIHコンロ用のやつ。安いフライパンなのにとても丈夫。弱いやつだとIHコンロのパワーに負けて、底が浮いてきたり、テフロンがはげたりするけれど、ニトリのフライパンは強い。

そのフライパンの底全体にまんべんなくオリーブオイルを注ぐ。普段の炒め物より多め。いいよね、オリーブオイルは体にいいもの。

野菜を一気にフライパンへ投入すると、「ジュッーー」と気持ちのいい音がする。薄く切ったじゃがいもが透明になるまで炒め、卵4個を投入。
蓋をして、野菜にしっかり火を通す。

写真 2020-07-04 7 58 49

「コーヒーしないの?」
夫がキッチンへやってきた。昨日、在宅勤務中に飲んだマイボトルを流しで洗いながら聞いてくる。
「するよ。豆出して、お湯沸かして」
夫がいそいそと電気ポットをセットして、冷蔵庫から100円ショップの瓶に入れたコーヒー豆を出してくる。この瓶に入れたのは失敗だった。蓋がおそろしく固い。どんなに緩く締めて片付けても、次に開けようとすると絶対開かない。毎回、夫か息子に開けてもらうことになる。自分に筋力がないからでもあるけれど。年寄りになって一人暮らしになったら、いろんなものが開けられなくなりそうで怖くなる。ちゃんと筋トレしよう。あと、もっとおしゃれな雑貨屋さんの瓶を買ってこようと心にメモする。

同時に私がコーヒーミルとコーヒーフィルターなどを用意。
不思議なものだ。コーヒーを豆から挽いて家で飲むことなんか一生ないと思っていたのに、すっかり楽しみになっていて、習慣になっている。
去年のnote酒場でマリナ油森ちゃんから自家焙煎のコーヒー豆を頂いたから始められた楽しみ。ミルがないからと豆をもらわなかったら、今の習慣はなかったんだね。

写真 2020-07-04 8 08 03


さて、のんびりしていたらトルティージャが焦げそう。
お皿を使って、ペロンとひっくり返す。ちょっと焦げたけどご愛敬。

いよいよ、ラストスパート。
食パンをトースターへイン。3分半セット。
食パンはパスコの「超熟」一点買い。もっちり感と焼いても固くなりにくいのがいい。厚みは5枚切りか6枚切り。関東には5枚切りがない代わりに、8枚切りがあるんだそう。ふむふむさんから教わりました。

5枚切りのいいところは、半分にスライスするとホットサンドにちょうどいい厚みになるところ。とりあえず5枚切りを買っておけば、その日の気分で普通のトーストでもホットサンドにもできる。気まぐれな自分に合っている厚み。

トルティージャが完成。お皿に盛って、6等分にカット。正6角形の頂点を目指すが失敗。包丁の切れ味は関係ない。

「ごはんできたー?」娘が濡れた髪にタオルを載せてやってくる。
「お、オムレツ。やったー」と一瞬はしゃいだ声を上げたが、次の瞬間には、「目が腫れた」と言いながら冷凍庫から保冷剤を出して当てている。「ほら、見て見て」と見せてくれるが、どこが腫れているのか一向に分からない。「なんでわかんないのよう」ぷりぷり怒りだすので、「ほら、何飲む? ホットミルク? ココア?」「ココアー」よし、気をそらす作戦成功。挽き終えたコーヒー豆をドリッパーにセットしたまま、急いで牛乳を娘のマグカップについで、レンジで1分10秒、スタート。

夫が沸かした電気ポットのお湯をコーヒーに注ぐ。
ほわほわと豆が泡立って、大好きなブレンドコーヒーの香りが立ち上る。これこれ。何度やっても癒される。
お湯がポットに落ちるにコポコポという音に合わせて、泡がじゅわっと消えていく。消え切らないうちに、ふたたびお湯を注ぐ。先ほどではないけれど、また、ほわっと泡が立つ。

何度目かの泡を見つめていると、
「チン!」
トーストが焼けた。いつもより焦げ目が濃い。きつね色というより、クマさん色。
「焦げとるやん」
トースターからトーストを取り出しながら、夫が言う。
「それくらいがおいしいの!」
言い張る私。ほんとに、これくらいがおいしいんだから。

「ピピピ!」今度は電子レンジの終了の合図。
ターンテーブルからマグカップを取る。
最近のオーブンレンジはターンテーブルがないらしい。知らなかった。だって、うちのは新婚当初に買った20年選手だから。最近スイッチがうまく入らなかったり、温まりがイマイチのときがある。徐々にパワーダウンしているのは、なんだか老化が進行する自分の体と同じな気がして、より愛着が増してしまい、給付金も出たというのに買い換える気になれない。毎朝の弁当作りから夕食の温めまでフル稼働している今の状況で、突然壊れたら不便極まりないのは分かっているんだけれど、どうしても思いきれないまま、今日もうちのオーブンレンジは老体に鞭打って、フル稼働中。お願いだから、踏ん切りがつくまで、もう少し頑張って。

マグカップをキッチンに置くと、娘が冷蔵庫からココアを出してきて、コップに入れる連携プレー。
「うまく混ざらないよ?」
老体レンジの温め力が弱っていたのか、ココアを入れすぎたのか、うまくいかなかったらしく、覗くとココアの玉がぽつぽつとミルクに浮かんでいる。ぶつくさ言いながらも飲んでいるので、被害が広がらないようにそっとしておく。

コーヒーを、私と夫のマグカップに注ぐ。ふうやっとここまで来た。
「お、結構おいしいやん」
クマさん色のトーストをかじる二人が、うなずき合っている。だから、それくらいがおいしいってさっき言いましたよね!
この焦げる寸前の絶妙なクマさん色は、なかなか出ないんだから。
ということで、我が家の占いカウントダウンは、てんびん座・ふたご座・牡羊座ともに1位ということでいいでしょうか。

やっとテーブルにつく。
トーストのお供はそれぞれ。
夫は何もなし。娘はホイップのチョコソース掛け、私は、ホイップの上にあずきバーでおなじみの井村屋のつぶあん、カッテージチーズの上にミックスベリーのジャムのハーフ&ハーフ。
甘&しょっぱいの無限ループコース。ダイエット中でも、朝ごはんのこれくらいは体重に響かないとやっと最近分かってきた。
ホイップとあんこの組み合わせがおいしいと知ったのは、夫と結婚してから。夫が、ホイップとあんこの組み合わせが好きで、「まあ、食べてみ」と言われ食べたら、ハマってしまった。

はい、いただきます。(盛り付けが下手で毎度すみません)

写真 2020-07-04 8 18 18

こう見てみると、我が家のごはんは、いろんな人の知恵を集めて出来上がっているらしい。
かもめさんのトルティージャ、マリナさんのコーヒー、夫のホイップ&あんこ。ほかにも夜ご飯も、お酒もおつまみも、いろんな人から教わって増えてきたものたち。そして、これが我が家の味。
私の子供の頃はまだネット環境はなくて、料理のレシピは母や祖母から教わるか、料理本を読むくらいしかなくて、「家庭の味」は料理担当の母か祖母の味でしかなかったけれど、今はそうじゃない。

ネット上には、料理レシピが星の数ほどあって、料理専門のテレビチャンネルやYouTubeチャンネルがあって、SNSのおかげで知り合う人が多くなって、教わる料理もたくさんあって、母や祖母から教わった料理より、そういうところから教わる料理のほうが家族の口に合っていたりすることも多い。
お酒を飲まない母から、おつまみ料理を学ぶことはないから、ネットや本から独学でレシピを蓄積している。
もちろん、母から教わった料理も我が家の定番としてあるし、祖母が作っていた素朴なおやつは、今も食べたくなるものリストにランクインしているけれど。

うちの子供たちの心に残る「家庭の味」は一体何になるのだろう。
かもめさんに教わったトルティージャだろうか、別の人から教わったハンバーグだろうか、私が母から教わった料理だろうか。

でも、それのどれであれ、親が作っておいしく食べていたものであることは、今も昔も変わらない。

今日もごちそうさま。




サポートいただけると、明日への励みなります。