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【リサーチ旅・長野①】なぜここに美空ひばりの歌碑が?児童文学作家と昭和の歌姫の意外な交遊録

美空ひばりさんの曲を冠した歌碑が全国8か所に存在する。その曲の舞台にまつわる「場所」だったり、ひばりさんが実際に訪れた「ゆかりの地」に歌碑が建つのは納得できるが、一か所だけどうしても「なぜここに?」とひっかかる場所があった。長野県だ。ひばりさんと長野の関連について調べたが、そこまで深いエピソードは出てこない。他の7か所のリサーチは順調に進んでいく中、ここだけがどうしても腑に落ちない。

というのも、長野県にあるひばりさんの歌碑は「歌の里」という曲。知る人ぞ知ると言いたいところだが、ファンの中でも知っている人はまれなのでは?と思うくらい、埋もれた作品だ。なぜ、他の有名曲を差し置いてまで、この曲の歌碑が建てられたのか?別の目線で考えてみることにした。長野という「場所」から調べるんじゃなく、例えば作詞・作曲者のゆかりの地とか?

「歌の里」の制作者を検索すると、作曲「船村徹」作詞「小沢ソウ」とある。船村先生はもちろん存じ上げているが、出身地は栃木だ。となると、小沢ソウ?こちらは聞いたことのない名前だった。JASRACで検索しても、ひばり作品の中でこの名義での著作は一つしかなかった。ここまで名前が出てこなければ、誰か有名な作詞家のペンネームなんだろうか?

調べても調べても出てこない。それもそのはず、この小沢ソウという人物は「歌の里」の歌碑が建立された長野県「美空ひばり歌の里」資料館の館長、小沢さとし氏のペンネームだったのだ。灯台下暗し。それにしても、ようやく面白そうな情報を見つけた!リサーチャー心をくすぐる”謎解き”の始まりだ。

さっそく「歌の里資料館」の小沢氏に電話をかけた。閉館間際、夕方頃に電話が繋がった。なんとも腰の低い方で、ここで詳しく話すよりも「この本を読んでみてください」と、自身が著した本を送ってくださった。「もうひとりの美空ひばり」小沢氏とひばりさんの知られざる交遊録をつづった記録だ。

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小沢氏は長野県生まれの児童文学作家。
中学生の頃、一つ年上の少女「美空ひばり」の姿を一目見たいと思い、授業をボイコットして映画「リンゴ園の少女」を観に行って以来、ファンとなったと、イキイキとした弾んだ声で話してくれた。

昭和47年6月、小沢聡「青空大将」で日本児童文芸の第1回新人賞を受賞。
当時、小沢さんは35歳。出版社である「月報産経出版社」の企画で、憧れの芸能人との対談を申し込めることになり、ひばりさんを指名したところ、運よく夢が叶ったというわけだ。
その時に、憧れのひばりさんが“いつまでも頑張りましょう。今日の我れに明日は勝つ‼”と、レコードジャケットに署名してくれたという。さらに別れ際、電話番号まで渡してくれた。

なぜ、新人賞を受賞したばかりの名もない若手作家に、そこまでよくしてくれたのか?これは小沢氏の推測だが、当時ひばりさんは家庭の問題で心身ともに疲弊し、淋しく、その穴を埋めてくれる”仕事を抜きにした友人”が欲しかったのではないか、と。二人の間では、当時の心境をつづった手紙のやりとりもあったそうだ。
小沢氏としては「これは現実ではない」と夢心地の一方で、「珍しい友人ができた」という思いもあった。昭和の歌姫・美空ひばり、ではなく、加藤和枝さんとして接することを望むなら、それに応えようと。

当時のひばりさんの心境を思って小沢氏が書いた詩がある。それを手紙に添えたところ、なんと船村先生が曲を付けて作品に仕上がったというから、人生とは分からないものだ。

先述の小沢氏の著書にはこう記してある。

”昭和50年の暮頃だったと思います。ある日、美空ひばりさんから電話がかかってきました。「明日、午後、歌の吹き込みをやりますから、赤坂のコロムビアまできてください、必ずね」
(中略)

ひばりさんは少し遅れて着いた私の顔を見るなり
「遅かったじゃないの、私も一生懸命に歌うんだから、あなたもしっかり書いてよ」やがてガラス越しの部屋で、新曲のレコーディングが始まりました。しばらく、じっと耳を澄ましていた私ですが、突然体中に衝撃が走りました。なんと、その時ひばりさんがうたっていた歌の詩は、前に私がひばりさんへの手紙の中に書いて送った「歌の里」という詩だったのです。
その詩に船村徹が曲をつけて、その日のレコーディングとなっていたのでした。”

これで、長野県と「歌の里」の繋がりが分かった。では、もう一つの謎解き。なぜ歌碑を建てたのか?この話は、また書きます。



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