皐月の風は君の髪を揺らして

空が青く青くなって、太陽の光が、世界の彩度を鮮明に映している。
バスの窓から見えた名前も知らない葉っぱたちが、ガラスのようにぴかぴかと光って薫風に遊ばれている。
君に出逢えたおかげで、好きになれた季節。

バスから降りればそこは知らない街で、全てが新鮮に映る。私の知らない街。私を知らない街。それなのに、知っている夕焼けが空を覆って、私を守っている。
ひとりぼっちだけど、ひとりぼっちだから、ひとりぼっちでも、

迷い込んだホテル街を逃げるように走り抜けた。辺りは薄暗くて、駅前の明るい記憶ががより一層眩しく映った。
君と私にしかわからない言葉で喋ろうよ。君は、君はどこにいるんだろう。こんなに好きなのに、の呪いで離れていく心のこと、触れたくない君のコアが、紙ペラになっていく現実。
君の細くて真っ直ぐな髪が、皐月の風に揺られているところが見たかったな。目の前を走っていく君の通り風に、私の髪がなびく一瞬を、ずっと大切にしてみたい。
5月は君の気配を纏っている。

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