はる なつ あきふゆ

 私、冬って好きじゃない。昼間が短いじゃない。もっと青い空を見ていたいもの。
そう言いながら月を指さして、見て、綺麗。と笑ったあなたを、今も思い出す。あの日のこと、覚えていますか。覚えてないか。14歳の頃のことだもの。
あなたは今も、あなたの優しさに傷つけられているのだろうか。いつだって、あなたの幸せを願っています。あなたが笑えない世界は、少しおかしい。あなたを見ていると、世界は優しい人から笑えなくなっていくようにできているんだと、そんなことを考えたりした。
私もあなたも、夏が好きだったよね。それなのに、冬のことばかり覚えてる。寒いね、って言い合って、それでも2人、話すのをやめなかった。また明日ね、で今日もばいばい。だけど、もう少し今日でいようよ。あなたの手袋を片方借りて、暖かいね、って笑いあって、本当に、永遠だと思ったよ。きっとあなたもそうだった。

 20歳の春になったら、またここで。坂の下の小さな公園、埋めた手紙と2人の写真。今もあの公園に埋まっているだろうか。私たちが大人になるまで、あの公園は残っているだろうか。あの日書いた手紙のことは、実は少しも覚えてない。でも、約束を忘れたことは一瞬たりともない。あなたは覚えているのかな。桜の降る公園で、また終わりのない話をして、それでもあの日に夜は来た。私たちの帰り道にも、終わりがあったね。当たり前のこと、どうしても信じられなかった。あの最後の日、長いねって言い合った坂道が、本当にいつまでも続いてくれたら良かったのに。いつまでも、いつまでも、ずっと手を振れずに。

 面白くないことで笑えない私たちのこと、守れるのは私たちだけだったから。あなたが貸してくれるハンカチは、いつでも優しく私の涙を拭った。
「私が苦しむのと、あなたが苦しむのでは話が違うんだ」
あなたの言葉が今も響いている。

 あの坂の上とも、さようならだ。落ち葉を鳴らして歩いた道は、いつもあっという間だった。2人並んで見た夕日。くだらない影絵。たまに歌って、笑って、泣いて、繰り返しの毎日。いつまでも思い出せるよ。
陰口まみれの教室を逃げ出して、音のしないどこかでうずくまった。あなたとの帰り道のために。日記に書いたあなたの笑顔は、今は別の誰かの特別でいてくれているだろうか。

 ふと空を見上げた時、あなたも、私を思い出してくれるだろうか。

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